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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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援護する人される人

強風(ゲイル)

青い魔方陣が明滅し獣達を押し返していた風が弱まる。


「すまん!川畑。もうそう長くは支援できん」

叫ぶ御形の顔色は悪く、腕輪や核の光も明らかに暗くなっていた。

「術式展開だけしてくれ。発動の魔力はこちらで供給する」

獣複数体を同時に牽制しながら川畑は叫び返した。

「無理だ。俺の高速短縮詠唱は全部セットで組んでいるから、そういう器用な運用はできん。単独の術式構築と展開は資料見ながら集中する必要がある。……俺も前に出る!」

モップを手にこちらに来ようとする御形を川畑は怒鳴り付けた。

「青い顔してふらついてるくせに何言ってんだ!危ないからこっちくんな」

川畑の意識が御形に向いた一瞬の隙を突いて、獣の1体の強靭な前足が彼が振り回している結界面を真横に払った。たまらずに川畑の体が空き教室の方に吹き飛ぶ。巨大な獣達は、贄と定めた川畑を追って次々と空き教室に飛び込んで行った。

「川畑!」

蒼白になった御形の脇を、小型のドローンが追い越して行った。


「ヤバい、ヤバい、ヤバい」

竹本はドローンを操縦しながら、ヘッドセットの画像に没入した。

自分が小さなドローンになったつもりで、風紀委員長の脇をすり抜け、ガラスどころか、窓枠や壁までもズタズタに破損している空き教室に飛び込む。

教室内は黒い瘴気を立ち上らせる獣達で一杯で、川畑はその奥に倒れていた。一番、川畑の近くにいる獣が、床に落ちたプラスチック製のチリトリを踏み割った。川畑は上体を起こしかけたが、どう考えても彼が起き上がるより、迫る獣の牙が彼を噛み砕く方が早そうだった。

竹本は巨大な獣の間をすり抜け、一番前の獣にまっすぐ突っ込んだ。

「ファイヤー!!」

獣の大きな目玉を正面にとらえて、ドローンのコントローラーの赤いボタンを押す。

小型ドローンから、弾丸というのもおこがましい小さなプラスチック玉が連射された。

「どうだ!バタツキ(バレット&)弾蝶(バターフライ)の必殺攻撃は」

小型ドローンは、目玉を撃たれて高く吠えた獣の牙を掠めて捻り込みながら、戦闘ヘリもかくやという高機動で獣の眼前を旋回した。

煩わしいコバエを払おうとするように頭を振った獣の顎に、川畑の蹴りが入った。

吹っ飛ぶ獣の黒い瘴気の流れるアップが切れて視界が安定したとき、解像度のあまりよくないドローンのカメラに映ったのは、窓からの逆光で顔の見えない男が、胸の中央と両腕に澄んだ青い光を煌々と灯して仁王立ちになっている姿だった。




「…っか野郎……」

歯を食い縛った奥で呟いて、気力だけで駆け出そうとした御形の肩に激痛が走った。

乾いた炸裂音が廊下に響く。

共用棟に続く廊下の向こうには、いつの間にか赤い帽子を被ったSプロスタッフ達がおり、その中の一人がモデルガンのようなものを構えていた。


「てめぇら」

御形の右肩には、小さな黒い魔方陣が浮かんでいた。なけなしの魔力が吸い出されて散らされている感覚がある。当てられたのはただのBB弾ではなかったようだ。

「今だ。御形はもう動けないぞ!」

Sプロの双子の片割れが赤帽子(レッドキャップ)の一団に号令した。


「御形さんを守れ!」

副長と風紀委員達が北階段側から駆け出す。

「3A、籠ってないで戦力だせ!風紀を挟撃するぞ」

「3B!A組を自由にさせるな」

召喚獣を恐れて様子を見ていた3Aや、その向こうの3Bが動き出す。

一気に人が増えた廊下に、御形の怒鳴り声が響いた。

「出てくんな!まだ獣は……」

「もらったぁ!」

赤く光る手が伸びて、御形の喉笛を掴んだ。


「伊吹に、触んなあぁ!」

空き教室から物凄い勢いで黒板消しが飛んできて、御形を襲った赤帽子の頭に直撃した。

チョークの白い粉が爆煙のように派手に舞い上がり、赤い帽子が吹き飛んで、襲撃者は廊下の端に倒れた。

「ぶはっ」

むせてよろめいた御形は、腕を強く捕まれて引き寄せられた。

青い魔力光が煌めくやたらがっしりした胸板にぶつかったとたんに、どっと力が流れ込む。体の根幹が熱をおび、全身の細胞が励起するような感覚に、御形は身体を震わせた。


「止めんか、バカ者!」

飛びかけた意識を無理やり引きずり戻して、チカチカする目を数度瞬くと、御形は目の前のバカを睨み付けた。

「魔力を無理やり突っ込むな!」

「結構平気だな。もう慣れたんじゃないか?」

「慣れたくねぇっ!!」

「左、来るぞ」

空き教室から飛び出してきた獣の攻撃を、川畑と御形はそれぞれ左右に別れて飛び退いて避けた。

横回転の回し蹴りと、縦回転の踵落としが同時に入り、手近な生徒に噛みつきかけていた獣が倒れた。


「魔法防御と格闘回避できない奴は退避!!奴の瘴気に触れると魔力持っていかれるぞ」

御形は赤青無関係に周囲の全員に警告すると、川畑に残りを倒せる算段はあるかと聞いた。

「剣を割られた」

「これを使え」

御形はモップを川畑に投げた。

祝福の息吹(ブレス)

モップの柄がうっすら青く輝いた。

「これで召喚核の魔法防壁を貫けるはずだ。切るのは無理でも、お前の腕力なら刺すぐらいはできるだろう」

川畑は手近な獣を蹴り飛ばしながら、重さのバランスを確認するようにモップをぐるりと回した。

「強度はそれほど上がってないから無茶な取り扱いはするなよ」

「了解」

半身を引いて腰を落とすと、モップを構える。川畑が柄に沿ってすっと左手を滑らせると、モップは一度薄緑色に光った。

「参る」


川畑は先端を持ってモップを振った。唸りをあげんばかりの勢いで振り回されたモップの頭が、獣の鼻先を強打する。

「ひええっ」

獣に襲われかけていた生徒が、腰を抜かしてへたりこんだ。

「割れたガラスがあるから気を付けろ」

御形が座り込みかけた生徒の腕をつかんで立たせようとすると、その生徒の赤い腕輪が消灯し、彼はくたりと脱力した。

「ああん?めんどくせぇな」

混戦になっている廊下には、ガラス片が散乱しているのに、戦闘で消灯したり、召喚獣の黒い瘴気にあてられた生徒が何人か倒れている。

魔力は回復したものの、この状況では風系の魔術は使えない。

川畑も自分が避けるだけでも大変なのに、他の生徒に被害がでないように立ち回っているせいで、なかなか獣にとどめがさせないでいるようだった。

青陣営の味方は御形の指示に従うだろうが、赤陣営側はこちらの話をきく気はさらさらないだろう。御形は襲ってきた赤帽子に、消灯した奴を押し付けると、脚を払ってガラスの落ちていなさそうな方に向かって転がした。


「邪魔くせぇ!誰か転がった奴ら片付けろ!」

苛立って叫んだ御形に、「はいっ!!」っとやたらに威勢のいい良い返事が返ってきた。

「緑十字軍。救助活動を開始します!みんな、行くぞ!」

「おーっ!」

廊下の向こうから突撃してきたのは、安全第一のヘルメットを被った芹沢とその愉快な仲間達だった。

川畑が御形を"伊吹"呼びしているのは、彼は"余裕のない戦闘中は敬称略"の原則で行動しているからです。(ダーリングさん相手でも戦闘中は呼び捨て)


御形は尊敬されるか怖がられているせいで、そういう感じに接してくれる親しい友人が少ないので、内心実はちょっと嬉しい。

御形「うるせぇ」


はい。ツンデレ美少女キャラではないのでこんな話題ふってもしょうがないですね……御形さん、灰色頭に険しいつり目の三白眼の悪役顔で、川畑とタメはる身長のごっつい兄ちゃんなんだよなぁ(ため息)。

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