表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/484

グリーンジャイアント

「戸を開けて!お願い、迎えに行かせて!早く助けないと」

「ダメだ!この向こうは敵だらけだ」

「だって私達、親友なのよ!見捨てられない」

「諦めろ。向こう側にもう生きている味方はいない」

女子生徒はわっと泣き崩れた。

「もう嫌だ……限界だよ。降伏しよう」

「なにいってるんだ!まだまだこれからだろう」

「だって、この後、俺達になにができるって言うんだよ。怯えて教室に籠っているだけなら、もう降伏して楽になっちゃえばいいじゃないか」

「まだだ。もう少し頑張ろう。教室の防衛ならこの人数でもなんとかなる。ここにいれば安全なんだから」

「私、友達を見捨てて、自分だけ安全なところにいるなんて嫌!」

止めようとするクラスメイトを振り切って、女子生徒が戸の鍵を開けようとしたところで、突然、廊下から爆発音と悲鳴が響いた。

鍵がなぜか向こう側から開けられて、モップをつっかえ棒にしてある戸がガタガタと鳴った。

「ひっ」

怯えて後ずさった彼女の目の前で、モップをつっかえていない方の戸が開いて、大量の白煙と共に恐ろしく背の高い2人が入ってきた。

「悪い、遅くなった。救援に来たぞ」

完全に恐怖映画のリアクションで出迎えられた川畑の隣で、ジャグリング部の男は「悪役ゴッコ(ヴィランロール)大好きな俺としてはナイスなシチュエーション」と呟いた。




「応急処置ですまん。これでもうしばらく頑張ってくれ」

「すみません。ありがとうございます」

廊下にいた消灯者を運び込み、級核に結界を張らせた川畑は、魔方陣用紙をクラス委員に渡した。

「これ、予備の結界な。運動場側からの侵入者も警戒しろよ」

「はい」

「最新状況は通信係の君がみんなに伝えてくれ」

「わかりました」

放送委員は、教えられた青陣営専用ページにアクセスして、そのやたらに趣味的で"それっぽい"デザインに困惑しながらうなずいた。

「困ったことがあったら、そこのメッセージ欄で相談しろ。勝敗と関係ないことでもいい。大丈夫。君達は孤立していない。俺達は皆の安全と無事を願っている。連絡事項を見逃すな」

「はい!」

いい返事に、川畑は少し微笑んでうなずいた。

「よし。ここは大丈夫だ。次に行こう」

「へいへい」

ごつい大男とひょろりとした連れの二人組は、巨体に似合わぬ身軽さで運動場側の窓から外に出ていった。




「中等部1、2年の孤立していたクラスが立て直したようだ」

「良かった。怪我や体調不良の連絡は?」

「1件あったが、対処済みだ。連絡網に繋がったから、この後、何かあってもすぐ対応できると思う」

生徒会長神納木シズカはほっと息をついた。


「そういえば、例の回復方法の件はその後どう?」

「コードのサンプルデータは連絡済み、解析結果をもとに、高2Bと中2Dのメディックで試験運用中。ある程度の素養があれば魔力変調による他クラスメンバー回復は可能だそうだ」

「魔力変調って、中等部でそんなことをできる子がいたの?」

「高2Bの子の妹だそうだ。お姉さんに教わりながらなんとかやったらしい」

「凄いわね。将来有望だわ」

「その姉の方が協力して、今、手法の簡略化が進められている。これができたら、陣営内に情報展開する」

「助かるわ。それができれば救援で遠征したメンバーが回復可能になるもの」

「確かに青巾兵並みの機動力が発揮できれば、戦力の運用はかなり楽になる」

「青巾兵?」

聞きなれない単語にシズカは首をかしげた。

「高2Bの精鋭外回り部隊だ。青い布を巻いているからそう呼ばれてる。混戦中に消灯しても即座に同行するメディックが回復させるんで、ほぼ不死身部隊らしい」

「それは頼もしいわ……でも、そういうネーミングって、誰がしてるのかしら」

電子情報部の藤村が楽しそうに命名していた事実はそっと伏せて、副会長は別の話題をふった。


「そういえば、緑の巨人(グリーンジャイアント)なんていうのの噂も流れているぞ」

「あ、見ましたそれ!青陣営(うち)の裏ネットじゃなくて、校内の一般掲示板で書き込まれてましたよね」

「一体なんなの?」

「なんか膠着した戦場に現れて、強制的に一時停戦させて、要救助者を敵味方かまわずに救助して回ってるらしいですよ。緑色の旗を持ってるらしいです。感謝の声とか書き込まれてますよ。ほら」

見てみると、確かに感謝の言葉が並んでいる。


"助けてくれてありがとう"

"まさに地獄に仏です"

"もうダメかと思いましたが、お陰で間に合いました"

"悩んでいた頭痛が解消されました"

"本当に体が軽くなり、楽になりました"

"人間関係のトラブルに悩まなくて良くなりました"


「……なんだか、よく分からない感謝が入っているわね」

「この通販の"お客様の声"みたいなの、なんなんでしょうね?」

「口止めでもされているのか、具体的にどうやって助けられているのかはあげられていないが、特に級核が落ちたクラスで独自に何かやっているらしい。口コミで奴に助けを求める声が上がっていて、実際、その声に応じて助けにいっているらしい」

「困った人ね……やっている人助け自体は反対するようなことではないんだけど」

シズカは感謝以外の言葉も並ぶ画面を眺めた。


"緑巨人(グリーンジャイアント)には逆らうな"

"超怖い"

"トラウマもの。夢に出そう"

"なにがなんだかわからないうちにやられた"

"逆らわなければ無害(逆らったときには……)"

"大巨人怒る。を目にしてはいけない"

"あれ、まだ怒ってないらしいです"

"ガクブル"

"俺が奴を倒す!……そう思っていた時期が私にもありました"

"お前ら、説得1回目で言うこと聞けよ。説得(物理)はヤバい。説得(魔法)はもっとヤバい"


この巨人さん、時々手段が間違っているんじゃないかしら?と、生徒会長はため息をついた




「ありがとうございました。お陰で助かりました。廊下で倒れているの地味に辛かったんです」

「申し訳ありません。お時間いただいちゃって……僕ら、青陣営じゃないのに」

「いいさ。伊吹先輩から後輩の面倒はよくみろって言われてるから」

「そうなのか?」

大男の隣のひょろりとした連れが、意外そうに尋ねた。

「あの人あれでけっこう世話焼きで面倒見いいんだよ。頼めば親身に協力してくれるし。俺なんか世話になりっぱなしだ」

伊吹というのが、鬼の風紀委員長のファーストネームだと一同が気づいた時には、大男はひょろりとした連れと一緒に、教室から去っていた。


「そうか。あの人、風紀委員長の後輩なのか」

「そういえば、今朝、一緒にいるの見た」

「うん。なんか並んで立ってた」

「僕、怖いから下向いて急いで通りすぎようとしたら、おはようって声かけられた。ちゃんと顔見てなかったけど、多分あの人だ」

「なんか……親切ないい人だったよね」

「高2だよね。次期風紀委員長かなぁ?」

「そうじゃないか?あ、でもリコール成立して御形さん辞めさせられたら、義理立てしてやらなさそう」

「仲良さそうだし、そうかも」

一同は顔を見合わせた。

なんとなく雰囲気で、赤陣営についたが、ちょっと早計だった気がしていた。

「ねぇ、掲示板に緑巨人(グリーンジャイアント)さんありがとうって書いたら、中2のE組の人からこんなメッセージ来たんだけど……」


"君も緑十字軍に入らないか?同志募集中"


中2臭が香ばしいタイトルに、一同は困惑したが、詳細はなかなか興味深い話だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ