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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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会場

「あら、いつもの車じゃないのね」

カタリーナは車止めに待機していた車がいつもの(いかめ)しくて真っ黒なオジサン自動車でないことに驚いた。

少しスモーキーな品のある銀色の車は、どこか女性的な色っぽさすら感じる優美な曲線で構成されていた。ラジエータキャップの上のカーマスコットは精霊の意匠で、薄く虹色に輝く乳白色のガラス製だった。

内装は少し古風なぐらいの本格的王国調装飾で、椅子の革は真紅。手摺の木目は濃い飴色。全体的になんとも大人っぽいのにオヤジ臭くない車だった。

「なかなかいいじゃない」

「新造艦の就航式ですから。それなりに目の肥えた方々がお集まりになりますし、ローゼンベルク家のお嬢様がありきたりな車に乗っていてもつまらないかと思いまして。お嬢様にふさわしい車をご用意しました」

「わかってるわね」

これで、白とピンクの夢ゆめしい車を用意されていたら、カタリーナは怒り狂っていただろう。この車の年齢不相応さが、ものすごくカタリーナの琴線に触れた。

ちょっとしたところで贅沢品を見せつけて、集まったうるさ方を唸らせるサプライズというのは、ローゼンベルクの父娘が揃って大好きなシチュエーションだ。この車を彼がどう調達してきたかは知らないが、これででかけてもお父様は怒るまいとカタリーナは判断した。

粋な制服の車付き従者に扉を開けて貰って、ご機嫌なお嬢様を見て、ローゼンベルク家の執事と車番は、昨夜、急に故障して復旧の目処が立たなくなった車のかわりを、知人のツテとやらで急いで手配してくれた助手氏に目礼した。




青空のもと、軍楽隊が軽快な音楽を演奏している。研究施設の敷地の奥にある、だだっ広い吹きっさらしの土地には、仮設のステージや日除けが造られて、それなりに華やかな体裁の会場が設営されていた。


「思ったより盛況だね」

金髪巻き毛の美青年は、カタリーナをエスコートしながら、そう言ってにっこり微笑んだ。

「これでも関係者のごく一部よ」

カタリーナは、顔が良すぎる青年にドキドキしながら、素っ気なく答えた。


車が屋敷をでたところで、彼女の助手は「実はこの車を手配してくれた知人が、ぜひお嬢様にご挨拶したいと申しておりまして」と切り出した。

機嫌が良かったカタリーナが了承すると、車はとあるホテルの前に停まり、一人の青年を乗せた。

「ジェル・アラートです。かわいいお嬢さん」

カタリーナは今日のエスコート役をこの美青年に変更することにあっさり同意した。




「あなた方まで来なくても」

ジェラルドにカタリーナを任せた後、運転手や従者の待機用に設えられた場所にやってきた川畑は、目の前の二人を気遣わしげに眺めて眉を下げた。

「あら、いいじゃない。乗りかかった船よ」

「私は、嫌だと言ったんです」

運転手の制服を着たアイリーンの隣で、ヘルマンは肩を落とした。眼鏡を外して髪型を変え、車付き従者の制服を着ていると、パッと見、誰だかわからないが、そのしょげ方は間違いなくヘルマンだ。

一方、男装で長い髪もまとめて帽子に押し込んでいるアイリーンはノリノリだ。胸の目立ちにくいデザインのケープコート付き制服を着こなして、堂々と立っている様は男前すぎる。

川畑は、この件の危険性を警告して諌めるか、大丈夫だよと慰めるべきか悩んだ。

……この場合、声かけのフォローが必要なのはヘルマン氏だろうが、それも釈然としない。


「まずは、少し話し合いましょうか」

いくつか設けられているベンチに二人を誘ったところで、背後から声をかけられた。

「エリックくんだね。ご同行いただこう」

「いただこう()」ですらなかった。




「だから、嫌だと言ったんです」

「乗りかかった船だから……」

小声で囁きあう二人と共に連行される。

相手の武装と人数を見る限り、倒せないわけではないが、倒したあとの二人の逃し方が難しい。

ヘルマン氏は一人で逃げられないし、アイリーン嬢は一人だときっと逃げない。ヘルマン氏とアイリーン嬢をセットにすると、多分ヘルマン氏がアイリーン嬢に付き合わされて、二人でややこしいところに潜入しに行く。

「(困った)」

川畑は、カタリーナとジェラルドがいるはずの会場の方をちらりと視た。……いない。

楽しげな音楽が風で流れてくる会場に、二人の気配がない。

思わず実際にそちらの方角を向いてしまった川畑に、彼の肩甲骨の下に銃口を突きつけながら連行中の軍人が冷ややかに告げた。

「君の大事な先生に無事でいてもらいたいなら、妙なことは考えないことだ」


厄介なことにヴァイオレットもどこかに捕まっているらしい。


不幸中の幸いは"君の大事なおじさん"と言われなかったことだけだな、と思いつつ、川畑はそのおじさんの行方も分からなくて、行方がわからないと何をしているのか一番信用ならないのもその男であることに、内心で頭を抱えた。

「(大事な局面で、消極策に出て無為に数日浪費するとこういう状況に陥るんだなぁ)」

反省と現状把握と改善策の立案を同時進行で並行処理しているうちに、彼らは構内搬送車両に乗せられて、広大な敷地の奥に建てられたバカでかい建造物に連れてこられた。


「な、なんですか?この建物は」

「倉庫?それにしては高さがありすぎるし、途中に窓が少ないようだけれど」

「ククク。愚昧な一般人には想像もつかぬだろう。これは……」

「格納庫だ」


川畑は、間近で見るとバカバカしく巨大な壁面を見上げながら、フロリダに昔あった月ロケット用の格納庫は、建物内に雲がかかるって話があったからそれよりは小さそうだな、などと少々現実逃避気味に考えた。

現在の状況

・民間人女児行方不明 1

・民間人女性巻き込まれ人質 1

・民間人男性とばっちり人質 1

・民間人かどうか怪しい自業自得 2

(うち1名は護衛任務対象)

・プロのヤバいおっさん消息不明 1


「うーん。きついな〜」


※作者もどう解決するか決まっていないという大問題w

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