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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第12章 大鴉の血は緋に輝く

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仮病

「何も貴女が行く必要はないですよ」

川畑はホテルの部屋でヴァイオレットにお茶を煎れながら、心配そうに眉を下げた。


「でも、推薦状を頂いたのですもの。行かないと失礼でしょう?」

「お忘れではないと思いますが、貴女を誘拐しようとした軍の研究施設ですよ。皇国まで呼びつけて協力させておいてなんですが、別にわざわざこれ以上危険を侵さなくても、安全な王国にお戻りいただいても結構です」

「わたくし、お邪魔でしょうか?」

「そういうわけでは……」


なおも心配する川畑に、ヴァイオレットは、ここまで関わったのだから協力したいと申し出た。


「では、無理をしないようにしてください。少しでも危険だと思ったら、きちんと引いて身の安全を確保すること。体の具合が悪いといえば、研究施設に入ったあとでも、先に帰ることができるようにします」

彼は各種の段取りを丁寧に説明した。


「(まともな紳士っぽく説明しているけど、内容は完全にその筋の手口じゃねーか)」

ジンは呆れながらも、一緒にブリーフィングに参加して、プランに微修正を加えた。




「まず中央区に行ってくれ」

ホテルが手配した馬車の御者に、女連れの男はそう指示した。

「彼女の体調が優れなくてね。この時間で開いている薬屋はあるかな」

なるほど、女性はベールで顔色はわからないものの、少し具合が悪いようで、大柄な青年が心配そうに介助についている。

「さぁ、どうでしょうか。ちょっと時間が早すぎるんで難しいと思いますが」

商店の多い中央区でも開いている店はまばらで、薬屋はどこも閉まっていた。

「医者に行きましょうか」

「いや、予定に遅れる」

男は御者の申し出を断って、軍の研究施設に向かうように言った。




「3名ですか?」

「先生の体調が優れないので、伯父に付いてきてもらったんです」

研究施設の門で、青年は守衛に、施設内への立ち入りまでは求めないから、馬車の待機所か何かで伯父も待たせて貰えないかと交渉した。

権威筋の立派な紹介状を持ち、高級ホテルと提携した馬車に乗った身なりの良い訪問者のささやかな頼みだ。守衛はにこやかに便宜をはかった。




この門からでは遠いからと、守衛は迎えの車を呼んでくれた。

車と言っても二輪馬車の馬代わりに動力をつけたようなしろもので、ベンチタイプの客席は2名用、その前に運転手席がある造りだ。オープントップで完全に近距離送迎用の軽車両だ。

川畑は見慣れない形状の車に興味で、あちこちを覗き込みたくてソワソワしていたが、ヴァイオレットの顔をチラッと見て、彼女がステップを上がるのに手を貸して、大人しく隣に座ることを優先した。


車は広い敷地の奥にある研究棟の1つに向った。

「あの右手に見える赤レンガの建物です」

運転席の技師に教えられた建物の方を視てから、川畑は他の建物に出入りする人や所内道路を歩く人を指して尋ねた。

「軍の研究施設と伺いましたが、軍人さんが建物ごとに厳重に警備しているというわけではないんですね」

「門に警備はいますが、軍の演習所ではないので、一般の兵士は原則立ち入りません。所属は軍でも軍服なんて着たことのない研究者や技師が多いですよ」

「そうなんですか」

「ええ。今からご案内するところも研究者や技師ばかりですね」


川畑はもう一度赤レンガの建物を視てから、ヴァイオレットの顔を心配そうに覗き込んだ。

「お加減はいかがですか?みたところあまり具合がよろしくないようです。無理をせずお帰りになられたほうがいいかもしれません」

「そうですか?それほどおかしな様子は感じられませんけれど……」

「おかしいと明らかに思ってからでは対応が遅れます」

川畑は彼女の手を取った。

「ここは安全策を取らせてください」

「わかりまし…た……」

急に貧血を起こしたように、クタリと力の抜けたヴァイオレットの身体を、川畑は支えた。


「すみません。門まで戻っていただけますか?」

もうすぐ付くのにと渋る技師に、川畑は先生の体調が悪化したようだと伝えた。

「たしかにお辛そうですね」

「今朝方からあまり具合が良くなかったのです。門まで送っていただければ伯父が待っておりますので」

約束のある先方には自分が行って謝るから、まずは先生を送って欲しいと頼まれて、迎えの技師は渋々了承した。


「門までお送りしたいのですが、申し訳ありません」

川畑は青ざめてぐったりとしたヴァイオレットをベンチシートにそっと横たわらせた。

「すみません。よろしくお願いいたします」

本格的に具合が悪そうな婦人を放置するわけにもいかないので、迎えの技師は、研究棟への立ち入り許可証を川畑に預けて、入口での入場方法と建物内での注意事項を簡潔に説明した。

「承知しました。先生のこと、お願いいたします」


門に戻って行く車を心配そうに見送ると、川畑は赤レンガの建物の入口に向かった。

体調を悪くさせたヴァイオレットのことは心配だが、やむを得ない。

演技がそれほど上手くできないヴァイオレットでは、口先だけの仮病はすぐにバレる。だから、シダール式マッサージの要領で手から体内の気を乱し、一時的に調子を崩させたのだ。

元々、危険な兆候が少しでもあったらこうすると説明はしてあったので、一応、同意の上ではある。安静にしていれば半日もすれば元に戻るだろうが、申し訳ないことをした。

それでも、”警備の軍人はいない”はずなのに、完全に動きがプロのそれな気配が複数、裏手で待機している建物に彼女を連れて入るよりはマシだと思いながら、川畑は研究棟に入った。

今年もよろしくお願いいたします。


新年早々こんなタイトルで申し訳ないです。久々にのりこさん登場回もインサートしたかったのですが……実はイカに続いてポケモンに手を出して時間が溶けました。


しょもない話で、しょもない作者ですが、見捨てないで気長にお付き合いください。

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