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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第11章 真実の愛が生まれた地で

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報告

「おはようございます。旦那様」

「ん」

寝起きで機嫌が悪いジェラルドは、ブスッとしたまま従者に朝の身支度を一通りやらせた。

「いつ帰ってきた」

「明け方に」

「用事は終わったのか」

「はい」

「あの女は」

「夜行列車でたちました」

「ふーん」

「旦那様も何事もなかったようで、よろしゅうございました」


ジェラルドは出されたカップに口をつけて、顔をしかめた。

「コーヒーじゃない」

「シダール風ミルクティーです」

「沸かしすぎだ」

「加熱処理は衛生管理に有効です」

「やりすぎなんだよ」

ジェラルドはフーフー吹いて冷ましながら、ミルクティーをすすった。


「それで、お前を襲った奴は何者だったんだ?」

「タミルカダルの黒街でノシた黒服の仲間か、そいつらに雇われた悪党のようです。皇国軍の残党……というか出先機関でしょうか。都市間で連携できる規模の組織みたいですよ。私と旦那様の背格好とだいたいの人相風体は通信で伝わっていたようです。拠点っぽいところに通信室があって、そこのくずかごに捨てられていたメモに、書かれていました」

「なんて?」

ジェラルドは耳を疑った。

「”金髪碧眼。女顔の若い優男。中肉中背。高級だが軽薄な身なり”で”黒髪の大男の従者あり”」

「すごくツッコミどころの多い形容だけど、問題はそこじゃなくて、なんでお前、そんなところのくずかごを漁ってるんだよ」

「すみません。ゴミ漁りは旦那様の従者としてはやるべきではない下賤な行為でした」

「そうじゃない」

ジェラルドは半目で眉を寄せた。


「お前は、襲撃犯の拠点に押しかけてなにをやってきたんだ」

「とりあえず役に立ちそうな資料は頂いて、残りと通信機は焼いてきました」

「えええ……」

「加熱処理は安全確保に有効です」

「やりすぎなんだよ」

「小火程度なので街で騒ぎにはなっていませんでしたよ。が、市内の複数拠点を軒並み駄目にしてやったので、あちらとしてはそこそこ痛いダメージだったはずです。昨夜はこちらを襲いに来るどころではなかったでしょうね。とはいえ、そろそろ立て直してきてもおかしくないので、気をつけて行動するよう願いします」


ジェラルドは頭痛をこらえるように手で目元を覆って、うつむいた。

「二日酔いですか?ミルクティーではなく、何かもう少しスッキリしたものをお持ちしましょうか」

「コーヒーではなくてもよいけれど、何か目の覚めるものが欲しい。新聞があれば持ってきてくれ」

呻くジェラルドの傍らで、従者は首を捻った。

「あいにく新聞はございませんが……ああ、ではこちらなどいかがです?」

従者はジェラルドの前に書類の束を置いた。

「押収品です」

ジェラルドは噴いた。

従者は紙が飛ばないように、ペーパーウエイト代わりに、ポケットから出した石を紙束の上に置いた。

「なんでお前、土のついたままの石をポケットに入れているんだよ!」

そろそろ限界のジェラルドは、雑に置かれた石を指さして怒った。

従者は眉一つ動かさずに平然と石を手に取った。

「お土産です。お気に召しませんか」

「どうして僕がそんな石っころを気に入ると思ったんだ?!どっから掘り出してきたんだ、そんなもの」

「剛石鉱山です」

従者は手で石についた土を丁寧に落としてから、再びポケットにしまった。

「は?」

「やはり赤いアダマス以外は興味ないですか?赤くて大きいのもあったんですが、それは昔、取り上げられちゃったんですよ」

「あぁ?」

フリーズしたジェラルドは、理解が追いつかないというように、間抜けな声を上げた。

「そこの書類で”大鴉の血(レイブンブラッド)”って名で呼ばれているものがあるでしょう。それ、新造の女神の瞳です。タミルカダルで宝石職人が作った奴ですね。そしてその原石はここから東にある鉱山で昔、俺が見つけたやつみたいです。ヴァイオレット嬢のお父上が助けた行き倒れかけていた男というのが、どうやら俺が知っている男……鉱山での同僚だったようなので」

ジェラルドは口を開けたまま、数度瞬きした。


「そうだ。知っているという意味では、旦那様も会ったことがある男ですよ。花車祭会場で旦那様を人質に飛行機強奪した男です」

ジェラルドは酸欠の金魚のように口をパクパクさせた、

「いかがなさいました?」

「じょ……情報過多で目が覚めた」

「それはよろしゅうございました」

従者は飲みかけのミルクティーを下げた。


テーブルを拭いて、先程出した書類を整えると、彼は石の代わりに今度は黄色い鳥の置物を上に置いた。

「ところで旦那様。よろしければ歴史に関していくつかご確認させていただきたいことがあるのです」

知的欲求に満ち満ちた顔つきの従者に、ジェラルドは嫌と言い出せなかった。どちらかというとこちらが質問攻めにしたい方なのだが、下手なことを聞くと想像の10倍ぐらいとんでもない話が出てきそうなので、それも怖くてできない。

ジェラルドが何も言えないのを、都合よく解釈したらしい従者は、広域地図が書かれた紙を取り出した。

「まず北方列強の歴史的な相互関係と、各国の植民地政策がどのようなものでシダールへの侵攻と植民地支配がどのような経緯で進められたのか押さえた上で、今から20〜30年ほど前のシダールでの政治情勢推移をお伺いしたくて……」

「気が遠くなって来た」

結局ジェラルドは、午前中いっぱい解放してもらえなかった。

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