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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第10章 太陽の炎が消えた時

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説明

説明回です。誤字修正しました。

「すみません。状況を整理させてください」

タミルカダルへの旅行の手配の話が出たところで、ヘルマンは現状把握をギブアップした。


ジェラルドは面倒な説明を従者に丸投げしようとした。しかし「旦那様の身元と行動については、憶測で有る事無い事言いますよ」と言われて、渋々自分で説明することにした。


「僕はワケアリで実家や身元は明かせないが金と暇には困っていない立場だ」

雑な説明をすれば、ヘルマンは切れ長の目を目を丸くした。

「多少面倒な監視はついているが、気にしなければ向こうから接触はしてこないし、普通はこちらに気づかれないように気を使ってくれているから気にしなくていい」

ジェラルドは従者をちらりと見て、お前もいらんことをするなと言いたげな顔をしてから、話を続けた。

「先日、知り合いの紹介で出会ったお嬢さんから遺産相続に関する相談を受けていてね。いささか奇妙な一件なので付き合うことにしたんだ」

「はあ」

ヘルマンは今ひとつ話がどうつながるのかうまく飲み込めていない様子で曖昧な相槌をうった。


「このヴァイオレットというお嬢さんのお父上は生前、シダールの連隊で軍医をしていた時、タミルカダルに住んでいてね。そこの古美術商と付き合いがあったたらしい。ご両親を亡くされて家庭教師をして暮らしているヴァイオレット嬢の元にこの古美術商から手紙が届いた。お父上から預かった品があるので取りに来てほしいという話だ。ところがこれには条件があって、必ず本人が来ないと遺品は渡さないってことなのさ。その本人証明になるのが、くだんのお父上が、生前に奥様に送った帽子なんだが……」

「それがアレですか?」

ヘルマンは、従者の手元にある臙脂色の婦人帽に目をやった。


それは品のいい定番の型の婦人帽で、片側に控えめな羽飾りがあり、その基部に小さな赤い石がいくつか散らしてあった。

「そうだ。そして”太陽の炎”とすり替えられたのは、その帽子の飾り石なんだ」

たしかに帽子の飾りの中央には、飾り石を固定するための金具がついていて、元はそこに周囲のものより大きめの石が付いていたであろうことが見て取れた。

「帽子屋に修理に出されたときに、この帽子の石が、博物館に展示中の”太陽の炎”にそっくりなのに目をつけた悪党がいたようでね」

ヘルマンはテーブルの上の赤い石に目をやった。柔らかい布の上に置かれたその石は、たしかにグートマン卿の”太陽の炎”にそっくりだ。

「旦那様、帽子につけるのはこちらの柘榴石でよろしいですか?」

白い手袋をした従者が、テーブルの上の石を取り上げて、ジェラルドに尋ねた。

「ああ、いいよ。ヴァイオレット嬢に帽子を返すときには元通りにしておかないといけないからね」

「承知しました。ではこちらの方をはめておきます」

石と帽子を手にした従者が、作業を始めたところで、ヘルマンはジェラルドに視線を戻した。


「ホーソン様、こちらの柘榴石が貴方様のお知り合いのお嬢様の帽子についていたものだというのはわかりました。そのお嬢様がお父上の財産の相続の件でタミルカダルに行く必要があるのも理解できました。……ところでなぜ私はその旅行に同行する必要があるのでしょうか?」

ヘルマンは心底不思議そうに首を傾げた。

「ご主人様からは、ご主人様がホーソン様に託された品を、ホーソン様があるべきところに戻すのに協力するように仰せつかっておりますが、この件はそれと無関係な気がします」

「うーん、まぁ無関係な可能性が高いんだけどね」

ジェラルドは苦笑した。


「君は僕がグートマン卿からどういうものを託されたかどの程度理解している?」

問われたヘルマンは、堅苦しく座っていたその背をさらにピンと伸ばして答えた。

「はい。それは昨日、貴方様が持ち帰ったケースに入っていた石です。ご主人様が以前から所持していたもので、”太陽の炎”の精巧なイミテーションと思われますが、正直、それが何で、あるべきところがどこなのか、皆目見当が付きません。ご主人様はその石の存在を秘匿していたので、あまり良い曰くの品ではないように思っていたのですが……」

後半になるにつれて言いづらそうに声が小さくなったヘルマンは、ジェラルドの反応を気にして押し黙った。


ジェラルドはあまり愉快そうではない様子で、髪をかきあげた。

「要するに全然わかってないのか」

「申し訳ございません」

恐縮して身を縮めたヘルマンにジェラルドは冷たい笑みを向けた。

「ねえ、君。どうせ事情を知らないならさ、このまま事情を説明される前に、帰りなよ。そうすればタミルカダルにも一緒に行かなくて済むよ」

「いえ!そういうわけにはまいりません!!命を果たさず帰るなどご主人様に顔向けできません」

ヘルマンはハッとして必死に言い募った。

「ホーソン様、どうか教えてください。一体どのような経緯があるのでしょうか」


真面目で忠義なのも厄介なものだと、ジェラルドはため息をついた。

「グートマン卿が僕に託した石は、”本物”の”太陽の炎”だよ」

ジェラルドは飾り気のない宝石入れを取り出した。

「博物館に展示され、今、グートマン卿が持っている石は、グートマン卿が用意した複製品だ」

ヘルマンは困惑した顔で「しかし……」と言った。

「あの石は最高品質の希少な尖晶石なんですよ。それが複製品だなんて、おかしいのではないですか?」

彼は眉を寄せて少し考えたあと、何か思いついた様子で顔を上げた。

「そうか!実はその石は、名高い”太陽の炎”と言うには実はそれほど良くない石なのですね。それでご主人様は、その名にふさわしい石を代わりに用意した……違いますか?」

「うん。違う」

ジェラルドはすっぱり言った。

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