表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第2章 ボーイミーツ……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/484

オーロラ海岸

「船や街の明かりは無さそうね」

海なのか湖なのか、広がる水面は、大きな波もなく、ただチラチラと微かに瞬いていた。

湛えられた深い水底に何かの気配がする。川畑達の存在に苛立ちながら、ゆっくりと身をくねらせる異形……主だ。

間違いない。ここはさっきの異界と同じで、この奥に潜む主が治める小さな世界だ。


「波打ち際から離れて待とう」

「何か来るの?」

「こんなことになっている原因」

帽子の男は1時間以内に戻ると言っていた。戻ってきたときに川畑があの部屋にいなければどうするか。穴が開いた形跡に気づくか?開いた穴をたどれるか?ここに来てから歩いた足取りは追えるのか?

それよりは、時空監査官として、部外者の乱入に苛立つ主のいる異界に気づく方が早いのか?

「助けを待つなら、砂浜に大きくSOSとか、書いた方がいいんじゃない?」

「いいね」

最初の異界の主は、ガムテープとカッターナイフ傷でたいそうお怒りだった。ここの主はどれくらい寛容だろう。

「そこの林で、枝を何本か調達してこよう」


ここの主は、意外に狭量だった。


川畑が3本目の木を倒して、浜に引き摺ってきた時点で、沖の水面が激しく泡立ち、波が打ち寄せた、

「な、なんか出たよ!」

「残念。Sも作れなかった」

川畑は、木を引くために使っていたベルトを、手に巻き付けた。

「こっちに来るみたい」

「林の方に下がろう」

一番近い林の中は、下生えもなく、木の根もはっていない細かい砂地だ。見通しはよいが、細い木が立ち並んでいるので、大きな生き物は入りづらいだろう。

波を立てて近づいてくるのが、何物かはよく見えないが、それなりに大きい。水生の巨大生物のようだ。

浅瀬には上がってこずに、少し沖合いでうろうろ様子を窺っている。


「こっちが明るいから、海の様子がわからないね」

「一方的に丸見えだからなぁ」

川畑はカッターシャツのボタンを外し始めた。

「な、何してるの!?」

「これ、被って」

カッターシャツを手渡されて、彼女は目を瞬いた。

「奥の木の影でしゃがんでなよ。白いから目立ちにくくなると思う。あ!汗臭かったら、無理に被らなくていいけど」

「えっ?いや、汗臭いとかそういうことは」

ついシャツの匂いを嗅いでしまい、すぐに自分のその行動自体に、彼女は赤面した。

「……ナイデス。アリガトウ」

彼女は小さな声でゴニョゴニョいいながら、川畑の白いシャツを被った。


「これからどうするの?」

「あの水の中にいる奴と、本格的にやりあっちゃうと危険だから、ここで様子を見ながら時間を稼ぐ。ここでなにか起きてるって、発見してもらえたら、助けが来ると思うから」

帽子の男は、甚だ頼りにならないが、奴を叱ったり、始末書を提出させたりする側は、有能な可能性がある。

「大丈夫、きっとそれほど時間はかからないよ」

なにせ時空監査を名乗るくらいだ。時間ぐらい合わせてくるだろう。

ただし、気づいてもらうには、ただ大人しくしてるんじゃなくて、多少なりとも主にちょっかいかける必要があるのが、辛いところだ。


「夜が明けてくれればいいのに」

彼女の呟きに、空を見上げる。

前の異界の空は灰色だが明るかった。ここもせめて、薄明程度に白んでくれれば、海の様子も分かりやすいんだが……。と川畑が考えていると、ふと、深く垂れ込めていた闇に変化があった気がした。

「様子を見てくる。ここで隠れてて」

うなずいた彼女を林に残し、川畑は空が広く見えるところに出た。

空の外縁がうっすらと光っている。

川畑は天頂を見上げた。

空は漆黒のまま晴れ上がっていた。

明らかに先程までとは違う奥行きを感じる。

空の外縁部が赤く揺らめいた。波打つ赤い輝きが地平から立ち上るように空を囲んだ。

「赤いオーロラ?大気下層で光る奴だっけ?全周に放射状に出てるとこをみると、ここが磁極点か」

よく見ると上層部には緑の光もある。静寂だった白銀の世界は、揺らめく光のカーテンに照らし出された。

ふと視線を下げると、林と波打ち際の間に、人がいた。


うわははははははははは!


大音声の高笑いが響き渡った。

「ずいぶんと派手な出迎えではないか!我が登場にふさわしい!!」

羽飾りの付いたド派手な帽子を被ったその男は、マントをはためかせた。

「ヌシの奴め、やっと持て成しというものを心得たらしい。そうは思わんかね!ボンド君」

「あい!キャプテン!……でもなんか様子がおかしくないですか?」

ボンドと呼ばれた少年は、辺りをキョロキョロ見回した。

「丸太、転がってますよ」

「キャンプファイヤーの準備とは、粋な計らいではないか。木を三角形に組みたまえ、ボンド君」

「あい!キャプテン!」

二人がせっせと浜辺の木を動かし始めたところで、川畑はそっと後退しようとした。


「こんなところにいた!やっと見つけましたよ」

いきなり目の前に帽子の男が出現して、川畑は仰け反った。

「なんで大人しく待っていてくれないんですか。さっさと戻りますよ」

「あ、ちょ、待っ……」

うろたえる川畑の足元に穴が出現した。

「まだ彼女が……」


怒り狂う主と、変な二人組しかいない世界に、女の子を一人残して、川畑は穴に落ちた。


悪役とヒロイン放置して、主人公帰還。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 枝を調達してこようとか言いながら木を倒してきたの!?3本も!?とか突っ込みたいところが色々あったはずなんですが最後に全部持っていかれましたね 置いてくなよぉ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ