表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

349/484

力技

「(どうだ。初見でコサックダンスは厳しいだろう)」

一見愉快なダンスなのに、きれいな姿勢で踊ろうとすると、物凄くキツイ。

対抗意識を燃やして張り合った巨漢はバランスを崩して尻餅をついた。


川畑は挑んできた巨漢に、「筋トレか!」と突っ込みたくなるようなダンスを、散々ふっかけてやった。

コサックダンスの他にも、しゃがんだ姿勢から、足先を外側に大きく弧を描くように前に出し、上体の高さは低く維持したまま前進とか、仰向けで片手を地面につけただけで、全身をピンと伸ばし、脚を大きく開いたり縮めたりを繰り返すとか……エトセトラエトセトラ。


「(ジーン・ケリーのアクロバットダンスって、下手な筋トレより全身の筋力使うんだよなぁ)」

川畑は、賢者のところでさんざんやらされたトレーニングを思い出して、遠い目をした。


賢者のライブラリの中のネコさんとネズミさんのカートゥーンにハマったチビ妖精たちは、そのお気に入りのキャラクターが俳優と踊るミュージカル映画をいたく気に入った。

『いかりをあげて〜!』

『おーさま、すいへいさんやって〜』

ネズミさんに水兵さんが踊りを教えるシーンを再現できるまで、川畑はゴッコ遊びにつきあわされた。(もちろん完全再現できるようになったら、妖精達が飽きるまで何度でもリクエストされた)

”ネズミさんのお友達の水兵さん”を気に入った妖精達は賢者の映像ライブラリから、その俳優が出ている映画を引っ張り出し、次々と川畑に無茶振りをした。

それを見つけた賢者が、川畑の身体測定や運動能力測定に、そういう動きを要求するようになったせいで、川畑はちょっと素人ができるわけがない動きを完コピできるまでやらされて、かなりひどい目にあった。




水兵 ”ワン・トゥ・スリー・フォー”(タップ入門)

ネズミ”ワン・トゥ・スリー・フォー”

水兵 ”ワン・トゥ・スリー”(初級)

ネズミ”ワン・トゥ・スリー”

水兵 ”ラ・ラ・ララ・ラ・ラ……”(中級)

ネズミ”ラ・ラ・ララ・ラ・ラ……”

水兵「ほら!踊れた」

ネズミ「ホントだ!」

(以後、超上級)


川畑「できるわけねーだろ!!」




血反吐を吐く気持ちで心の中で絶叫したのも、今では懐かしい思い出だ。

人間の追憶を美化する能力ってすげぇよな……と思いながら、川畑は3人目の挑戦者に向かって、指先だけでくいくいっと挑発的な手招きした。

きっとこのろくでもないダンスの連鎖の悪夢も、そのうちいい思い出になってくれると自分を騙したい気持ちでいっぱいである。


幸い伴奏の楽団には、庭園への移動前にお世話になった楽士さんがいて、川畑が知っている曲をうまい具合にピックアップして合わせてくれるので、とてもやりやすかった。知っている曲は解析とシミュレーション済みなので、ダンスを合わせるのが楽なのだ。

川畑は次に使いたい曲の冒頭のリズムで指を鳴らした。

それだけで、どの曲かピタリと当てて演奏し始めてくれる楽士さん達はさすがプロとしかいいようがなかった。


この大庭園は長方形で中央に池やドームはなく、小さな泉水や四阿は、周囲の壁沿いに設けられている。人々が踊っているあたりの足元は、概ね固められた土だが、庭園中央部分は石が敷かれている。

「(ちょっとインチキだが)」

川畑は自分の履物のつま先(ボール)かかと(ヒール)を少し硬化させた。

一段高くなって、ちょっと良い石が敷かれたど真ん中は、いい感じに鳴りそうだった。

歩いていくのは芸がないので、川畑はたぶんバレエ由来のターンで回りながら移動した。ミュージカル俳優がやっていたのの見様見真似で習得したなんちゃってバレエだ(ニジンスキーのボレロは再現を断った)。が、この世界では突っ込むやつはいないはずだ。

段差付近に来たところで、バク宙で段上に上がる。これは単なる格闘ゲームの大技の真似でダンスではないが、脚を派手に蹴り上げる伸身宙返りだから、音楽に合わせさえすればそれなりに見えるはずだ。


投げたリングを受け取って、きっちりアレンジしたうえで同じようにして喰らいついてきた挑戦者と、川畑は庭園中央で向き合った。

こういうケレン味とダンスが大好きなチビ妖精達がいたらさぞ喜んだであろうシチュエーションだ。川畑は、今は高速宇宙艇でジャックと一緒に銀河を旅しているはずの妖精達のことを思い、思わず口の端が上がった。

「やるか」

そういえばこの挑戦者は、チャラい雰囲気がどことなくジャックに似ていた。


「1,2、3,4」

まずは初心者向けのステップ。

相手は楽々返した。

「1,2、3」

タップを鳴らすと、相手はこちらの足元を二度見した。

「踊れよ」

相手はキッと川畑を睨んだが、すぐに似たリズムでシダール風のステップを踏んで返して、ニヤリと笑った。

どうやら前の二人より上手のようだ。

「(さて……練習不足も甚だしいんだが、シダールの異世界人は、巴里のアメリカ人並に踊れるかな。そういえばバンブーダンス部のあれも使えるか)」

川畑アレンジの、独学のタップとバレエとシダールのダンスの奇妙な混合物は、完成度はともかく、オリジナリティには溢れていた。

「(とりあえず出典がどんなろくでもない話でもバレないのはありがたいな)」

”略奪された七人の花嫁”とか”ウエストサイドストーリー”とか、良家の婚礼には不向きにも程がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ