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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

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片頭痛

「奴の話の裏は取れたのか?」

ネズは廊下を足早に歩きながら、配下の報告を確認した。


影の存在である自分達に突然接触してきた不審人物は、不遜で不可解な態度を取り続けたが、語る内容は現状に一致していた。

シャーマ派の過激分子共の動きはたしかに活発化しており、金も人も常になく動いている。拉致があったとすれば、構成員単独の衝動的な犯行ではなく組織的な活動で間違いない。拐われた人物の行方はまだ不明だが、殺害ではなく、監禁または秘密裏に移送される可能性が高いと思われた。


「(あれが二度無き者(ネヴァーモア)なら、その”旦那様”なる人物がシャーマの奴らの手に落ちているのは、ファーストマンはお喜びにならないだろう)」

ネズは重い気持ちで、執務室の重厚な扉を開けた。

二度無き者(ネヴァーモア)は、その昔、ファーストマンが大粛清を行い実権を握るきっかけとなった悪魔だ。年若いネズにとっては昔話の怪物だが、一族の年長者の一部には忘れがたき脅威らしい。あまりの恐ろしさに”二度と現れることのない存在”と名付けたというのだから笑ってしまう。

「(再来するなら二度無き者(ネヴァーモア)ではないではないか)」

奴がここに連れてこられる前に、奴を見た古参の一人が、あれは二度無き者(ネヴァーモア)だ!と叫んで恐慌をきたして暴れ、大騒ぎになったという。耄碌して気弱になった老害が、目の前に現れた脅威に、昔の幻影を重ねて大袈裟に慄いただけだと、ネズは思っているが、無視するには相手の存在が怪しすぎた。

同一の存在ではなかったとしても警戒すべき相手ではあるだろう。今回現れた奴は、伝え聞く悪魔のような人外の風貌ではないが、それほどの悪魔ならば人に擬態すること程度はするだろう。

「(頭の痛い話だ)」

執務机の上にまた増えている大量のメモや走り書きに、ネズは素早く目を通しながら、駆け込んでくる配下の報告を聞いた。

彼の者が連絡を取りたいと言った相手とは、残念ながら接触できなかったようだ。教えられた宿泊先のホテルは、すでにチェックアウトされていた。その前後の様子からすると、ホテルには外部から不審な干渉があったようだ。こちらで把握していたシャーマ派のボーイが一人行方不明になっており、制服だけがバックヤードで発見された。本人の意思で内通するだけならこのタイミングでの高跳びの必要はない。

「(シャーマのアホ共め。余計な余所者に付け込まれたな。情報漏洩の対策すらろくにできんのか。無能)」

苛立ちを込めた罵詈雑言を声にしないで撒き散らしながら、表面上は冷静にそちらの追跡の指示を出した。

「(奴らが愚かなおかげでこちらとしては情報が得やすいので悪いことではないが、尻拭いをさせられているようで腹が立つ)」

大声を張り上げたり、慌てて騒ぎ立てるのは、一族のものとして相応しくないみっともない態度とみなされる。ネズはあくまでも静かに状況に対応した。

「ネズ様、奴を移送した支部の混乱のせいで人手が足りません」

「……仕方あるまい。重要度の低い日常業務や些末な陳情は後回しにしろ。これが最優先だ。支部の混乱は速やかに収束させろ」

「それですが、二度無き者(ネヴァーモア)の名に怯えた者から話が広がって、問題のあった支部以外でも下位級の若手に動揺が広がっているようです」

ネズはもともと陰鬱な顔をさらに歪めて、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「問題の男は、私が直接監視下に置く。居もしない悪魔の影に怯えて醜態をさらす者は、悪魔自身のことよりも当時ファーストマンが行ったことの方を思い出せと言ってやれ」

「承知しました」

騒ぐ無能は粛清するぞと脅されて、ネズ直属の部下は顔色を悪くして退室していった。





地下倉庫に戻ると、二度無き者(ネヴァーモア)は椅子に拘束されたまま大人しくしていた。

誰が持ち込んだのか、椅子をぐるりと囲むように、抗魔灯明が6つも置いてある。

「(うちの直属でも怯えたアホウがいたか)」

ネズは頭痛をこらえて、男の前に行った。

「ああ、やっと来てくれたか」

男はネズを見るとそう言った。口調は男の置かれている状況からするとありえないほどフランクだが、相変わらずその顔からはなんの感情も読み取れない。

「ここは日が暮れると意外に冷えるのだな。君の部下が明かりを沢山持ってきてくれたおかげで快適だったよ。ありがとう」

冗談か嫌味か測りかねる口調で礼を言う男をネズは黙って見下ろした。

男はネズの沈黙は気にせずに、言葉を続けた。

「ついでに、この鎖も外してもらえると、もう少し快適になるんだが、いいかな?」

ネズは男の戯言は取り合わずに、要件を手短に伝えることにした。


「足取りが確認できた。湖上城だ」

「よし。すぐに向かおう」

男はすぐさま立ち上がり、その拍子に木製の椅子がひどい音を立てて壊れた。

「あ、すまん」

後ろ手に掛けられた手枷や足首の鎖を、半端に絡んだままの椅子の破片ごと外して落としながら、男は謝った。

「残りもうっかり壊す前に、外してもらった方が良いように思うんだが」

「……ついてこい」

男は反抗する気はないらしく、言われた通りネズの後についてきた。

宗教系秘密結社の地下室で囚われの身のところで、周囲に六芒星の頂点になるように、怪しい造形の小燈籠を置かれて雰囲気満点だったため、川畑は面白がっていました。

「(中で火が揺れると、側面にはめられた宝石がいい感じに怪しく光るの、アバスさん喜びそう)」

コスプレ風味の大首領様とかシルエットと声だけの裏ボスとかいそう……とちょっと期待したけれど、出てこられても困るので黙っていました。

「(怪人に改造とかやだからなぁ)」


ダーリングさん(瀕死の重傷を負って川畑に魔改造された不幸な人:V3な2号)が聞いたらツッコミ間違いなしの感想ですね。

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