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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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狩り尽くせ

青嵐(ブルーゲイル)

空中に1m程の氷の槍が、螺旋状に次々と氷結し、青い魔方陣から吹き付ける強風が、それを廊下の突き当たりに集められた獣達に叩き込む。

突き出された御形と川畑の手元では、二人の腕輪が融け合うように青く燃え上がっている。

連続で強力な魔術を発動させる御形の全身はあふれでた魔力光でうっすらと青く輝き、灰色の髪は時折銀色のスパークを放ちながらたなびいていた。


「すっげ…かっけぇ……」

もともとない語彙を完全になくした芹沢は、怪物の群れを蹂躙する二人を呆然と眺めていた。

魔術なんてまったく使えない中学生の芹沢だったが、その場の空気にあてられて、全身が熱を帯びてなにかが沸き立つような感覚に体が震えた。荒くなった呼吸に合わせて自核が青みを帯びた緑色に輝く。

目の前の二人の強烈な魔力に取り込まれ、全身の感覚が変換されたような寒気を感じた瞬間に、芹沢は廊下の向こうの隅にいる赤帽子の動きに気がついた。


「兄貴、右の奴!」

赤帽子が構えたモデルガンから炸裂音が響く。

川畑の前に雪の結晶のような形をした氷の盾が現れ、薄いガラスが割れるような澄んだ音をたてて砕け散った。出現しかけた黒い魔方陣が、氷の砕片に散らされて消える。

連続で発射音がし、氷の花が咲いては消えた。


芹沢の後方から黒いなにかが投げられて、モデルガンが跳ね飛んで赤帽子が右手を押さえて悲鳴をあげた。

「ジャグラー!対人でナイフは止めろ」

「大丈夫。ゴム製のオモチャだよ」

芹沢のすぐ後ろにいたひょろりとした男は、結構な刃渡りの黒いナイフをぷらぷら揺すって、爬虫類っぽい変な笑みを浮かべた。


「ほらよ」

投げ渡されたナイフを川畑は確認した。確かに握りから刃先まで黒いゴム製のオモチャだ。

「使っていいぜ」

追加で投げられたナイフを、川畑と御形はキャッチした。


氷雪の祝福(フローズンブレス)

青白い輝きがナイフの刃先を覆う。

「ゴム、凍らせると脆くなるんじゃないか?」

川畑は両手に2本のナイフを構えた。

「コーティングしてるだけだから平気だろ」

御形は気だるげにナイフとライトを持ちかえた。

「じゃあ、残りは白兵戦で」

二人は残りの獣に向かって猛然とダッシュした。




氷の結晶で覆われた白い床面ギリギリを飛ぶ映像に、召喚獣の黒い巨体とほのかに青く光る人影が映る。青白い光条が走り、黒い身体に白い筋が入った。細い傷口の両側が侵食されるように氷結する。次の瞬間、氷の結晶は粉々に砕け散った。

切り飛ばされた脚がカメラに向かって飛んでくる。脚はぶつかる直前で黒い瘴気と白い氷片に分解して散り散りになった。

回避行動で視界が揺れる。回転する画面が安定したとき、怪物の最後の1体は黒い瘴気の塊になり、あっけなく収束して、小さな布片になっていた。


布片を拾い上げる手を追って上昇したカメラは、そのまま風紀委員長を、やや見上げるように至近距離で映した。

うっすらと魔力光に包まれた御形は気だるそうで、日頃は険のある目がどこかとろんとしていた。カメラに気づいたのか御形が視線をこちらに向ける。物憂げに見下ろしているにも関わらず、その目の奥には凶悪な獣性のような熱が渦巻いていた。

「いけ」

傲岸にそう命じたところで、御形の姿がフレーム外に引かれた。


「撮らなくていい」

御形のシャツの襟元をつかんで引き寄せながら、川畑はドローンのカメラを塞ぐように手を突きだした。

ドローンが引いて上空に待機すると、川畑は御形が羽織っていただけのシャツのボタンを手早く留めて、ネクタイを結んだ。ぶつくさぼやく御形に小言を言いながら、シャツの裾をズボンの中に突っ込む。嫌がる御形の髪を両手でざっくりかきあげて手櫛で整え、川畑は身だしなみの最終チェックをした。

最後にシャツからピンバッチを外して、自分のズボンのポケットにしまうと、川畑は一歩下がって竹本と木村に通信を入れた。

"「撮って良し」"


なんとなく呆然と二人の様子を見てしまっていた廊下の生徒達に向かって、多少、冷静になった御形は気まずそうに1つ咳払いをしてから声を張った。

「危険な違法術式は排除した。このまま一気に攻める。俺に続け!」

「おーっ!」

御形の力強い檄に青陣営は一気にテンションを上げた。


「2Cの応援部隊は防壁展開。階段前を確保頼む。2Bは風紀部隊と一緒に伊吹に続け。3Bの皆さん、3Aと赤帽子(レッドキャップ)残党の対応お願いします」

「兄貴!オレは?」

矢継ぎ早に指示を出す川畑に、横から目を輝かせて飛びついてきた芹沢は、子犬のように襟首を掴まれた。

「残念ながら、お前は俺の指揮下にない。そうだろ?緑十字軍リーダー」

川畑は仏頂面で、芹沢の安全第一ヘルメットをぺちぺち叩いた。

「床が凍って滑りやすい。氷の下にはガラス片も落ちている。怪我人がでないようにしろ」

「ガッテン承知!」

芹沢は下手くそなウインクをすると仲間の方へ駆け出していった。

「おーい、ここの床滑るぞーっ…ったったっちょわぁあっ!?」


「あのバカ……」

転んで頭を打ちかけた芹沢はすんでのところでジャグリング部に支えられた。肩を竦めたジャグラーに川畑は軽く手を振って礼をし、そのまま御形の後を追った。

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