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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

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雑談

閑話です。

「やぁ、川畑さん。調子はいかがですか」

川畑が顔をあげると、明かりが落とされた機内に、帽子の男が浮かんでいた。実体感がないその姿は半透明で、光源を無視してぼんやり均質に光っており、腰の下辺りから脚はグラデーションで消えている。相変わらず古い映画の合成映像の幽霊のような奴だった。

『パイロットが起きている。妖精言語で話すぞ』

「あ、ここ、飛行機かなにかの中ですか。大丈夫。いつもどおり指向性の秘匿モードで存在してますから、私の姿も声も他の人には気づかれません」

『それ便利な技術だよなぁ』

「凄いでしょう」

えっへん!と口で言いながら、帽子の男は腰に手を当てて胸を張ってみせた。


「で、状況は?」

『護衛対象は無事保護完了』

「大騒ぎは?」

『してない。紹介された協力者に大人しく従ってついて行っただけで、今回、俺は特に何もしていない』

「あれ?そうなんですか?珍しいですね。でもいいことです。目立たず騒がずこっそりサポートが時空監査官の基本ですから」

『俺は時空監査官じゃねーよ』

「いつもお手伝いありがとうございます。単独運用のできる非正規雇用の無料アルバイターが一人いると、雑用を押し付けやすくてすごく使い勝手がいいと好評を頂いております」

『お前らの俺の認識はだいたいわかった』


しょうもない雑談をしばらくしたところで、川畑は帽子の男に尋ねた。

『そういえば、一つ確認しておきたかったんだが』

「何でしょう?」

『時空監査局の仕事で派遣された先で関わった人物と、その後、想定外のシチュエーションで再会した場合って、以前会ったことがあるっていう話をしていいのか?』

「私はあまり気にしたことはありませんが、きっちりした部署の人だと服務規程がどうとか言いそうですね。川畑さんは監査官じゃないし、契約も正規に交わしていないので、場合によるんじゃないですか?」

『ダメな場合というのは例えばどういう場合なんだ?』

「時空転移者であることを伏せているときに、不自然な移動記録や記憶を開示すると、怪しまれます。任務中の正体バレは避けたほうがいいです。しらを切れる限りは他人の空似か気のせいかでゴリ押しして、その間に局に情報工作を依頼するのが基本対応です」

『なるほど』

「それから、お互いに時空転移者だとわかっている知り合い同士でも、なんか変だなと感じたら、話す内容はその場の話題だけにしたほうが無難ですね」

『どういうことだ?』

「私とキャプテンみたいにお互いが好き勝手に時空転移していると、合う順番が前後することがあるんです。キャプテンは発想が刹那的で、言動が不条理で、自分勝手で他人の言動を覚えていない人なのであまり気になりませんが、たまに会話が噛み合わないなーと思うときがあります」

『いつも噛み合っていないんじゃないのか?お前ら』

「これでも一番キャプテンと会話できるから担当者やっているんですよ」

それはお前も刹那的で不条理で、他人の言動を気にしない奴だからでは?と川畑は思った。


『あまり深刻なパラドクスが起きない程度の情報交換量だと、個人間で因果が固定されないので、以前会ったときと今回会ったときの間の期間の相手と、後で邂逅することがあるということか……』

「転移せず同一世界で生きている相手に対してでも、情報交換量が低いと遡って会うことはできなくもないです。だから転移を失敗したなと思ったら即座に戻ればやり直せますよ」

人と待ち合わせをした場所に転移したら、転移ミスで時間軸がぶれすぎちゃったときなんかは、何事もなかったかのようにすぐに戻るようにしていると言って、帽子の男は笑った。

川畑は眉根を寄せた。

『ひょっとして俺相手でも順番違っていることがあるのか?』

「あ、それはないです。川畑さんとはデバイスを共有しているので、それを転移マーカーにしていますからね」

そこは大丈夫だと、帽子の男は胸をドンと叩くジェスチャーをした。


『時間軸方向のミスを修正して再転移できるっていうことは、お前、転移座標の時間パラメータの逆行調節方法を知っているのか?』

「いやいや。一度元に戻って転移を再実行しているだけです」

そもそも順方向だけだとしても、同一世界、同一地点への、時間精密指定転移座標の調整なんて個人でできるの川畑さんぐらいなものですからね!と、帽子の男は川畑の鼻先に指を突きつけて、イレギュラー呼ばわりした。

『キャプテンもできるだろう』

「例外中の例外を例に上げるのよしてください」

『俺が知っている時空転移できる奴のうち、三分の一が可能な技術なんだが……』

「サンプル数が少なすぎる上に偏っているときは統計学を適用しちゃダメです」

『そういうお前が一番変だしなぁ』

キャプテンよりも変だなんて言わないでくださいと帽子の男は悲鳴をあげた。




『情報交換量が多いと個人間で因果が固定されるということはさ』

川畑は手帳を取り出して眺めた。

『俺、これでのりことやり取りしすぎると、彼女と時間がズレちゃうのか』

帽子の男は目を瞬かせた。

「むしろ時間が同期するのでは?」

川畑は押し黙ってじっと自分の手をみた。帽子の男は首を傾げた。

川畑はひどくつらそうに手を握りしめた。

『俺……自分の元の生活に戻りたいから、体の変化は成長も老化もキャンセルしているんだよ』

「え?」

『だから、同じ時間を過ごせば過ごすほど、のりこと年齢がズレていくんだ』

大学生になった彼女と高校生の状態で会いたくないが、休み明けに急に老けていたり、長期失踪者扱いで自分の世界に戻るのも嫌だと言って、川畑は頭を抱えた。

「川畑さんって、やっていることは人外極まりないのに、悩みは凡俗ですよね~」

『俺は普通の生活に戻りたい凡俗な一般人なんだよ!』

「へ〜、そうなんですね。戻れるといいですね」

帽子の男はあっけらかんと流した。


「ところで、今後の予定は?」

『セントラルエクスプレス……この世界の大陸を縦断する長距離旅客鉄道の特別寝台特急列車から、軍に拘束されている令嬢二人を救出する』

「へ〜、そうなんですね」

川畑さんの”普通の生活”って、評価基準のサンプリングはどうなっているんだろう?と帽子の男はこっそり思った。

川畑が知っている自力で時空転移できる奴

・帽子の男

・キャプテン

・湖の賢者

・隠者※本編未登場

・北の魔女

(後ろ3人は転移に儀式魔法が必要)

6人中2人なので3分の1

……抽出サンプルが圧倒的に間違っている



すみません、

連載再開までは今少し時間がかかります。

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