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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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救出

「あんのバカ!」


車が貨物室にはいるなり、ジンは車外に飛び出て、天井から下がっていた貨物固定用のネットを車に被せた。

「そっち側フックで留めろ!」


双発機がガルガンチュアから離れるように高度を上げて、胃の腑がおかしくなる。

「まだハッチ閉めないで!下に彼が残っている。戻って」

アイリーンがパイロットに向かって叫んでいる。

あの突っ込み方をして、ジンと同じくらい素早く車外に出て次の行動に出ているあたり、美人のご令嬢なのにタフだ。……フックも車に傷が入るのを厭わない雑なかけっぷりだった。


ジンは当面、残りの面子は彼女に任せることにして、ガルガンチュアの方を確認した。

大きな翼はボロボロで漏れたオイルが黒く筋を作っている。

車から飛び降りたバカ野郎は、尾翼近くにある後部の展望窓のところにいた。




「窓から離れて」

川畑は、窓の向こうで目を丸くしているヴァイオレットにそう警告してから、窓を蹴破った。

多少、氷結爆散魔法は併用しているが、動作に一致させているので、アクション映画の小細工と一緒で、非常事態で慌てているヴァイオレットには気づかれないだろう。風の制御で破片の飛散方向も操作しているが、これも非常時に気づけるものでもない。

この期に及んでどのくらいフェイクが必要かは良くわからないなと思いながら、川畑はできる限りこの世界の神様に大目に見てもらえる範囲内の小技での人命救助に努めた。


「さぁ、こっちに!」

伸ばされた腕を掴んで引き寄せたヴァイオレットの髪留めが取れて、風に長い黒髪がなびいた。ヴァイオレットは川畑にぎゅっとしがみついた。

「怖かった。もうだめかと……逃げて、隠れていたら…気がついたら空の上で……」

「事情は後で」

川畑はヴァイオレットをしっかり抱きかかえ、上空の双発機を見上げた。


一旦、高度を上げてガルガンチュアから距離を取った双発機は、そのまま飛び去ることはなく、器用に旋回して降りてきた。

川畑はここからどうやってヴァイオレットを救うか思案した。

自分一人ならどうとでもなるが、一般人のヴァイオレットをとなると無理が効かない。せめてパラシュートぐらいあれば、形だけ使って、それで助かりましたと言い抜ける事もできるが、それもない。

最後の手段の"転移"にしても、宇宙船と違って、航空機では慣性の基本となる"最寄りの最大質量体"が地表に設定されるから、機内を出現先にすると、地表との相対速度がもろにかかってえぐいことになる。……マスターキーを出したときは、強烈な勢いで壁にめり込んだ。あれを人体で体験したくはない。


双発機からジンがこちらを見下ろしている。

「(よし。まだ奥の手を使っていない人に働いてもらおう)」

川畑はどうやったら、ジンがここまでヴァイオレットを助けに来てくれるか考えた。

呼ぶだけではダメだろう。

義理?人情?色恋?

そんなもので動く男には思えない。


川畑は内ポケットに入れていた石を取り出して、上空のジンに向かって大きく左右に降って見せた。

「おーい!女神の瞳はここだ!取りに来てくれーっ!!」

ジンが石を見たことを確認してから、川畑は「失礼」と言って、ヴァイオレットの服の胸元に石を突っ込んだ。




「バカ野郎!!」

ジンは、むかっ腹を立てながら、あたりを見回した。

ロープが一巻。

長さは不明。強度も不明。

ただ垂らしただけでは風になびくだけで役に立たないだろう。

それでも彼は、ロープの端を手早く機内の金具に結びつけた。

「俺が命綱つけて降りて、釣り上げてくる。ギリギリまで寄せてくれ」

「どいつもこいつも無茶苦茶言いやがる」

ぼやきながらもパイロットのスティーブンは、後方から再アプローチし、慎重に機体を寄せ始めた。


後部ハッチから身を乗り出したジンは、ベルトに巻いたロープを再確認してから、双発機がガルガンチュアの尾翼をかすめたタイミングで飛び降りた。

「掴まれーっ!」

大きく手を広げ、やけくそで叫ぶ。

とんだサーカスだ。

展望窓のところにいた二人があっという間に迫る。

だがもう少しで届くというところで腰がグンと引かれた。

このままではロープの長さが足りない。


宙吊りの状態で、ギリギリ届かない位置を通り過ぎかけたジンに向かって、川畑はヴァイオレットを投げ上げた。

すれ違いざまに、ジンはなんとか彼女をキャッチした。


しかし、そのはずみにヴァイオレットの上着の間から、"女神の瞳"が1つこぼれ落ちた。


川畑はジンの目がとっさに石を追ったのを見た。


赤いアダマスは、ガルガンチュアの広い翼の上に落ちて転がった。


川畑は走って石を追った。

石は、まだらに流れて翼に縞模様を作っているオイルに引っかかって止まった。アダマスは親油性が高い。採掘場の選別機と同じ原理だ。

川畑はアダマスを拾って、ジンの方に向き直った。



操縦席のスティーブンの目の前で、負荷のかかっていたガルガンチュアの残りのプロペラが火を吹いた。

漏れていたオイルに沿って炎が翼の上を走る。

スティーブンは操縦桿を引いた。双発機は機首を上げ、ガルガンチュアから離れた。

二人分の体重がかかった上に上昇の加速まで受けたために、ロープが結ばれていた金具が歪んで留め具が外れた。


ジンはヴァイオレットを抱えたまま空中に放り出されそうになった。

「こんちくしょう」

罰当たりな悪態をついたのと同じ口で、ジンはもう長いこと唱えたことのなかった聖句を唱えた。こんな手段を使わされるのは業腹だが、出し惜しみするなと言われた手前、ここで使わずにしくじったら、なんと言って誹られるかわかったものではない。


その昔、つまらない落ち度で粛清され、一族を追われた男が、それ以来、一度もしなかった"困ったときの神頼み"を、女神は快く受け入れた。


ジンの背に、神威魔術による翼が出現した。


それはジンの体格の割に小さくて、成人男女二人の体重を支えられるようには見えなかった。しかし魔術の翼は、筋力による羽ばたきで揚力を生むわけではない。

普通の鳥にはできない挙動で、ジンは無理やり体勢を立て直した。今、決断すれば、ヴァイオレットだけなら抱えてもギリギリで双発機のハッチに戻れる。


「受け取れ!」

ジンの刹那の葛藤を見抜いたように、赤いアダマスが投げらた。とっさに受け取る。

これで、投げてよこした相手を救う余裕は完全になくなった。


目があった気がした。


炎が、漏れたオイルを伝って、ガルガンチュアの翼に広がる。


同じ相手を二度も炎の中に見捨てることの葛藤が、ジンの一瞬の判断を鈍らせた。


「行け」とそいつの口元が動いたかと思うと、突き上げるような突風が、ジンを双発機の方に押し上げた。


川畑は、ガルガンチュアの炎の中に一人取り残された。





「あきらめるもんですかーっ」


ほとんど飛び蹴りも同然の勢いで降ってきたアイリーンの体当たりで、川畑は炎の中から吹っ飛ばされた。

ストックなくて勢いで滑り込み投稿


ここのシーンにたどり着くために頑張って書いてきたのに、書き上がったらなんか思ってたんと違う展開に(いつも通り)


アイリーンさん、ちょっ……それは……。


ジンは川畑が思っているほどドライではなく、アイリーンは川畑の想定外。

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