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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第5章 魔王の倒し方

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招かれざる者

川畑は城壁にロッテの姿を見つけて、その隣に舞い降りた。

「にぎゃああっ!」

「待て、ロッテ。俺だ。ロビンスさん、剣、退いてください」

「脅かすなぁっ!」

「ハーゲン?嘘だろ?」

ロビンスは目を真ん丸にした。

「ロッテ、(オーブ)を最後に見たのはどこだ?あれがいる」

ロッテは異形の白騎士をこわごわ見上げた。

「大きな広間だったわ。洞窟から魔法の扉をくぐってすぐに入ったところ。あなたと会った場所にいくまでに泉水のある中庭と回廊を通ったと思う」

「わかった。ありがとう」


川畑は城壁の先に、さっき服を預けた森番衆の子がいるのに気づいた。弓を射るその足元には、預けた風呂敷包みがあった。

「(風呂敷があると球の持ち運びに便利そうだな)」

川畑は若い森番衆に近づいて声をかけた。

「正確な射撃だな」

「矢が残り少ないから無駄撃ちできな……うわぁ!なんだあんた!?」

異形の甲冑姿にぎょっとした森番衆は、川畑が風呂敷包みを手に取ろうとすると、あわてて止めた。

「待ってくれ。それは大事なあづかりもので、まだ約束の相手に渡していないんだ」

「では、この周りの布だけくれないか?」

「えっ」

「代わりに、これを貸そう。矢の心配をしなくていい」

川畑は、賢者と一緒に調子に乗って作ったオプション装備の1つを取り出した。

「パルスレーザ……んん、じゃなくて、光の矢が出る魔法の武器だ。フル充填なので、矢弾が切れる心配はたぶんしなくていい。この軸に沿って直進するから、こうやって撃て。出てる矢は目で見えないから、射線上に味方や自分を入れるなよ」

川畑は包みの中身と武器を渡して、風呂敷を畳んでしまった。

「えっ、あの、コレ?」

「お前ならできるから使ってみろ。ダメならその服と一緒に置いとけ」

言うだけ言って、川畑は飛翔しようとしたが、すごい勢いで走って来るバスキンを見つけて、その場にとどまった。


「待て!待ってくれ」

「バスキンさん、ちょうどいいところに。これから魔獣の一部を味方に変えます。妖精達の指示で動くようにさせるので、おおむね人の言葉は通じると思ってください。妖精側からの要望は聖堂にいるシャリーが取りまとめます。ああ、そこの子も妖精の言葉は多少聞き取れるんで、側にいてください。長射程の魔法武器渡したので、うまく使ってくれるとありがたいです」

「お、おう」

川畑は、若い森番衆に渡していたオプション武器をひょいと持ち上げ、町の上空に飛んできた魔獣を撃った。魔獣は絶叫して墜落した。

「あれ、思ったより強力だな。減衰しないのか。……まぁ、こんな感じで」

川畑は武器を森番衆に渡した。

「バスキンさん、じゃあこちらは頼みましたよ」

川畑が翼を広げると、バスキンの鎧の一部が川畑の鎧と同じように淡く光った。

「おおう!?」

「あ、すみません。前に借りたときの名残か」

「というと、この手甲の傷は……」

「うわ、ごめんなさい。傷入ってました?後で直します。とりあえず今、光った部分は対魔法防御(マジックコーティング)が効いているので、魔法攻撃があったらそこで防いでください」

川畑はいろいろ追及される前に、その場から飛び立つと、ノリコに連絡をとった。


『制御を取り返した魔獣に妖精達をサポートに付けた。妖精の指示に従うようにコマンドしてみてくれ』

『待って、こいつを倒してから……はい、じゃあ、やってみるね。こんな感じかな』


戦場で停止していた白い魔獣が動き出した。


『できたよ!』

『よし、この要領で味方を増やそう』

『うん』

『カップ、聞こえるか』

『はい、おーさま』

「のりこが持ってる水晶(クリスタル)を持って、最初に俺が妖精王にケンカ吹っ掛けた時の広間に行ってくれ」

『太陽の間かぁ。あとかたづけがたいへんだったとこだね』

『そこに大きな水晶球が落ちているはずだから、見つけて欲しい』

『はーい。あ!おーさま、こっちのイシのカケラだけでもおおきくて、もってとぶのたいへんそう』


川畑は、風呂敷をノリコのいる王の間に転移した。


『この風呂敷に包んで持っていけ』

『はーい』

『カップちゃん、包んであげるね。はいどうぞ』

『わーい、ありがとう。いってきまーす』

『川畑くん、あの風呂敷?どこから持ってきたの?丸にカタカナで"キ"って書いた模様が入ってるけど』

『気にするな。俺達は魔獣を片付けよう』

『はい』


ノリコはカップを見送ると、もう一度、玉座に深く座って目を閉じた。




川畑とノリコは連携して、魔獣を片付けた。

『弱らせるとGetしやすくなるって、ゲームみたいだね』

『タイマンじゃないけどな』


氷片の段幕を一斉射しながら、手近な魔獣をなで斬りにした川畑は、切った魔獣を他の数体が固まった場所に蹴り込んで氷結爆散させた。

ダメージが入って怯んだ魔獣達に二重丸表示を付けると、すっかりコツをつかんだノリコがあっという間に制御を奪ってくれる。白くなった魔獣の頭には、すぐに妖精が乗っかって操った。


『おーさま、カイドウのさきのムラがおそわれそうって』

『わかった、キャップ。増援を出す』


巨人タイプの大型種が派手に転倒した。川畑がそちらを見ると、妖怪じじいが白い虎のような魔獣に乗って巨人の足元から駆け出して、痩身の武人が翼竜風の魔獣の脚に掴まって巨人の首を刈りにいくところだった。

「(師匠達、元気だなぁ)」

川畑はノリコを通じて得ている視覚で、巨人の周りの人と魔獣の配置を確認すると、爆風避けの氷板を幾つか立てつつ、師匠が倒した巨人を爆散させた。


「バカ野郎!ハーゲン、ワシらを殺す気か!?」

「死にそうな人間はちゃんと守ってます」

余波で止まった魔獣をまとめて白くしながら、川畑は叫んだ。

「街道沿いの村が1つピンチです。先生、お願いします」

川畑は飛翔して高度をとると、玉座の広域視覚と高高度からの目視の感覚をシンクロさせて、目分量で師匠達を転移させた。

「(多少の誤差の落下は平気だろう)」


『川畑くん、森からすごい数が来るよ。森産の魔獣はコントロールできないの。どうする?』


川畑は森から出て来る野牛の群れのような魔獣を確認した。


『まとめて"埋める"。丘のラインよりランバー側に味方を下げろ』

『OK』


川畑はヒポグリフモドキの白い魔獣を2頭見つけると、担当妖精に声をかけ、地上に見つけた知り合いの騎士の元に向かった。

「パピシウス、こいつに乗れ。隣の君も」

背中合わせで戦っていた二人の騎士は、突然上空から声をかけられ、驚きの声を上げた。

「えええっ!?その声、ハーゲンさんですか?」

「丘から向こうの魔獣をまとめて攻撃する。丘より向こうに味方がいたら、すぐに下がらせてくれ」

「了解です!……って、羽生えてますよ、この鳥馬。馬具なしで乗れるかなぁ」

パピシウスの隣にいた聖堂騎士は、川畑を見上げて兜の面頬を上げた。

「ハーゲン?あのハーゲンなのか!?」

「ソルか。良かった。お前が一緒なら大丈夫だ。パピシウスは頼りないから頼んだぞ。サポートしてやってくれ」

「あ、ああ。わかった!」

ソルは頬を紅潮させて叫んだ。

「行くぞ、パピシウス」

「待ってください。おおっ飛んだ」

後のことは任せて、川畑はパルム山に転移した。




パルム山は吹雪だった。

いつぞやお世話になった大岩の間に転移した川畑に、一人の妖精がおずおずと声をかけた。

『おーさま、ですか?』

雪割草(モデスタ)ちょうど良かった。今、一番雪が深い谷を教えてくれ。そこの雪がまとめて無くなっても周囲に被害がでないところがいい』

『それなら、このまえ、おーさまがユキをおろしたところがいいです』

『案内してくれ』

『はい』

モデスタを両手でそっと包むと、川畑は吹雪の中に飛び出した。


『のりこ、避難は完了してるか』

『大丈夫』


川畑は慎重に転移させる場所と大きさを決めた。

開け(イフタフヤー)ゴマ(シムシム)

大規模な転移穴が開き、大量の雪がパルム山から迷落の森とランバーの町の間に雪崩落ちた。




「あれを、彼がやっているのか……」

"氷の騎士"と呼ばれたソルは、翼のある魔獣に乗ったまま、丘の向こうを呆然と眺めた。

丘の向こう側は、裂けた天から大量の氷雪が降り注ぎ、真っ白に埋まっていた。

「ああいうのはハーゲンさんに任せて、僕らは僕らにできることをしましょう。ほら、あそこに雪に埋まらなかった奴が来ますよ」

パピシウスに言われて、我に帰ったソルは、慌てて彼の後を追った。




カップは警戒しながら、半開きの扉の奥を覗き込んだ。

薄暗い広間には、誰もいなかった。

少し奥に棺らしき大きな四角い箱のようなものがあり、その向こうに丸いものが落ちていた。

「あった」

慎重に広間を進んで、球に近寄る。

灰色にくすんだ水晶球は、特になんの危険も無さそうに、ただ転がっていた。

カップは、ヒビの入った水晶球を、一度つついて見た。


『おーさま、みつけたよ』

『よし、カップ。そこは太陽の間だといったな。広間の様子をもう一度よく見てくれ』

カップはぐるりを見回した。川畑はカップの視覚を通して、建物の造りを再確認した。


『明かり取りの飾り窓のある辺りの天井の近くに、吊るし燭台みたいなのがあるだろう。それを近くでみたい』

『はーい』


カップは言われた通りに飛んで、吊るされた台座を見た。広間の他の燭台は銀なのに、これだけは金色で、しかも明かりを灯すような形をしていなかった。


『わかった。カップは下に降りて、水晶球を風呂敷に包め』


川畑はちらりと、ノリコの視覚を参照した。ランバーは善戦していたが、想定していたより広範囲に赤い点が広がっている。

「(まずいな)」

そう思ったとき、ふいにおぞましい感覚がした。


『我が妻と玉座を見つけたぞ』


ノリコの目の前に、黒い騎士が立っていた。騎士はノリコに手を伸ばした。黒い甲冑はドロリとした質感で、その表面は、溶けかけてはまた形を取り戻そうとして、たえず蠢いていた。

『きゃぁあああ!』

『のりこぉおおっ!!』


リンクしていた感覚が切れて、視界が戻った。

吹雪が切れて見えた太陽は、真っ黒だった。

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うわー ひどい油断 ハラハラ
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