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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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露呈

テーブルの上には、女神の瞳と呼ばれる同一サイズ、同一カットの赤いアダマスが並んでいた。


"太陽の炎(ファイア・イン・サン)"

"大鴉の血(レイブン・ブラッド)"

"真夜中の太陽(ミッドナイト・サン)"


そして、それらと同じフォルムだが、極めて均質でクリアな赤色の、傷一つない完璧な成型の石……。

「こうして並べてみると、人造品はのっぺりして深みや味わいがありませんね」

「いやいやいや、そういう問題では……」

「人造って、テメェ魔物じゃねぇか」

「ひどいな」

「こんなことできる時点で人間じゃねぇよ」

「悪魔扱いはよしてください。魔法ならあなた方だって使うでしょう」

「神威魔法は神より賜わいし奇跡だ。ホイホイ女神の瞳を創れるようなもんじゃねぇ!」

「破門されてた言ってたけど、あんた意外に敬虔だな。僕より信心深いんじゃないか?さすが古参」

「眷属の信仰に古いも新しいもあるか!」

「宗教って難しいなぁ」


ジンは頭を抱えた。

このバカは、女性陣をそれぞれの部屋で休ませて場が男だけになった時点で、完全に体裁を取り繕う気がなくなったらしい。

すっとぼけた間抜け野郎は、特定の由来がある石が必要なのだと思っていたから黙って協力していたが、単に"女神の瞳"規格のアダマスが3ついるだけなら、すぐに渡せると言い出して、本当にあっさり赤いアダマスを生成した。


「浮揚力発生装置みたいな工業的用途で考えると、均質な分、高精度で使いやすいとは思うんですが、美術的価値は今ひとつかも」

「……そういうもんじゃないんだ」

「で、こいつはなんと呼べばいいんだい?」

「名前ですか?ネームドにするようなものでもないですけど。えーっと……"重力が(When)衰える(Gravity)とき(Fails)"なんてどうです」

「は?」

「流石に名前っぽくないか。それに3つセットでしたっけ?だったら、"ニューロマンサー"、"カウント・ゼロ"、"モナリザ・オーヴァドライヴ"で3部作」

「意味がわからん」

「なぜ2つ目がゼロなんだ」


いいからこんな物を量産するな!と叱られた川畑は2つ目以降の生成を中断して、1つ目を"焔の光輪(コロナ・フレイヤ)"と名付けた。


「あー、中の構造に微妙にゆらぎを入れてやると、いい感じに中で光が揺れて焔っぽくなった」

「これ以上、トンデモ品を作るな!!」

「やだなぁ、暗黒水晶(ダーククリスタル)の構造を真似て、取り込まれている生命力が発光しているように見せているだけだから」

「女神の瞳を怪しい黒魔術の魔石にすんな」

暗黒水晶(ダーククリスタル)は、名前はアレだけど、妖精王の太陽の力を制御して精霊界を安定させる宝具だぞ」

「完全にオカルトじゃねぇか!」

「秘教の秘密結社から破門されて裏街道生きてきた黒い翼が生える不老長寿の魔法使いにオカルト呼ばわりされるとは……」

「うるせぇ!俺は少なくともこの世の理で生きてるんだよ!このスットコドッコイ。あと、不老じゃねぇ。成長も老化もしてる。てめぇの羽根をムシってやったときゃ、俺はもっと若かったろうが、忘れたか!?」

「羽根?」


ジンに首根っこを掴まれてガンガン揺すられた川畑は、怪訝そうに眉を寄せてしばし黙考した。


「ああ、いたな。因縁つけて突っかかってきた連中の中に、やたらはしっこいガキんちょが。そういえば岩場で乱戦中にフェイントかけられて羽飾り片方盗られたっけ……え?アレがおじさん?」


川畑の応えを聞いて、ジンは猛烈にイヤそうな顔をした。

他人の推測で二度無き者(ネヴァーモア)だと言われているのと、本人が間抜けヅラで具体的に当時のことを語って、こっちをガキんちょ呼ばわりするのとでは、嫌さ加減が天と地ほども違った。

ジンにとって二度無き者(ネヴァーモア)は、当時若くていきがっていた自分を、地位とプライドごとこてんぱんにノシた巨大で圧倒的な怪物だった。その後、破門されてどん底の苦境の中で十年以上悪夢にうなされた身としては、こんな図体だけでかい間抜けな若造に「ああ、いたな」なんて言われたくはなかった。


「老けたね。苦労した?」


ジンは黙って川畑の首を締め上げた。




「無茶苦茶するなぁ。呼吸する生き物は首を長時間絞めると死ぬんだぞ」

シャツの襟元とタイを直しながらボヤく川畑を、ジンは肩で息をしながら睨みつけた。

「平気な顔しやがって、この化け物め」

「まぁまぁ。この際、コイツがこういう奴だったという衝撃の事実はおいておいて、さしあたってこれからのことを考えようか」

「こんなデカブツを棚に上げられるとは、お前、意外に大物だな」

「褒められている気がしないけれど、褒め言葉だと受け取っておくよ」

ジェラルドはこめかみを揉みながら、なんとか場をまとめて話を進めようとした。


「それでこの女神の瞳をどうするかなんだが」

「"太陽の炎(ファイア・イン・サン)"は元通り旦那様に。残り三つはおじさんにあげるということでいいのでは?」

「おじさん言うな。お前が二度無き者(ネヴァーモア)だと思うとそう呼ばれると腹が立つ」

「じゃあ、ジンって呼ぶから、俺のことはマーリードだと思ってください」

「……マーリードは火の中で死んだんだよ」

「うーん。それを言うなら、むしろ殺されてから焼かれたって方がたぶん正確なんだけど」

「どこが正確なんだ。ちゃっかり無事だったくせに」

「あのときの身体は全損してるから、完全に無事ってわけじゃないぞ」

「身体が全損して、今ピンシャンしているお前は何なんだ!」

「僕の知らない話で二人で盛り上がるのよしてくれないか?!」

「ツッコむところ、そこじゃないだろ!!」


ちっとも進まない話し合いは深夜におよび、ともかくファーストマンのところに向かうという合意をもって終了した。

歳月で蓋をしていた苦い思い出を、ぶっちゃけられて台無しにされたおっさんの悲しみ……。

ジン「ド畜生!この悪魔野郎が〜!!」

川畑「えええ?」(困惑)


とりあえず、3つでいいのに4つに増えちゃった女神の瞳はどうすればいいんだ?

ジェラルド「(ファーストマンに丸投げしよう)」

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