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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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上昇

博士は兵士に命じて川畑とジェラルドに手枷をはめさせ、機体中央部にある何やら精密機械がぎっしりある小部屋に二人を連行した。


ジェラルドは不安げに壁や天井を見回した。

「機関室?にしては駆動部分が少ないけど」

「浮揚力の力場の発生装置ですね……分散設置せずに機体重心に置いているのは、オーニソプターよりも構造強度に余裕があるからですか?」

「機体設計は私ではない。先鋭的な選択とは言い難いが、クリスタル機関が中央で総合制御できるのは、私にとっては都合がいい」


博士は、正面にある機器のダイヤルを回してから、レバーを下ろした。中央のパネルが開き、大仰な機械音とともに三角形の台座が現れた。


「ついに三つ目が揃った」

博士は、川畑が渡したケースを開いて、満足そうに大粒の赤いアダマスを眺めた。

「三つ?……なんでそっちに二つあるんだ」

先程渡した"太陽の炎(ファイア・イン・サン)"と、神殿で盗まれた"大鴉の血(レイブン・ブラッド)"。川畑が知っているのはこの二つだ。

だが、台座にはすでに赤い宝石が二つはまっている。


「君がすべてを知っているわけではないということだ」

博士に言われて、川畑は自分の落ち度に気づいた。

「……そうか。もともと手元になければ、基礎開発の時点で実験ができないか」

基本的な可能性を失念していた川畑はしまったなぁと少し反省した。機器の構造上、二つまでなら渡しても大丈夫だと思っていたのだ。三つ揃うと厄介なことになる。


川畑は神殿にあった女神像の頭部を思い出した。そういえば女神の目は三つあった。

川畑はジェラルドに聞いてみた。

「ひょっとして、"太陽の炎(ファイア・イン・サン)"が最初に盗まれたときって三点セットですか?」

ジェラルドは博士を睨みながら、苦々しそうに答えた。

「女神の瞳は三つで一組だ」


古の神像から抜き出された神聖な宝石は、いくたりもの人手を渡って、一つは回収されたものの、一つは王国の富豪に、最後の一つは皇国に流れていたらしい。

「"真夜中の太陽(ミッドナイト・サン)"。信徒にとって奪還は積年の課題だよ」

ジェラルドは自分を拘束している皇国軍兵士をうらめしげに見た。

「皇国軍が軍事利用を考えていたなんて想定外だ。いくら宝石商や富豪層の取引記録をあたっても出てこないわけだ」

「ほう。ということは、君も探していた一人ということかね」

ジェラルドは「さあね」と言って肩をすくめた。

「僕は本来は傍観者の立場さ」

「そうなんですか?」

「お前が言うなよ」

川畑に文句を言うジェラルドを見て、博士は得心がいったというように顎を撫でた。

「なるほど。ではやはり君が、報告書にあったお節介な王国人というわけだ」

「軍の報告書に"お節介な"なんて表現は使わないだろう」

「いいじゃないですか。お節介って善意が基盤なので、好意的な評価ですよ。普通は道楽者が好奇心で首を突っ込んだと評される立場が実情なんですし」

「お前は誰の味方なんだよ」

「正義の味方?……ではないですね」

「どちらかというと悪魔(デーモン)魔神(ジン)のたぐいだろう」

「そんなことないですよ。俺は平凡で善良な一般人です」


戯言はそこまでにしろと言うと、博士は台座の三つ目のスロットにはまっていた赤くない石を”太陽の炎”と交換した。

三つ揃った赤いアダマスはボウっと淡く輝いた。


博士は伝声管で操縦士に上昇を命じた。ジェラルド達の位置からは相手方の声は聞こえないが、どうやら先方は従おうとしないようだ。指揮系統の問題でもあるのだろう。皇国軍人の機長だか艦長だかは、計画通りの航路を時間通りに飛びたいらしい。

苛立たしげに何度か命令を繰り返した博士は、ついに自分の部下を向かわせた。

先程トランクを持ってきた兵士は、どうやら博士の直属らしい。そういえば、軍服の色が違う。

兵士が銃を手に操縦室に向かうのを見送って、ジェラルドと川畑は批難がましい視線を博士に向けた。

博士は、壁に作り付けの扉の小金庫のようなダイヤルを合わせながら、閑かにつぶやいた。

「頭の悪い軍人というのは、暴力を伴わない話を理解できないのが煩わしい」

開いたままの伝声管の向こうで銃声が響いた。

「……正気の沙汰じゃない」

ジェラルドは険しい表情で博士を睨んだ。

「旋回しながら、限界高度まで上昇」

博士は再度そう命じると、伝声管の蓋を閉じた。

部屋全体が振れて傾斜した。

機体は転進しながら上昇を始めた。

太陽の炎は3つセット。

"太陽の炎(ファイア・イン・サン)"

"焔の光輪(コロナ・フレイヤ)"

"真夜中の太陽(ミッドナイト・サン)"


出典に脈絡はありません。


川畑「"重力が衰えるとき"と"電脳砂漠"かと思った」


それ、宝石の名前じゃねぇよ

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