表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/484

防衛

お目当ての金髪美人が戻ってきたのを見て、アンシュは思わず内心で舌なめずりした。

「(バカな野郎だな。逃げ帰ればいいものを)」

美女の隣には、相変わらず大男が付いている。踊りの輪を外れたのは、てっきり奴が美女を囲い込むために部屋に連れ戻ったのだと思ったのだが、違ったらしい。どうやら自分のパートナーが周り中の男に狙われていることにも気付けないデクノボウか、シダールでの婚礼披露の宴でのダンスを甘く見てるアホのようだ。

どこのボンボンか知らないが、ああいうパッとしない風貌のくせに、すかした顔で偉そうに不釣り合いな美女を侍らせている金持ちのバカ息子から、女を掻っさらうのは、胸がすく娯楽だ。


先程、ちょっかいを出されたときは、あの大男は不快そうに競舞を受けて、明らかに不慣れな様子で嫌々踊っていた。仕掛けた奴がショボかったので、なんとかお情けで判定勝ちをもらっていたが、あんな踊り方しかできない男はアンシュの敵ではない。

無礼講の宴の競舞で周囲からの圧倒的な支持を得れば、身分や立場をすべて無視して、その夜をその相手と過ごすことが不文律で認められる。

さすがに、地元の有力者の女を寝取って不興を買うようなバカな真似はしないが、こういうときの一見の外国人客が相手なら、旅行先での火遊びで片付けられてたいした問題にならないのを、アンシュは経験で知っていた。


「(あんな極上の美女、狙わなきゃウソでしょ)」

幸い、金のリングはちょうど今、仕事仲間の男に渡ったところだ。奴は愛妻家だが、アンシュの趣味に理解はある。目配せすると、ちょっと呆れた顔はされたが、小さくうなずいてくれた。これであとは待つばかりだ。


友人夫妻が特にひねりもない定番の踊りを終えたところで、アンシュはニヤニヤしながら手を振った。

アンシュのところからちょっと離れた位置で踊り終わった友人は、わざわざこちらまで来るのが面倒だったらしく、金のリングを投げてよこした。

「あ!」

アンシュがキャッチしようとした直前に、脇から飛び出した男がリングを取ってしまった。

「てめぇ、何しやがる!」

「わりぃな、アンシュ。いただくぜ」

いつも何かというとアンシュと競りたがる気にくわない隣村の三下野郎がが、いけ好かない笑顔でリングを振った。見境がなくて女にだらしない奴のことだ、目当てはあの金髪美人だろう。


案の定、隣村の三下野郎は定形の輪舞を軽くこなしながら、意気揚々と美女のもとに近づいていった。ソロ入りする曲の切れ目で、キザったらしくリングを掲げた三下野郎に、プラチナブロンドの美女は楽しい余興を観るような眼差しを向けた。

「(ちくしょう、あんにゃろうめ)」

苛ついたアンシュが小さく舌打ちしたとき、例の大男が三下野郎の前に出た。

「(まぁ、立場上そうするだろうが、お前じゃ無駄だぜ)」

腹立たしいが三下野郎は、アンシュほどではないが、隣村一番の踊り手だ。

アンシュは大男が負けたところで自分がどう動くか考え始めた。


育ちが良さそうで品のいい服装の、物静かそうな大男は、リングを握って低い声で呟いた。

「さて……やるか」


あたま・かた・ひざ・ポン


大男は金のリングを王冠のように頭に被って、両手で肩と膝を叩いてから、ポンと手を打って、リングを相手の頭に載せた。「やってみろ」にしてもあまりに子供だまし過ぎた。

虚を突かれた対戦者は一瞬ポカンとしたが、すぐにバカにしたような顔で大男を見返した。

そして指先を反らしたり腰をくねらしたりしながら”カッコいいポーズ”で、頭、両肩に触れて、腿を片方ずつ上げてリズミカルに膝を叩き、キレイにターンを決めてみせた。


大男は真面目くさった顔で、対戦者の頭からひょいとリングを取り上げると、くるりと回して自分の頭に載せた。

次の瞬間、大男の腕が目にも留まらぬ速さでクロスして突き出され、目の前の相手の肩を掴んだ。ぎょっとして身を引くより早く、対戦者の身体は大男にくるりと反転させられた。間髪入れずに両足の膝裏を後ろから膝で押されて、思わずたたらを踏む。

”あたま・かた・ひざカックン”だ。


楽団が演奏するコミカルな俗謡のリズムに合わせて、大男は大きなステップでターンしながら対戦者の前に回り込んだ。

崩れた体勢から頭をあげようとした対戦者は、目の前に急に現れた相手の長い脚がうなりを上げんばかりの勢いで自分の頭上すれすれをかすめていったのに気づいて、悲鳴を上げて首を縮めた。

ビビった自分に腹を立てて上体を起こそうとすると、もう1回転した脚が来て、また首をすくめてしゃがむ羽目になる。

相手の頭のリングを奪うために飛び上がろうとすれば、それを見越したかのように、回転してきた脚が今度は足元を払う。あわてて思いっきりジャンプして避けたが、あっという間にもう1回転飛んでくる。

なんとかまた跳んで避けて、終わりかと思えば、次はまた上だ。


上、上、下、下、上、下、上、下


陽気な音楽に合わせて、ピンと伸ばした左右の脚を交互にダイナミックに回転させる大男と、それを避けるためにピョコピョコ飛び跳ねる対戦者の姿は、傍から見ている分には楽しかった。


「(ありゃあ、あいつの勝ちだな)」

アンシュは隣村の男が完全に呑まれているのを見て取った。

大男は、まるで武術か体術のような動きで、彼を翻弄し続けている。ペースを乱された三下は、反撃の機会でもまったくいつもの自分のダンスをさせてもらえていない。あの様子ではもうダメだろう。

「(やはり上背があって手足が長いから、ああいうパワーとスビードのある動きが映える)」

こりゃあ、別の層が喰い付くかもな、とアンシュはひとりごちた。




川畑は金のリングをピンと跳ね上げて、指先で軽く回してへたり込んだ相手の腹の上に投げた。

シンバルが1つ鳴り、笑い声と拍手がまばらに起こった。

川畑はリングを拾って、軽く掲げた。

シンバルが2つ鳴って拍手が起こった。

防衛側の勝利だ。


川畑がちょっといい気分で、アイリーンの方に向き直りながら、適当にリングを背後に投げると、わっと歓声があがった。

アイリーンは、片眉を器用にちょっと上げて、「あらあら」と言いながら、面白がるような表情をした。

「(なんだ?)」

川畑が振り返ると、彼より少し背が高く、彼よりかなり横幅と厚みのある巨漢が、リングを掴んで歯をむき出して笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ