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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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親の顔を見て……納得

海棠の父は、押しの強い迫力のある人物で、いかにも新興のカリスマ社長という感じだった。


休校明けの学校に乗り込んできた彼は、自分のシンパである家の親達と、理事長や校長を始めとする教職員の偉い人一式を集めた場で、御形と川畑を吊し上げた。

曰く、今回の一件は非のない彼の息子を逆恨みした川畑が、御形をそそのかし、生徒会に偽の悪評を吹き込んで、Sプロを粛清させようとしたのが原因らしい。

一連の弾劾の中で語られる川畑の人物像は、妬み深く陰質で、凶状持ちの乱暴者だが、小心で誰かの威を借りて吠えたがる育ちの悪いチンピラ……というなかなか楽しい男だった。

短絡的で頭の悪い暴力男という印象を持たせたいのか、フィクサー的な頭脳派の犯罪者と思わせたいのか、主張に統一性がないせいで、分裂症気味の危ない人みたいになっているのが、いっそキャラクター的には面白いなぁ、と川畑は他人事の気分で聞いていた。隣の御形の肩が微妙に震えて、握った拳が白くなっているのは、あまりの荒唐無稽さに笑いをこらえているからに違いない。


"貴様、極悪非道だな"

"やめてください、ヴァレさん。でっち上げなのはわかってるんでしょ"

ヴァレリアからの通信に、川畑は黙って立ったまま例のピンバッチ経由で返信した。

もちろんお互い目も合わさないままだ。ヴァレリアは会議室の隅で教職員の列の端に保健医の榊としてひっそりと座っているし、川畑は被告さながらに、御形と二人並んで立たされている。

"でもお前、虚実入り混ざったたデータを生徒会に流して裏で情報操作してただろ?"

"やってましたね"

"そこの御形って子を客寄せの広告塔だか、視線避けのデコイだかに利用しようとしてたし"

"人聞きが悪い。ただのプロモーションです"

"衝動的に度の過ぎた暴力行為を働いて、器物損壊もしてたなよ"

川畑は怪獣をぶん投げて、中等部校舎を全壊させた時のことを思い浮かべた。確かにあれはいささか衝動的だったし、そのあとの光線技は、ちょっと度が過ぎていた気もする。

"そういう側面がなかったわけではないですね"

"これだけ熱心にあげつらわれている罪状より、事実の方が酷いっていうのは憐れだな"

"言わないでください"


海棠の父は、息子が入院する羽目になったのは、このような狂暴な生徒を放置した学校側の監督不行届でもあり、この後の対応によっては、公の場での損害賠償請求も辞さないと畳み掛けてきた。

学校側はしどろもどろに弁明と謝罪っぽいものをこねくりまわした。しかし、その主張するところは要約すると"本校は生徒の自主自立を尊重しているから、そこは自己責任で"ということらしい。生徒会や風紀委員が組織的に悪いことをすると、さすがに知らぬ存ぜぬはできないため、当然のように、学校側は"川畑個人が元凶"という案にのっかってきた。

さしあたって、この何の身分もコネもないどうでもよさそうな学生が1人スケープゴートになれば、この場は丸く収まりそうだという雰囲気が会議室に漂った。


その場の雰囲気を切り捨てたのは、灰色のスーツを着た1人の婦人だった。

「皆様の主張はよく理解しました」

理解はしたけれど共感や同意は1ミリもしていないのが丸分かりの冷たい声音だった。

海棠の父の向かい側、立たされている御形と川畑の脇の、他に誰もいない父母席で、その婦人は背をシャンと伸ばして座っていた。彼女は険のある鋭い眼差しで、海棠の父とその両脇に並んだ腰巾着親父どもをねめつけた。


デオキシリボ核酸で生きてるわけでもないのに、遺伝形質ががっつり仕事してるのって、すごい、などと思いながら、川畑は目元と唇が御形そっくりの婦人の発言を拝聴した。


「どうやら貴殿方のおっしゃるところでは、うちのバカ息子は何処の馬の骨ともしれないチンピラにそそのかされて、いうなりに悪事の片棒を担がされた……と、こういうお話のようですが」

冷え冷えとした目付きと口調で、御形夫人は周囲のザコども(ギャラリー)を凍らせた。

「どうなの?伊吹」

「いや、俺は俺の判断で行動している。生徒会や風紀委員の活動にこいつを巻き込んだのはむしろ俺だし、もちろんそのどちらの活動方針も、各組織の主要構成メンバーできちんと規則通りの会合の場で決めたものだ。こいつとは関係ない」

「そう」

素っ気なく応えた御形夫人に向かって、海棠の父はわざとらしい笑みを浮かべた。

「いやいや、さすが御形家の息子さんだ。正義感が強いご様子ですな。だが必要以上に身内を盲信して庇うのはいただけない。お母様からも、悪い友人とは付き合うなと、一言言ってやってください」

「我が家では、嫁にする気で惚れた相手以外は、冷静かつ多角的に評価しろと教えています」

御形夫人はピシャリと言い返した。

「その上で護ると決めたなら、その判断ごと全責任を負えというのが、うちのルールです。そしてもちろん未成年であるこの子の責任は親である私と主人、我が家全体が負うべき責任でもあります」

御形夫人は、驚いている川畑に厳格に宣言した。

「うちの伊吹が怪我を負ってまで護ったということは、あなたは御形家の庇護下にあります。安易に罪を擦り付けて切り捨てるようなみっともない真似はしないし、させないので、安心しなさい」

川畑は呆気にとられて言葉につまった。

顔が似ている以上に、確かに御形伊吹はこの親の子で、この親は御形伊吹の親だった。

川畑は夫人に向かって真摯に一礼した。

Q: なぜ嫁にする相手は、評価の対象外なの?

A: そんなもん、本気で惚れたら本人に冷静な判断なんてできるわけないから。

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伊吹ママかっけぇー
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