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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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身バレ

安否確認の諸々の連絡を済ませた御形は、川畑が洗い物をしている音を聞きながら、つまらなそうに頬杖をついた。

「川畑……お前、学校やめるのか」

水音が止まった。

「もともと……」

ひどく言いづらそうに、ぼそぼそ応える声がした。

「ここには長く通う予定じゃなかった」

「ふうん。残念だな」

やってもらおうと思っていたことや、一緒にやりたかったことが、色々浮かんだが、口に出すのも未練な気がして、御形は口をつぐんだ。


川畑はリビングにやって来ると御形の隣に座った。

「夏休みに入るまでと思っていたが、今回の件でややこしいことになりそうなら、これでやめるかもしれない」

「そうか。海外の親元に行くのか?あっちの学校は秋始まりだもんな」

川畑は「ああ」と曖昧な返事をした。

「お前のためにはそっちのがいいんだろうな」

「別に戻ったところで一緒に住む親がいるってわけでもないけど……」

「そうなのか?ダーリングさんってのは?」

「聞いてたのか」

川畑は嫌そうに眉を寄せた。

「別に肉親じゃないし、一緒に住んだこともない。政府だか軍だかの要職に就いてて、いつも仕事が忙しい人なんだ。無理やり押し掛けてわがままを言えば嫌々付き合ってはくれるけど、そんなに邪魔をしていい相手でもない」

つまり、にもかかわらず突然押し掛けてわがままをいうお前に、その都度付き合って面倒をみてくれる相手なわけだ……。

御形は、この世話焼きで、何でもかんでも一人でできますという顔をした後輩が、そうやって頼りに行く相手がいるということがなんとなく面白くなかったが、それを口に出さない分別はあった。


「たぶんこの後、お前のいうところの"ややこしいこと"は起こるよ。海棠が怪我してるからな。奴の実家が出張ってくるだろうし。そうなりゃ、関係者の俺とお前はターゲットにされる。怪物騒ぎで俺達が関わってたのは、目撃者も多い。怪物が巨大化した原因が俺達だって追及される可能性は高い。巨人の件に至っては目撃者がなくてもバレないのがおかしいぐらいだしな」

「……木村の撮影したデータさえ押さえとけば、ばれないんじゃないかな」

「バカかお前は。あの巨人の体型も動きもお前そのものじゃないか。見た瞬間にお前が関連してるってわかったぞ」

「うぐぇっ」

川畑は喉の奥から変な声をあげた。

本気でバレていないと思っていたらしい。


「体型って、身長と横幅の比率とか結構違わなかったか?動きもほら、構えが猫背気味だったし」

「腰からケツの筋肉の付き方とか、お前そっくりだったじゃん。拘束されたときに、抜けようともがくときの癖とか」

「そんなもの把握するのやめてくれ!」

悲鳴をあげた川畑を、御形は残念な子を見る目で見た。

「とにかく。飛び回ってた奴や警備会社のあれこれの記録に残ってる巨人のデータが分析されたら、すでに関係者で上がっているお前が目をつけられるのはすぐだから、そのつもりで覚悟しておけよ」

「うええ」

頭を抱えた川畑の肩を、御形はポンと叩いた。

「なあに。色々追及されるときは俺も一緒だ。できるだけお前に矛先が行かないようにしてやるよ」

返事は帰って来なかった。


しばらく沈黙していた川畑は、頭を抱えた手の指の隙間から恐る恐るといった感じで御形を見た。

「なあ、見た瞬間にわかったってことは、あんた、アレが俺関係のなにかだと思って支援してたってことか?」

「そうじゃなきゃ、あんな無茶するわけねーだろ」

「うわあぁ」

「反省しろ。後輩があんなみっともない戦い方してるの黙って見てられるか」

「伊吹……あんた……うぇえ…マジか」

言葉につまった川畑に御形は畳み掛けた。

「お前かなりあれこれまずいことやってるだろう。正直、大規模魔法の連発しすぎで途中から意識が朦朧としてよくは覚えてないんだが、明らかに俺の魔術じゃなくてお前が撃たせてた術が入ってただろ?あれ、学生が発動していい類いの術じゃねぇぞ。それに周囲の魔力変動が明らかにおかしな強制力で干渉されてる感じだったし」

「知覚できてたのか……」

「バカにすんな。お前、俺の体に侵入して、感覚乗っ取って、結構好き勝手してただろう」

「え?そっちもばれて?」

「そっちは確証はなかったが、今、確信した」

「げ」

「お前さぁ……」

御形は呆れた顔で、川畑の額をつついた。

「隙が多いんだよ。見てらんない」

川畑は声にならない悲鳴を上げて、倒れた。


「いいけどさ。庇うにしても二人でしらばっくれるにしても、口裏は合わせておこうぜ」

御形はラグの上に倒れた川畑を足でつついた。

「海棠の親だのなんだのが出てきたら、ただの学生じゃどうにもならん。俺も明日、家に戻って親父らに話を通しておく。今晩中にこっちの主張するストーリーを固めるぞ。ほら、いい加減起きてお前の建前を話せ」

川畑はノロノロと顔を上げた。

「いいのか?」

「何が」

「お前んちに迷惑がかかる」

「バカ野郎。うちは代々お国の要人の警護をやって来た家だぞ。ゴギョウってのは護る御業(みわざ)の意味からきてんだよ。新興の警備屋や軍需企業の社長程度に睨まれてどうにかなる家じゃねぇ」

「ひょっとして、伊吹ってかなりいいところの御曹司なのか?」

「敬え。崇めろ。……とは言わねぇよ。バカ。うちの学校のA組なんかに所属している奴は多かれ少なかれいい家の坊っちゃん嬢ちゃんだ。生徒会長クラスじゃなきゃ名家扱いしなくていい」

「そうなのか」

「ちなみにスズナんとこの八千草家も名家だぞ。あいつもお嬢様だ」

「へー」

うつろな返事をする川畑をひっぱたいて、御形は強引に作戦会議を始めた。

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