危険なオールグリーン
長いものには巻かれる方だ
性格診断で、そんな設問が出てきたら「ややあてはまる」にチェックを入れる程度には、保守的な自覚がある。要らぬ波風は立てたくないし、できるだけルールはきちんと守りたい。
身体的にも精神的にも少なからず他人と違っている自覚があるが、それだけに目立つのは嫌いだ。
なんだかんだで我慢するのは慣れているし、諦めもいい方だと思う。他人のために何かするのは嫌いではないし、そのために自分が割りを食っても、まぁ、いいかなと考えてしまう。
リーダーや王様になりたいとは思わないし、どう考えても実務を回す裏方の方が向いていると思う。
だから、目の前のイケメンが言うことも、まったくの見当外れというわけではないのだ。(ただし、誰かに媚びへつらいたいという変な性癖はないし、どちらかと言うと無礼で尊大だと怒られる方が多い……)
彼の態度や言葉の選び方に腹はたつが、あまり接点もないよく知らない他人の言動のクセに目くじらを立てて、ここで事を荒立ててもしょうがない。これは"そういう人物"として成立しているのだろうし、自分が積極的に干渉したい訳でもない。
そんな風に考えて、何を言われても何をされても、我慢していた。早めに風紀委員長を治療する算段をつける方が重要だったからだ。
想定外だったのは、とうの要救助者本人の行動だった。
「(まさかあの状態で俺を助けようとするとは)」
これまで暴力沙汰の現場で、他人から保護対象として庇われた覚えがなかった。
「(バカだなぁ。"後輩の面倒はちゃんとみる"なんてポリシーのために、俺なんかにそこまでしなくても)」
所詮は少しの間だけのかりそめの後輩なのに。そう思うと罪悪感のせいか胸がズキリと痛んだ。
それでも、大事だと思う信念があって、それを譲らないと言いきって行動できる根性があるのは、尊敬できたし、我慢ならないと言って自分のかわりに非礼を怒ってくれたのは、なんだか嬉しかった。
これに報いるのは吝かではない。
「(本当はあまりよろしくないんだけど。……本人が許すと言っていたから、まぁいいか)」
川畑は御形の要求に応えるために、自分の能力内に彼を丸ごと取り込んだ。
それまで体の接触面からゆるゆると微量ずつ提供するだけだった魔力を、一気に展開して相手の全身を制御範囲におく。
川畑は翻訳さんをフル活用して、御形の全感覚をジャックした。思った通り患部に激しい痛みがある。これを何とかしないと魔術の行使は難しいだろう。
この世界の生体構造の詳細がわからないので、とりあえず明らかにまずそうな骨や筋の損傷部位を整える。あとは本人の身体強化の術式に沿って、強制的に全身に自分の魔力を充填する。
「(どうせなら気持ちよく射ってもらうか)」
ついでに痛覚を別の不快ではない感覚に変換してやる。後で不信がられたらランナーズハイみたいなものだったのでは?と言ってごまかすことにする。
本人が発動しようとしている術式に、適合するように自分の術式を組み込んでかけ戻し、変更した詠唱句を言語野に干渉して認識させる。
自然に頭に浮かんだ言葉が口をついてでた、という感覚になるように違和感をなくしてくれと、翻訳さんにオーダーしておく。気持ち悪い思いはさせたくないし、拒絶されるのも嫌だ。
「(合体技は連携と同調が大事だからな)」
まずいところはないか、念のために全身を再度精密チェックする。
問題なし
御形が川畑と組んだ手を海棠に向かって突き出すと、空中で白と青の光の線が交錯し、多重構造の魔方陣が描き出された。
川畑は御形の手を強く握り返し、詠唱句を唱和した。
【吹雪】
多目的室内に、煌めく雪片が舞う嵐が吹き荒れた。
Sプロスタッフの赤い帽子が吹き飛ばされ、海棠の隣にいた男の眼鏡が真っ白になった。海棠の赤い装甲のスーツも正面が斑に白くなる。
スタッフ達は転んで尻餅を突き、眼鏡の奴はあわてて手探りで逃げ出したが、海棠は顔に当たる風雪を手で防ぎながら、魔力を放射して防御結界を張った。
「この程度……なんの痛痒もない!」
風を防いでいた手を大きく払って、海棠は叫んだ。
白い吹雪のなかで、炎のような赤い魔力光の防御結界に包まれた海棠と、青い魔力光の放射に包まれた御形は睨み合った。
「スオウ、鼻が赤いぜ……後で痒くならないといいな」
「黙れ!」
海棠は脚部のホルダーから大口径の銃のようなものを引き抜いた。
放たれたのは、暴徒鎮圧用のゴム弾だった。発射された弾が飛翔しながら風圧で切れ目に沿って十字形に開く。六角形の氷の盾が3枚砕け、御形を抱えたまま、川畑は横に転がった。
「避けたか」
「バカ野郎!そんなものこんな至近距離で撃つな。当たりどころが悪けりゃ死ぬぞ」
「ならばこちらはどうだ」
海棠は先ほどとは逆側から、また別のいびつな形の銃を取り出した。
術が解けて吹雪がおさまった室内にガス式の発射音が響いた。
氷の盾が開くと同時に砕け、放電の火花が飛んだ。
「短針ワイヤー式電撃銃!?正気か。学校だぞ」
盾に阻まれて落ちた弾頭には電極が付いており、銃から伸びたワイヤーから供給された電気の放電で火花が散っていた。
「非殺傷式銃だ。問題ないだろ」
「低殺傷式銃だ。問題だらけだ」
海棠は銃からワイヤーを切り離した。
「ならば銃ではない状態で使ってやろう」
いびつな銃本体の先端に付いた2本の針の間で放電光が飛んだ。
主人公、なんだかんだ言ってますが、やってることはタチの悪い人外。
川畑「縁の下の力持ちっていいよな」
D「体制転覆を企んで地下活動で屋台骨を揺るがす工作員ですか?」
ダーリング「適正がありすぎるからやめろ」
自己評価と周囲の評価が食い違うのは、ままあることです。




