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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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ディレクターズカット版は後で作ろう

「かー、想定以上に使いでのあるコンテンツ提供してくれたなぁ、風紀委員長はん。この後、木村くん、ぼろもうけできんで」

橘は報道部改め電子情報部の広報ページにリンクした特設記事に、煽りまくった見出しと、作為的に抽出した画像をレイアウトして、満足そうにうなずいた。

どこのコミックのヒーローですか?という感じのカットで取り上げられている御形伊吹は、それはもう格好良かった。

「ほな、八千草先輩、記事の最終チェックお願いしま」

"「いやーん、素敵。OK。これでいいわ。ありがとう、ミカンちゃん」"

「いえいえ、こちらこそ。ご協力感謝感激ですわ。うちでは御形先輩をここまで礼賛した提灯記事書けませんもん。よお、まー、あんな怖ぁーい兄さんをこんだけ美化して見れますなぁ」

"「美化だなんてそんな。伊吹くんは普通に滅茶苦茶カッコいいでしょ?飾らなくて、男らしくてちょっと野性的で、でもとっても親切で面倒見がいいの。女の子には素っ気ないけど、困ってる子や後輩には優しいのよ。私、伊吹くんの良いところなら軽く100個言えるわ。でも今回は伊吹くん狙いの女の子が増えすぎても困るから、これでも極力、理性的で客観的なおさえ目の記事にしたのよ」"

八千草は、バイアスが入りまくったコメントを高速で返してきた。テンションが上がっているのか、社交ダンス部の花形で、スタイル抜群の美女である八千草の、普段のイイ女感がどこかにすっ飛んでいる。

"「ああ、でも改めて見ると素敵。特に今回のこの魔力酔い気味の伊吹くん、すっごく色っぽくて最高。後で動画ノーカットでちょうだいって木村くんと竹本くんによろしくね」"

「あ~、はいはい」

橘は"好きこそもののあわれなり"という言葉を思い浮かべながら、遠い目をした。


「という訳で、校了やでー。ドードーはん、あと頼んます」

「これはまた……凄まじい破壊力だな。いいのかなぁ、本人に内緒でこんな方向にプロモーションしちゃって」

記事にざっと目を通しながら、藤村は唸った。

「大丈夫。平気、平気。どっちみち動画は生中継しちゃったし、この後、編集版のアップもあるんやろ?この程度の記事はオマケみたいなもんやで」

「うーむ、そいじゃ、ホラよ。アップしたぞ」

「怒られるときは一蓮托生やから」

「全然ダメじゃねぇか!」

半目の藤村に、橘はニシシと笑った。

「ほな、後の反響のフォローと誘導、しばらく頼むわ。うち、ちょっくら出掛けてくるよって」

「どこ行くんだ?」

「そら、うちの本業は取材やからな」

突撃レポート、楽しみに待っててや!と言い残して、橘はいずこかへ出掛けていった。




"「全体の状況は?」"

「よう、川畑。お疲れ様。かなり優勢で推移してるぞ。今、帽子屋の旦那も呼ぶ」

藤村は黐木(もちのき)に連絡を入れた。

"「川畑、よくやった。お陰で中等部の赤陣営クラスの勢いがかなり落ちた。イメージでなんとなく赤に行ってた層を取り込めそうだ」"

"「木村が動画を撮影してたようだな。公開中継したのか」"

"「危険な術式を使用した件で糾弾キャンペーン中だ」"

"「俺の映像は晒すなよ」"

藤村は文字列を見ただけで、川畑の不機嫌な顔が目に浮かんだ。あの男は、やることが派手な割りに、表立って取り上げられるのを嫌う。

「広告塔は風紀委員長だ。お前は映り込んじゃった分だけだから。作成中の編集版ではできるだけカットするよ」

嘘は言っていないぞ!と心の中で苦しい言い訳を考えながら、藤村はフォローした。

中継動画の川畑が、"バーサーカー"とコメントされ、"アレと戦うの?"と赤陣営の中学生を恐怖に凍らせたのはそっと伏せることにした。

"「御形の調子は?なんだか様子がおかしかったが」"

"「問題ない。現在、多目的室北のバリケード前で交戦中。相手がモデルガンを複数投入していて攻めあぐねている。竹本経由で模型部のサバゲ仲間に確認してもらったんだが、どうも素人に高い銃だけ大量に支給した感じだそうだ。銃のスペックに対して他の装備が全然で、撃ち方もなってないらしい。ゲームとしての対人戦の基本マナーも射撃の腕もないから、かなり危険だって言われた。安全のためにゴーグルかフェイスシールドが調達できないか?手持ちの防衛結界は面が大きすぎて乱戦や跳弾防御に向かない」"

「魔術部に発注してみるが量産は時間がかかるぞ」

"「わかった。別の策も検討するが、とりあえず頼む」"

"「攻略はしばらくかかりそうか」"

"「対人で伊吹先輩の魔術は強力過ぎる」"

お前もな……と藤村は川畑の凶悪な戦闘映像を思い出した。

"「地道に攻めるしかない。中等部校舎側からのルートや生徒会室直近の防衛を確実に頼む。必要なら俺が戻る」"

"「危険になりそうなら連絡する。できればこのままそちらに専念してくれ。召喚獣の件で、世論は現状でかなり掴めている。この調子なら時間切れでの投票に持ち込まなくても良さそうだ」"


やっぱりこの二人、時間切れまで持ち込む気だったんだなと、藤村は納得した。最初から妙に回りくどい作戦行動で、御形と川畑という強力なコマがある割りには、消極的な展開しかしておらず、もどかしく思っていたのだ。戦後の遺恨やゴタゴタを避けるために慎重に安全策をとっている節があるが、すでにあれほどの戦力があることを見せつけたなら、もう押しきってしまった方がすっきりする。


「世論はこちらでもう少し煽って、風紀・生徒会支持に持っていく。後で生徒会長コメントを入手してくれ」

"「了解。召喚獣術式の使用については生徒会から正式に抗議を提出した。抗議文の写しを送ろう。術者は本戦終了後にそれなりの処分を受けることになるだろうな」"

「それは自業自得だ」


御形と川畑がアホみたいに非常識な強さだったから、娯楽ヒーロー動画ですんだが、そうでなければパニックホラーかジェノサイドだったのだ。やらかした奴は停学や退学処分になっても仕方がない。

藤村は先ほど保健室の先生が動画を見ながら言っていたことを伝えておくことにした。


「自業自得と言えばだが。川畑、召喚術の術者を見つけたらすぐに保健室に連れてこい。呪術系の強力な魔術は、術が破られたとき術者に反動があるものが多いそうだ。あれだけの召喚獣の反動がもし術者に反っていたら、容態が心配だと榊先生が言っていた」

"「わかった。見付け次第、保護する」"

「自分を狙った相手だからって半殺しにするなよ」

"「俺をどんな奴だと思ってるんだ」"

藤村はそれに返事は返さなかったが、編集中の動画を見ながらポツリと呟いた。

「バーサーカー」

大振りなナイフを両手でふるい、怪物を次々と屠る男の凄まじい映像を、藤村はカットした。

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