表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

444/484

通謀

「なんで来たんだ!」

「助けに来たのよ!」

空中にはじき出された二人は、落下しながら互いに手を伸ばした。

「死ぬ気か!?」

「それはあなたでしょ。私は生かしに来たのよ。さあ、私に掴まって」

届いた手をしっかり握って、アイリーンは川畑を引き寄せた。

「パラシュートってどのくらいの高さで開けばいいんだっけ?」

「やったことないのに飛び降りたのか!?」

「なんとかなるわよ。ほら、もっとしっかり抱きしめて。あなただけ落ちるわよ」

アイリーンは背負ったパラシュートを開こうとした。


力強く引いた紐が取れた。


「え?」


抱き合ったまま、二人は低層の薄雲に突っ込んだ。





「バカばっかりかよ!!クソッタレ!」

ジンはなんとかたどり着いた双発機のハッチから流れる雲を見下ろして、盛大に悪態をついた。

「その翼……お前、そんなに古い血筋の眷属だったのか?」

「バッカ野郎。今はそんな話をしてるような場合じゃねーだろ」

ジンは翼を消すと、気を失っているヴァイオレットをジェラルドに渡して、ハッチを閉め始めた。

「おい!アドラー嬢とブレイクは!?」

「今更、こっからじゃどうにもできん」

「そんな!」

「少なくともあの女はパラシュートを背負っていた。あとは奴がなんとかするだろう」

「今から引き返して、パラシュートが降りたあたりの捜索を……」

「この輸送機でか?下は湖沼地帯だ。着陸なんかできんし、目視で地表の人探しができる高度で一帯を虱潰しに飛ぶなんて、こういう飛行機にやらせる仕事じゃないぞ」

「こういう飛行機にやらせる仕事じゃないことはすでに散々やらされたんだが……一体、何がどうなっているんだ?そろそろ誰か多少事情を説明してくれないか」

操縦席からの困惑顔したパイロットの声に、ジンとジェラルドは顔を見合わせた。

呉越同舟+事情を知らずケアが必要な善良な一般人の女子供+巻き込まれた民間人パイロット?

今後の対応がものすごく面倒なのが、日を見るよりも明らかだったので、二人の男は、非常事態下での協力体制を継続することを互いに暗黙のうちに了承した。




ガルガンチュアが派手に墜落したことと、その直前に無線通信があってこの双発機が救出に向かったことは、隠しようがないし、カタリーナは家に帰さないといけない。そこは確定として、残りのメンバーの行く先とカバーストーリーをどうするかが討議された。


「まず、あのデカブツの墜落から助かったのは、嬢ちゃんだけとする」

「口封じとか考えているなら徹底抗戦するぞ」

「アホ。話を聞け」


ジンは、警戒するジェラルドにプランを説明した。

ガルガンチュアに公式に搭乗記録があるのは、カタリーナと"エリック"だけだ。そしてカタリーナ以外のメンバーは、下手に救助記録が公になると以後、追手が面倒な立場でもある。


「なるほど。事故が起きたとき無線通信で救助依頼を出したのは"エリック"で、救助に来たこの輸送機になんとかカタリーナを乗せることができたが、自分は乗れなかった……とすれば、なんとかなるな」

「助けようと手を貸したこの機のチャーター主と共に落ちて、助けられなかった。そうするしかあるまい」


事実を混ぜると嘘は真実味が上がる、と言ってジンは口の端だけで笑いかけて失敗した。脱出のときに煙でも吸い込んだのか口の中が苦い。


「いや、機体のチャーター主がいなくなっていると、後の始末に手間取りそうだ。そこは修正しよう」


ジェラルドは意外に冷静にパイロットから離陸までの経緯を聞き出し、代案を組み立てた。彼は機内に残されていた運転手の制服の上着と帽子を手に取った。


「彼女がジャケットに着替えたのは離陸後?」

「そうだ。上空で後部ハッチを開けるというから着替えさせた」

「ということは空港で姿を見られたのは運転手だ。彼女は男装していたから遠目では女性だとは思われなかっただろう」


ジェラルドは運転手の上着を羽織り、帽子を深く被った。


「車に乗ってやってきた運転手が、飛行機に乗って、途中で女の子を助け、飛行機から降りて、彼女をホテルに送り届けて車で立ち去った。数は合うだろう」

「残り2名は?」

「ヴァイオレットは後部座席の足元。あなたはトランクだな」


ジンは見るも無惨な状態の車をちらりと見た。


「こいつが動けばな」

「……ううう。僕のシルバーレイディ」

「お前、自分の従者がいなくなったことより、車の件の方が嘆いているんじゃねえか?」

「うるさいな。アイツのことは心配だけど、アイツを心配したってどうにもならないから割り切っているんだよ!」

「ああ……まぁな……」

「飛んでるのは見たことないけど、空ぐらい飛びそうだし」

「ああ…………なんか使ってたな。見たことない出力の神威魔法」


白色光とかありえねぇだろ、と遠い目をして呟いたジンは、厭々ながらジェラルドに尋ねた。


「ヤツは何者なんだ?」


ジェラルドも渋々ながら答えた。


二度無き者(ネヴァーモア)。アシュマカのネズはそう呼んでいた。あんたがそれなりの古参ならその名に聞き覚えがあるだろう」

「はぁっ!?そんなバカな話があるもんか!あの間抜けのお人好しが、異界の悪魔なわけが……………そもそも体格が………同じぐらい?か?………えぇ??」

「いや待て、お前、二度無き者(ネヴァーモア)の外見知ってるぐらい古参なのか?一体、いつから生きてるんだ」

「ジジイで悪かったな。こちとら二度無き者(ネヴァーモア)に負けて無様さらした件で、大粛清のときに一族を追われた身だよ」

「うわぁ~。え?まさかそれで女神の瞳を手に入れようとしていたのか?」

「ファーストマンが3つ回収したら復権させてもいいと……」

「酷い」


ジンは手に入れた宝石を取り出して眺めた。


「皮肉なもんだ。俺は二度無き者(ネヴァーモア)にこいつを渡されたのか」


赤い宝石はただの石なので何も応えなかった。

空から落ちても、読者どころか作中人物にすら心配してもらえない男。


心配してくれそうなカタリーナとヴァイオレットはショックで目を回してます。(普通)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 他作品とのリンク。世界が広がるって、面白いですよね。 [気になる点] 逐一、感想(足跡)残すのもどうかと思うのですが……書き手を応援するのが星と感想以外に思いつかないので、感想残して、応…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ