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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

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白装束

奇怪な頭巾で顔を覆った一団は、長い白い袖をヒラヒラさせながら、次々と光の矢を放った。

「(発動までの時間が早い。流石だな)」

光の矢の色は橙色から黄色までまちまちだが、総じてシャーマの男達が使っていたものよりはっきりとした輝きで、放たれるまでの時間も短かった。

弓もないのに次々と放たれる魔術で強化された矢に、黒服の兵士達はなすすべもなく射抜かれていった。


「撃て!撃ち返せ!!」

必死に叫びながら数人の兵士が銃で応戦した。そのうち数発は白装束の者たちに当たったが、残りは薄黄色に光る薄膜状の盾に逸らされた。


「(今のうちに逃げよう)」

縛られて床に転がされたままのジェラルドは、激しい戦闘の巻き添えをくらわないよう、こっそりと移動しようとした。

黒服の兵士の死体の向こうで、割れた角灯からこぼれたオイルが、石の床に広がって燃えている。

ジェラルドは火を避けるために、暗い方に身をよじった。

突然、なんの気配もなく、目の前に黒いローブの裾が現れた。

「わ!」

いきなりすごい膂力で引き上げられて、ジェラルドは狼狽した。猫の仔でも拾うようにジェラルドを持ち上げた相手は、その黒いローブの長い袖で覆うように彼を抱え直した。


「旦那様。お迎えに上がりました」

「……遅い」


ジェラルドは一気に気が抜けて、ぐったりと自分の従者にもたれかかった。




「それにしても凄い格好だね」

裾と袖が一体化した長い漆黒のローブに、顔を覆って胸元まで下がる黒頭巾。さらにその上から顔の上半分を覆うように鳥の嘴のようなものがゆるく湾曲して突き出した被り物を被っている。

声こそ彼の従者のそれだが、見た目は完全に怪人だった。

「正規メンバーではないので白い服はダメなのだそうです」

ついでにサイズもなかったので、適当な黒い布を被せられました、と従者は説明した。

「(それだけじゃなくて、完全に他意もあるよね)」

とジェラルドは思ったが、とりあえず疲れがどっと出てきたので追求するのは止めておいた。


「うちの旦那様の安全は確保した」

黒衣の従者はジェラルドを抱えたまま、白装束の一人に近づいて話しかけた。金糸の刺繍が他の者よりも多少豪華なところを見ると、リーダー格なのかもしれない。

「そうか。こちらも冒涜者どもの掃討は大方終わった……後始末が必要だが」

白装束は、瓦礫と死体でぐちゃぐちゃの堂内を見て、ため息をついた。

「先に帰っても良いか?旦那様をゆっくり休ませたい」

「待て。まずは確認させろ」

白装束はすっぽり頭巾を被った顔で、ジェラルドをじっと見つめた。ジェラルドは従者に「おろせ」と命じ、拘束を解かせて、白装束の前に立った。


白装束はジェラルドに正対し、胸に手をあてて跪いた。

「……お目にかかれて光栄です」

「やめろ。古臭いのはお前らの服装だけで十分だ。そういうのはファーストマン相手にやってろ」

「残念ながら私はアシュマカの総代としてここを離れられませんので、ファーストマンにお目にかかる機会はございません」

「僕はお前達の序列には属していない。お前がアシュマカの現総代なら、僕に礼を取る必要はない」

「おっしゃる序列は、単に組織を管理するために必要な命令系統です。引き継ぐ”血”の濃さと能力には敬意が払われて然るべきです」

ジェラルドは嫌そうに顔をしかめた。

「申し遅れました。わたくしネズと申します」

アシュマカの総代は、感情の乗らない平坦な声でそう名乗った。

「何があったかお聞かせいただきたい。シャーマ派に攫われたはずの貴方様が、なぜ異国人の兵士をここに引き込んだのですか」

「いや、あいつらは別に僕が連れてきたわけでは……」

「下の拝殿からの道を知っていて、扉を開けたのは貴方様ですよね?」

「まあ……ね……」

ジェラルドは物凄く面倒くさそうな顔をした。

「疲れているから、今日のところは休ませてもらってもいいかい?」

「旦那様、韜晦はかえって面倒なことになります。さっさと必要なことを白状して、とっとと帰りましょう」

「どこまでが貴方様の差配です?」

奇怪な頭巾で顔を覆って、表情の読めない白黒二人に詰め寄られて、ジェラルドは閉口した。

「君ら、言葉はぎりぎり丁寧だけど、僕を思いやる気はないよね」

「礼は不要だとのお言葉を頂いておりますので」

「吊し上げて全部吐かそうと思っているわけではないので、要点を簡潔にお願いします」

なんて僕は可愛そうなんだと自分を哀れんでも許されるんじゃなかろうかと、ジェラルドは眉間を人差し指でこすった。


「僕はここの女神像に用があって、シャーマ派の奴らを利用した。シャーマ派のバカどもは、僕がどうこうする前に獣を怒らせて自滅した。皇国軍は僕らの後をつけて来たらしい。奴らにここを荒らされたのは僕の想定外だ」

ネズはしばらく黙ったままジェラルドをじっと見据えていた。

「貴方様のご要件は何だったのでしょう?」

「女神像が完全な状態か確認したかった」

「完全な……」

ネズは惨憺たる状態の聖殿内を見回した。女神像は粉砕、装飾はボロボロ、死体が転がっていて、油煙と血臭がこもっている。

「あー……まったくゆるしがたいやつらだなー」

「…………」

ジェラルドは責任転嫁に失敗した。


彼は一つ咳払いして、無言のままの白装束に、シリアスな表情で向き直った。

「そういえば、君に話しておくべき重要な話があった。皇国軍は”女神の瞳”を入手して悪用しようとしている」

ジェラルドは取り返しのつかない惨状から話題を逸らせるのに成功した。

ネズ;困るととりあえず黙る。

ジェラルド;困るととりあえず喋る。

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