表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第10章 太陽の炎が消えた時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

297/484

休憩

話したくてうずうずしている様子だったジェラルドは、説明を請われて、嬉しそうに目をキラキラさせた。

「単純なことなんだけどね。どこから話そうか?」

「最初から始めて最後まで……といいたいところですが」

コートを片付けて戻ってきた従者は、暖炉の火の様子を見てから、ジェラルドのお気に入りの肘掛け椅子を暖炉の近くに置いた。

「まず、彼はいったいどんな秘密結社だか宗教だかにはまっているんですか?」

タチが悪そうだと眉根を寄せてそう尋ねた従者に、ジェラルドは大笑いした。

「彼は秘教の信者だよ。元からの信仰かもしれないが、おそらくシダールで事業を行っていたときに、改宗したんだろうね」

あの応接室の調度を見ただろう?といいながら、ジェラルドは肘掛け椅子にゆったりと座った。

「旦那様もその秘教とやらの信者なんですか?」

「信者というわけではないさ。ただ、縁があって結構詳しくてね。独特の古風な言い回しや慣習はよく知っている」

「あの"加護と繁栄があらんことを"みたいな奴ですか」

従者は片手を上げて、もっともらしい声音で祝福の挨拶を真似てみせた。

「うまいじゃないか。それは上位の使徒が平信者に祝福を与える時の言葉なんだ」

ジェラルドはニヤニヤしながら脚を組んだ。

「つまりグートマン卿は旦那様のことをそのマイナー宗教の高位司祭か何かだと勘違いしていたと言うことですね」

従者はジェラルドの靴を脱がせて、室内履きを履かせた。

「彼、礼拝のポーズを取りかけてたものねぇ。さすがにあれは勘弁してほしいよ」

苦笑するジェラルドを、従者はあきれた顔で見た。


「では"ファーストマン"というのはそこの教主か何かですか」

「あれ?そんなところまで聞いていたのかい。地獄耳だね。教主……というのとは違うけれど、大元締めというか一番偉い立場かな。最古参の頭領だよ。グートマン卿のようなにわかの平信徒からすれば雲の上の人だ」

「そこにとりなしをするって、適当なことを言って、卿を騙して石を巻き上げてきたんですね。ひどいペテン師だ」

従者は顔をしかめた。

「おいおい。僕は別にそんな約束を条件に石をもらってはいないよ。それにもしもファーストマンに会うことがあったら、ちゃんとこの話はするつもりだからペテンじゃない」

「会う予定があるのですか?」

従者はジェラルドをじとりと睨んだ。

「今のところないな」

ジェラルドはあっさり答えた。

従者は盛大なため息をついた。


「飲み物は何になさいますか?紅茶?レモネード?」

「この時間だ。酒精入りで頼むよ。だが、そうだな、何かさっぱりしたものを」

ジェラルドはふと、昨夜の件を思い出した。

「飲みたいならブレイクも何か飲んでいいぞ」

グラスの用意をしていた従者は少し驚いた様子で振り向いた。

「よろしいのですか?」

「勝手にどこかに出掛けて飲んでこられるよりはいい」

我ながらこれはちょっと言い過ぎたかとジェラルドは思ったが、彼の従者は特に気にした様子もなく、嬉しそうに自分のグラスを用意しはじめた。


「それで例の石の件なんですが……」

「うん。その前に、これは何?」

ジェラルドはレモンが刺さったグラスの中身を怪訝そうに眺めた。

「カモミールティーとウィスキーのソーダ割です。飲み口は爽やかですし、カモミールティーは安眠の効果があるんですよ」

「紅茶とレモネードと酒を全部混ぜただけじゃないか!」

「お気に召しませんか」

ジェラルドはグラスの中身を一口飲んだ。

「……うまいよ」

「それはよろしゅうございました」

ジェラルドは従者のグラスを見た。同じくソーダ割のようだが色合いが違うし、レモンの飾り切りは刺さっていなくて、代わりに何かの果物が沈んでいる。

「そっちはなんだ」

従者はちょっとためらったあと、言いにくそうに答えた。

()の蜂蜜漬けシロップのソーダ割です」

「甘っ!お前、そんなものを飲むのか!?」

長身で筋肉質な従者は、ばつが悪そうにスッと横を向いた。ジェラルドはそもそも桃の蜂蜜漬けなるものがすぐに出てくるということは、この従者がこっそり自分用に仕込んでいたのだということに思い至って、唖然とした。

「顔に似合わず甘党なんだな。それなら今度マーサ夫人に頼んでプディングかケーキでも作ってもらおうか」

従者はパッと顔を上げてジェラルドを見た。

「旦那様も甘味を召し上がりますか?でしたら、夫人に厨房を借りて何か作りますよ」

ワクワクと嬉しそうにどんなケーキがいいか相談しだした従者に、ジェラルドは困惑気味にリクエストを伝えた。


「それでお前、石の話が聞きたかったんじゃないのか?」

「そうでした。なんで石が3つ出てきたんですか?」

ヴァイオレット嬢の"真実の愛"の帽子についていたのが柘榴石、"太陽の炎"として博物館に飾られていたのが尖晶石、この二つがすり替えられただけなら話は単純だ。しかし、グートマン卿の話ではどうもそれだけではない。突然出てきた3つ目が問題だ。

しかも……と言って、従者は懐から地味な宝石入れを取り出した。

「よりによってその3つ目が赤いアダマスというのはどういうことなんですか?」

開かれたケースの中で、見事な深紅の宝石が輝いた。

解説終わらなかった……。

川畑の飲み物に入っているのは、例の"桃"です。つまり軟弱な甘味飲料ではなく劇物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ