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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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たぶん当事者は大真面目

「本当にこんなやり方で行くのか?」

ヴァレリアは川畑の隣に並んで確認した。

「正直、私の作った武器やお前の能力で攻撃すれば、一瞬で終わると思うんだが」

「それだとなぜ怪獣が倒されたのかがわからないだろう」

「別に構わないんじゃないか?」

「その世界のルールや世界観に合わせて対応してやるってことも重要なのかなって、最近思うようになったんだ」

ヴァレリアは、川畑がそれを実行できているとは全然思えなかったが、若者が新しいことを学んで、試してみようと努力しているなら、協力してやってもいいか、と思った。

「物好きだな」

「あと、のりこがどんな目にあったのか確認しておきたい」

「ああ。なるほど」

その機嫌の悪そうな声音には、大事な彼女をひどい目にあわされた苛立ちが滲んでいて、ヴァレリアは苦笑した。だからと言って彼女と同じ呪術を自分にかけてくれなどという提案をしてくる思考回路はよくわからなかったが、他人の色恋の機微など理解できた試しがない。

「お前がしたいようにやればいいさ。私は手を貸すためにここにいる」

「ありがとう」


川畑は大きな魔方陣の中にもうけられた空白の枠内に入った。

「複製ではなくて本人が入るのか?」

「複製を作った方がいいかな?直に入った方が制御はしやすそうだと思ったんだが」

「複製を作れば、他の生徒と一緒に避難して自分は無関係だという顔ができるだろう」

「ああ、なるほどアリバイ工作か。それはいいな」

「あっちに用意してある。精密機器は複製できないから外せよ」

ヴァレリアは一回り小さな魔方陣を指差した。


「へぇ、俺ってこんな風なんだ。自分の眼で視ると変な感じだな」

川畑は横たわった自分の複製を見下ろして、感心した。魔法で造られた複製っぽさはまったくない。

「アレンジしたから元の術式で造られる複製よりも性能はいいぞ。お前ならほぼ自分の体と同じように操作できるだろう」

「あ、ホントだ。面白いな。これ」

むくりと起き上がったコピーは、立ち上がって、川畑と向かいあった。


「では、贄はこっちに寝ろ。ちゃんとリンクしていれば遠隔でも制御はできるはずだから、避難しておけよ」

大型の魔方陣を起動しながら、ヴァレリアは振り替えって、二人の川畑に声をかけた。川畑は外していたインカムとピンバッチを着けているところだった。ヴァレリアでも見分けがつかないほどそっくりな二人は、互いに軽く手を振って別れると、インカムを着けた方は非常階段の方に走っていき、もう一人は魔方陣に入った。

「器用な男だな。身体2つ同時に動かせるのか。意識は1つだろう?」

「ながら作業は得意です」

「会話までできるのか。修行を積んだ魔術師でもいきなりでそこまではなかなかできんぞ」

「師匠がいいんでしょう」

ヴァレリアは一瞬、言葉に詰まった後、汚れてもいない眼鏡を拭いてかけ直した。


「始めるぞ」

「ちょっと、待ってください」

「なんだ?」

「発動の魔力提供は俺がします。それとこれを着ておきたくて……"着装"」

魔方陣の中の川畑の全身を黒い皮膜が包んだ。ヴァレリアが作った川畑専用強化装甲のアンダーウェアである。頭部までつるんとした白い内殻で覆った継ぎ目のない漆黒の全身スーツは、外部装甲がないと、無貌の悪魔のようで不気味だった。

「あの黒い怪物の中って、うねうねグニグニして吸い付いて揉んでくる感じで、どうにも長時間は無理そうなんで。これ着ておけば少しはましかと」

服の中にまで入ってくるのが最悪だったと溢す黒い怪人に、ヴァレリアは曖昧な笑みを返した。


「準備できました!先生、お願いします」

のっぺりした卵形の白い頭部、彫刻のような黒い体躯。そんな代物が大型の呪術魔方陣の中に横たわっているのはなんとも禍々しい感じだった。

「(魔女っぽいと言えば、そうなんだけど。こんなことしているの、国の勇者に見つかったら、退治されそう……)」

ヴァレリアは遠い目をして、詠唱を開始した。




「川畑!無事だったか」

非常階段の1階出口で、川畑は御形に見つかった。

「伊吹先輩、避難してないとダメじゃないですか」

「それはこっちの台詞だ!バカ野郎。急に姿を消しやがって。心配したぞ」

「あ…それは、すみません」

「他にまだ避難していない者や、要救助者は?」

「中等部校舎および共用棟南側には要救助者おりません。避難完了を確認しました」

「よし。……橘に礼を言っとけよ。あいつがお前は音楽室前に居たって教えてくれたんだ」

「あいつ余計なことを」

御形は川畑の後ろ頭を張り倒し、お前は、誰かがお前のことを心配しているということに無頓着すぎる、と説教した。

「これまであまり他人から心配されるという経験がなかったので」

「嘘だろう!?お前ほど心配になる奴はなかなかいないぞ!」

「そうですか?」

「そうだよ!なんだその面は。少なくとも俺はお前が心配でハラハラさせられっぱなしだよ」

怒る御形の後ろについて歩きながら、川畑はなんともむず痒い気持ちをもて余した。


「なんだあれは?」

体育館に向かう途中で、御形が校庭の先の空を見上げた。そこには異様な形態の航空機が飛んでいた。

「デンジ推進機関……実現しているのか」

川畑は巨大な三角形の航空機を見上げて呆然と呟いた。

どうやって浮いているのか地球物理学では説明不可能な航空機っぽい何かは、ゆっくり飛びながら近づいてきて、怪獣に向けて、馬鹿馬鹿しく大きなミサイルを発射した。

デンジ推進システムとは:

だいたい三角形をしていたら飛ぶという理論に基づくスーパーテクノロジーです。


さぁ!世界が緩んで参りました。

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