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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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新造艦

"ガルガンチュア"が近づいてくるにつれて、ジェラルドは自分が格納庫までの距離とサイズを見誤っていたことに気づいて愕然とした。


それはあまりに巨大な航空機だった。

その巨体からすれば、おまけ程度に見える車輪でさえ、直径が人の身長以上あった。本体の重量を支えるためだろう、主車輪はタンデム構造で、その車輪のカヴァーですら、納屋ほどの大きさがあった。


感嘆の声を上げる他の招待客達の間で、ジェラルドはその非現実的な航空機に圧倒された。

「なんだこれは」

翼胴(ブレンデッド・)一体(ウィング&ボディ)構造っていうのよ。全体が一つの翼みたいで面白い形でしょう?」

設計に携わったカタリーナは得意げにそう言った。

たしかに"ガルガンチュア"は、普通の飛行機のように胴体と翼に別れておらず、全体がずんぐりした分厚い巨大な三角形をしていた。両翼に配された馬鹿げたサイズの4機のプロペラと中央の垂直尾翼はあるものの、ほぼ機体全体が翼と言って良い形だ。

「こんなに巨大な物が飛ぶのか?」

「形状に対する浮揚力の発生の原理の基礎で習ったでしょう。流線型と三角形は飛ぶのよ」

そういえば、シダール行きの船で、ブレイクがそんなようなことを勉強会で習っていると言っていたな……とジェラルドは現実逃避気味に思った。機械や先端技術にやや疎いオールドファッションな知識人のジェラルドからすると、"ガルガンチュア"はマッドでクレージーな代物にしか見えなかった。




「いい銀色だなぁ。ボディはジュラルミン?耐食性アルミニウム(アルクラッド)?」

「黙って歩け」

マッドでクレージーなロマン兵器も航空機も大好きな川畑は、立場を棚に上げて、ワクワクと機体内部を見回した。


心配だった二人は、士官を口車で丸め込んで、一応無事に帰すことができた。姿の見えなかったジェラルドのことも気になるが、カタリーナと一緒なら無体なことはされないはずだ。アイリーンにも頼んでおいたので、それなりに手をうってくれるだろう。

本来のプランでは、ジェラルドがこのテレーマの研究施設に潜入することがスタートだ。川畑はそのために、就航式典にかこつけて手引してあげたのにすぎない。下見をしておくべき自分が初手で捉えられてしまったのは失態だが、致命的ではない。

もしもこのままこの巨大な航空機に乗せられる羽目になっても、その場合の連携手段は確保したし、アイリーンには対応方法も伝えておいたから、問題はないだろう。

ちょっと彼女に頼り過ぎな気もしたが、ジェラルドと合流してくれれば、二人で組めばどうとでもなるポテンシャルはある。

初動で捕まって、軍人による暴力の脅威にさらされる危険さえ回避できれば、あとは自分が側にいなくても、ある程度なんとかしてくれるに違いないと、川畑は楽観することにした。


幅が狭い通路は、川畑の身長と肩幅だとぎりぎりだった。

川畑は、天井や壁面を伝う配管の凹凸を器用に避けながら、銃を持った兵士の前を歩いた。

「すごい音だ。エンジンは対向ピストン、インライン、液冷12気筒が4機だっけ?」

「スペックは非公開だ」

「2機は6気筒?」

「スペックは非公開だ」

「見せてもらっても?」

非公開という意味を知らんのかと案内役がキレる前に、前方から声がかかった。

「興味があるならこちらに来たまえ」

「お久しぶりです。アルベルトさん」

翼内通路の先に立っている博士に川畑は会釈した。




車のところまでアイリーン達を連れてきた兵士らは、川畑の私物らしき荷物を接収すると、さっさと引き上げていった。命令には忠実だが命令以上のことはやりたがらないあたりは上官とそっくりである。


彼らの姿が見えなくなったところで、アイリーンは苛立ちを爆発させた。

「ああ、もう!あのバカったら。なに一人でカッコつけてんのよ」

「お、落ち着いて。別に彼は格好をつけていたわけでは……」

「わかってるわよ!」

アイリーンは、別れる間際に川畑が手に握らせてきた物を確認した。

「象の玩具?」

くしゃくしゃの紙に包まれていた安い土産物の青い小さな象を見て、ヘルマンはハッとした。

「それ!彼がシダールの寺院で買った物です。故郷に残してきたお子さんへのお土産だと言っていました」

「はぁっ?!子供?!!」

「それを託すだなんて、彼はひょっとしたらもう生きては帰れないと思って、せめて我々に残った子供のことを頼むつもりで……」

「バカなこと言わないで!」

「スティーブンって、お子さんの名前でしょうか?」

「そうだったら、あいつの頭をひっぱたいてやるわ!」


シダールの土産物屋での経緯を知らないアイリーンは、"実の子ではない"云々を聞いていないせいで、大変な誤解をしてキレた。


「急いであそこの給油所から給油タンクを何缶か持ってきて」

「はい?」

「本来はここの研究施設に用があったんだけど、予定変更よ」

アイリーンは帽子をグッと被り直した。

「車は借りるわ。あなたは、そのスーツケースをローゼンベルクの娘のところに持っていって、車の調子が悪くなったので代わりの迎えを手配する必要があると伝えて」

「は?え?はい」

「ジェラルドには、私は一旦抜けるって伝えて頂戴」

「抜けるって、どうなさるんですか」

「あのバカが帰れっていうから、帰ってやるのよ!」

「ええっ?お一人でですか」

「乗り物に弱いなら、一緒に来ないほうがいいわよ」

アイリーンが本気で自動車を運転するとどういうことになるかよく知らないヘルマンは、この適切な忠告に、ただ「はあ」と曖昧な返事をしただけだった。

"三角形は飛ぶ"

この世界もそれか!と川畑が笑った法則

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝見しました いやあ凄い…… 巨大な航空機の姿が脳裏に浮かんでくるような表現力、脱帽です…… 何より、こういうスチームパンクのクソデカメカニック大好物です それから「三角形は飛ぶ」の理論…
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