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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第5章 魔王の倒し方

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白翼の騎士

川畑は、あーでもない、こーでもないと言いながら、賢者のところで妖精王から貰った鎧を魔改造したときのことを思いだした。

80点。と心のなかで鎧を採点する。


翼のある黒馬は、異形の白騎士を乗せてまっすぐに多頭の巨大な魔獣に向かった。


『のりこ、悪い待たせたな』

『大丈夫。でもこいつ死角がなくて攻撃しづらい。こっちに注意を向けさせようとしても他の首が下の人達を狙っちゃって』


鳥頭人身の鳥人を操りながら、ノリコは奮戦していた。鳥人は人よりはかなり大きかったが、多頭の魔獣と比べると明らかに小さく、劣勢だった。


『川畑くん、気をつけて。こいつの頭、1つ落とすと2つ生えてくるから』

『ヒュドラか。それなら切り口を焼けば生えてこなくなるはずだ』

川畑は剣を抜いた。

「(レーザーブレード……火属性魔法仕様)」

サファイアとルビーでできたファンタジーな造りの刀身が、魔力を帯びて輝いた。


川畑は黒い天馬を駆って、多頭水竜(ヒュドラ)の長い首と首の間に突っ込んだ。すり抜け様に、両手で構えた剣の炎のような刀身が伸びる。

首の1本が落ち、ヒュドラは軋るような怪音で鳴いた。

食らいついて来ようとする複数の頭を掻い潜りながら、天馬を小半径で旋回させた。黒い蹄と翼が銀の光の粒子の帯をひく。天駆ける黒馬に跨がった異形の白騎士の周囲から、大量の氷片が発射され、ランダムな軌道を描きながら、ヒュドラの頭部に全弾着弾した。

視界を失ったヒュドラは、絶叫した。


『がんばれ!川畑くん』

『任せろ』


荒れ狂うヒュドラの首を、川畑は確実に落としていった。天馬とは思えない軌道と速度で飛びながら、無数の氷片を乱舞させる姿は、完全に中世ファンタジー枠を逸脱していた。


川畑が最後の首を落とそうとした時、ヒュドラの大きな太い尾が振り上げられた。


『えいっ』


ノリコの操る白い鳥人が、横合いから尻尾にタックルした。

尾はギリギリのところで天馬には当たらず、川畑はヒュドラの最後の首を切り落とした。


『のりこ、そのままジャンプして上からこいつの胴体を思いっきりキックしろ』

『はい!』


川畑はヒュドラの表面を氷結させて、動きを鈍らせ、上空に舞い上がった鳥人に雷系の魔力を付与した。


『のりこ、行っけぇええ!』

『たあぁああっ!』




黒い魔獣の巨体が真っ二つに割れた。片手と片膝を着いた姿勢から鳥頭人身の戦士が立ち上がるのと同時に、割れた巨体が爆散し、その魔力の余波で周囲の魔獣も多数誘爆した。


「なんじゃアレは……」

ボーデン領から来たじいさんは、思わず呟いた。小柄なじいさんと背中合わせで戦っていた痩せぎすの男は、頬骨の高い無精髭の目立つ頬をひきつらせた。

「上から撃ち下ろす力は強い……とはいえ、アレは強すぎる」

唖然として隙ができた二人に四足の魔獣が襲いかかった。


『のりこ、今だ!残った周囲の魔獣の制御を奪うぞ』


ノリコの視野で、鳥人の周囲の赤い点が二重丸表示になった。ノリコが意識を集中すると、次々と赤い表示が緑に変わった。


『やった!できたよ。川畑くん』

『よし、よくやった。まだ個別に動かそうとはしなくていい。まずすべて静止させろ』

『はいっ』


痩身の男が細身の刀を向けたときには、襲いかかってきたはずの魔獣は、動きを止めていた。魔獣の体から黒い力が剥がれ落ち、全身が白く発光した。

黒馬に乗った白騎士が舞い降りた。

「油断とは、らしくないですよ、師匠方」

「お主!ハーゲンか!?」

シワだらけの顔をさらにしわくちゃにして、小柄なじいさんは破顔した。

「頑張ってくださいよ。さっきのみたいなデカブツがまだ2、3体来ます」

「こんなジジイに素手であんなでっかい化け物の相手をさせる気か」

「相手が大きいとか、力が強いというのは、負ける理由にはならないんでしょう?」

「言いおるの。自分は止めを刺しとらんくせに」

妖怪じじいはニタニタ笑いを浮かべた。

「必要なら、師匠方にも相棒をお付けしますよ」

川畑は動きを止めて白くなった魔獣を見た。

「要らんよ。相棒なら間に合っとる」

「2、3体なら早い者勝ちだな」

痩せた男は、じいさんを見た。

「おうよ、西国の」

目があった二人は、同時にうなずいて走り出した。




一旦、迷落の森の迷宮に戻った川畑は、キャップと森の妖精たちをランバーに送り、眠ったエッセルをエルフェンの郷に運んだ。

前回話をしたエルフェンの長老っぽい者にエッセルを預け、同行させた光苔(シストステガ)に事情説明を任せた。

「騎士様、こちらをお持ちください。世界が危機に落ちいったとき、それを救う者に渡すよう定められております」

エルフェンの長老は包みを差し出した。

「魔獣は妖精王の力である日輪の光を浴びると弱体化します。弱いものならそれだけで滅びるでしょう」

「わかった。何とかしてみる。郷の周囲の妖精を借りていくぞ」

「精霊の御心のままに」

エルフェンの長老は深々と礼をした。




ランバーの聖堂で怪我人の手当てを手伝ったり、不安がる人々をなだめていたシャリーは、妖精の気配を感じて顔を上げた。

聖堂の入り口が開き、異形の白騎士が沢山の妖精を連れて入ってきた。

異界から現れたような恐ろしい姿に、聖堂内の人々は息を飲んだ。

まっすぐにシャリーの方に歩いてくる白騎士を止めようと、辛うじて動けた幾人かの護衛官が前に出たが、シャリー自身が彼らを押し退けて、白騎士に駆け寄った。

「お待ちしていました」

「シャリー、遅くなったな。紹介しよう。迷落の森とエルフェンの森の妖精達だ」

白騎士の周りを沢山の妖精達が舞い、日頃妖精を見る力のない人々ですら、その瞬きを目にした。

「妖精達、これが君達の(プリンセス)だ。妖精王と妖精女王が不在の今、君達は彼女直属の妖精騎士団とともに、彼女の指揮下に入ってくれ」

『はーい』

『わかった~』

『おーさま、ボクは?』

『キャップは俺の直属だから、俺からの連絡係として彼女の側にいてくれ』

『はーい』

シャリーは綺麗な姿勢で貴婦人が最上位の目上のものにする礼をとった。

「大切な妖精のお力、お借りいたします」

白騎士は彼女の手をとって立ち上がらせると、宝剣を抜き片膝をついた。

「この剣にかけて戦う者達に祝福を」

シャリーは、本来なら剣を取り、軽く口付けして返す作法なのは知っていたが、あえて無視して、白騎士の兜の額にはまった青い宝石に口付けた。

「御武運を」

微笑んだシャリーの姿に、周囲から憧れのため息が漏れた。


立ち上がった白騎士は矢継ぎ早に妖精達に指示を出し、以後の取りまとめをシャリーに任せた。

「救助組が連れ帰った人はこちらで面倒みてくれ。戦闘組のことで迷ったら外にいるバスキン隊長を頼れ。それから、コレも付ける」

「コレ呼ばわりはひどいな」

護衛官から服を受け取りながら青い顔でやって来たのは皇子だった。

「戦闘でバテたらしい」

「あんな無茶苦茶な動きを強要されて、体がもつわけないだろう。一番激しいときは、完全に体の自由を奪われて勝手放題にされたぞ」

「まぁ、おかげで飛行魔法はだいたい分かった」

白騎士の背中に白銀の翼が現れた。

「では、行ってくる」

床を軽く蹴ると、白騎士は翼を広げてふわりと浮き上がり、聖堂内の人々の頭上を越えて出口まで行くと、銀の輝きを残して飛び去った。

Q:正ヒロインが、ヒロイン力で負けてる気がします。

A:主人公にとっては、"ノリコ"の"スーパーイナズマキック"はプライスレスなので、問題ありません。

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ノリコ、良くってよ!
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