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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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魔人の封印

『ますたー!おきて!!』

カップは一生懸命、川畑を起こそうとしたが、撃たれた川畑はぐったりしたままだった。


男は川畑を保安部のリンツと一緒に、補修用の粘着テープで拘束し、奥の壁際でなにやらしたあと、フロアを立ち去った。


カップは川畑を起こす方法を必死に考えた。最初に武器を持っていた人は、あの武器では体が動かなくなるだけで、時間がたてば元に戻ると言っていたが、どれだけ時間がかかるかカップにはわからなかった。

『どうしよう。もうすこしようすをみようかな?』

カップは男が何かしていた壁の方に行ってみた。壁には粘着テープで何かが張り付けてあった。四角い箱のようなそれの端には、小さな表示画面がついていて、カップにはわからない文字が数個並んでいた。

『なんだろう?』

一番端の文字は一定時間毎に変わるようだった。しばらく見ていると、その隣の文字も変わった。

カップは箱をトントン叩いてみたが、叩いても文字の変化に影響はなかった。

『ますたーにきかないと、わかんない』

カップは男が、アメのようなものを食べれば治ると言っていたのを思い出した。

『あのいれもの、どこにとんでったかな?』

カップは、大きなネットや丸や四角の変なものが浮かんだ間を飛んで、薬が入った小さなケースを探した。


『あった!』

カップはケースを抱えて川畑のそばに戻った。

『ますたー、これたべて!』

ケースから錠剤を取り出してはみたものの、ぐったりしたままの川畑は食べてくれなさそうだった。

『どうしよう……そうだ!』

カップは大きく口を開けると、薬にかじりついた。カップの摂取した物体は川畑の体内に転送された。




『ますたー!おきて!!』

カップの声でうっすらと意識が戻ってくる。

「う……」

まだ麻痺弾が効いているのか、体全体にうまく力が入らない。周囲の状況はよくわからないが、まだ意識が戻っていない保安係と一緒に拘束されて、粘着テープで床に貼り付けられているようだった。

『ますたー、おきた?だいじょうぶ?』

『……奴はどうした』

『あいつはもういっちゃったよ。なんかヘンなのを、あっちのかべにはりつけていった』

『どんなのだ。見せてくれ』

カップは壁際に行って、変な四角いものをじっと見た。

カップと視野を共有した川畑はうめいた。

『時限爆弾?……古典的過ぎだろ』

残り時間は絶望的に少なかった。




「(転移するには、まずテープを剥がさないと、粘着層に転移面が差し込めない)」

川畑は体を床に貼り付けている粘着テープを剥がそうと試みた。かなり粘着力が強いテープらしく、麻痺の残った体では無理だった。

『精霊力と違って理力は属性変換が効かないから、いつもの凍結爆散もできないし』

『どうする?ますたー?』

『少々、禁じ手だがこの際仕方がない』

川畑は自分の愛用のカッターナイフを手元に転移させた。手首はひとまとめにくくられているが、刃先を出すぐらいはできる。

『神が殺せるんだから、粘着テープぐらい切れるだろう。カップ、このカッターナイフで壁のあれの粘着テープを切ってくれ』

『あいさー』

カップはカッターナイフを抱えて壁際に飛んでいった。

『赤の点線で示したところを切れ』

共有している視覚にガイド表示を入れる。カップは入れられた線にそってカッターの刃を動かした。

『よいしょ』

『力いれろ。もう一ヶ所』

『うんしょ』

『箱を引っ張ってみろ』

『ナイフはおいといてっと……えいっ、はがれろこいつ!うりゃ!とう!』

カップは壁に足を踏ん張って、粘着テープに切れ目の入った箱を引き剥がそうと奮闘した。

『ヤバい、時間がない。カップ、そいつから離れろ!』

『あともうすこし……うーんしょ。とれた!!!』


激しい振動が船を襲った。




乗員用のエレベーターから降りたとたんに、衝撃に見舞われたダーリング船長は、低重力階層のエレベーターホールの壁を蹴って体勢を立て直した。

「爆発音?どこだ」

現状確認のため船橋に連絡を取ろうとして、個人端末の通信回線がジャンプ前の制限中であることに気づいた。アクティビティの受付ならスタッフ用の有線回線の端末があったはずだと思い付いて、職員用通路を急ぐ。

「明かりがない?」

"ウイングアスレチック"のエリアは暗く、静まり返っていた。


船長は、保安スタッフと乗客のトラブルを止めるようとして船橋を出たが、彼がトレーニングルームに着いたときには、二人はすでに移動してしまっていた。この"ウイングアスレチック"エリアの利用申請が出ていると聞いて、上がってきたのだが、人の姿は見当たらない。


船長は軽く跳躍して受付カウンターを乗り越えた。

船橋(ブリッジ)、ダーリングだ。03-1区で爆発音が聞こえた。何があった?」

スタッフ用端末から船橋(ブリッジ)を呼び出していると、背後から声が聞こえた。

「ダーリングさん、助けてくれ!」

カウンターの影になる位置には、粘着テープで拘束された二人の姿があった。




くぐもった轟音と同時に、劇場は非常灯に切り替わった。

MMの隣で、彼の雇い主がするりと席を抜け出して行った。

客席のざわめきに被さるように、警報音と自動メッセージが流れる。落ち着いてその場で待機し係員の指示に従うように促すアナウンスを聞きながら、MMは隣の女の子達に笑顔を向けた。

「何があったんだろうね。まぁ、気密は異常ないし、落ち着いていこうか」

劇場スタッフと自動誘導機が客席をブロックに分けて、避難指示を出し始めた。


その時、横向きのGがかかって、固定されていないすべてのものが、壁に向かって落下した。




「なぜ加速を……くそっ」

船長はカウンターに捕まって、横滑りする体を支えた。

船長と床に貼り付けられたままの川畑達の脇を、固定されていない備品が雪崩落ちていく。落下物の衝突音が響く背景で、何かが大きく壊れた不吉な音がして、構造材が震えた。


カウンターの端末から、ブリッジクルーらしき声が聞こえた。

「"船長!ご無事ですか?返事をしてください!爆発及び本加速の原因は調査中!爆発で第20スポーク破損。現在、第20区のみ加速期形態になっています。他のブロックは通常形態で加速がかかり各所で被害が発生しています。20区の爆発でハブの機構が動作しません。20区以外が加速期形態に遷移できません。20区のみが外れているために回転時にハブに負荷がかかりこのままでは危険です。整備班は向かわせました"」

「こちらダーリング。気密の確保は?」

「"気密は確保。20区との連結部は破損しましたが隔壁が作動したようです。各区域の被害状況は不明。確認中ですが、20区との通信が途絶しています。有線回線のケーブルが爆発で損傷したものと思われます"」

「ジャンプシーケンスをオールキャンセル。高次空間通信回線を確保しろ。至急救助要請を。軍にも通報しろ。これは事故ではない」

船長は船橋と現状についていくつかやり取りをし、追加で指示を出すと、すぐに戻ると言って通信を終了した。


「ダーリングさん、早くこのテープを剥がしてくれ!のりこを助けにいかないと」

船長に向かって川畑は叫んだ。

「今は個人で勝手に動かないでくれ。私は戻るが、救助に人をよこす。悪いがそれまではこのままでいてくれ」

「せめて拘束は解いてくれ。こっちの人は撃たれて怪我をしているようだ。傷の程度はわからんが、放置していいかわからない。俺達を拘束した襲撃犯人は武器を携帯。保安係の銃器も奪っている」

「どんな奴だ」

「30代前後の男性、乗員のベージュの制服を着用。やや痩せ気味、栗色の短髪、茶色の目。傷や大きなほくろ等の特徴はなし。だが、見ればわかる」

「戻り次第、手配する」

「ダーリングさん!」

「悪いがこの状況では、私が艦橋に戻ることが最優先だ。それに君を信用できない」

「あーもう!ここで助けてくれたら、協力するし、手札も見せる。明かせる範囲で身元も話すから、さっさとこのテープ剥がしてくれ」

「裏がありますって白状してる奴を野放しにできるか!」

「ちくしょう、正論って腹立つなぁ!助けてくれないなら自重しないぞ」

ダーリングは、耳元で誰かが『それはダメ』と言った気がした。

彼は子供の頃、おとぎ話の主人公が、閉じ込められた悪い精霊を解放するのは、愚かな行為だと思っていた。が、いざ自分がそれと同種の選択を迫られると、なかなか悩ましいものだということがわかった。

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