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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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その輝きが命の証

引っ越しって気力も体力も財力も使いますね。

ヘロヘロですがとりあえず更新。

「川畑、植木が敵陣総大将だ」

"「ああ」"

イヤホンから聴こえた川畑の返事はいつも通りの落ち着いた声だった。


竹本は心配そうに声を落とした。

「お前からの連絡通りに準備はできてるが、方針は変更しなくていいか?やっぱり敵陣営の本陣と総大将の植木を速攻で落とした方がいいんじゃないか?お前ならできるだろう」

"「いや。今回は単に勝負に勝ってもしょうがない。現体制側がゴリ押しで圧勝したのでは禍根が残る。予定通り行く」"

「あ、やっぱりゴリ押しならすぐに落とせるんだな……わかったよ。情報部のデビュー戦だ。回り道でひっそり派手にいこう」

川畑はやっぱりいつも通りの声で了解の返事を返して、2、3の連絡事項を伝えたあと、通信を切った。


「(読めねぇ奴だなぁ)」

竹本は、川畑が、今はどんな顔をしているのか知りたくて、歯がゆい気分になったが、どうせ顔を見ても分かりにくいのにはかわりないだろうなと思い直した。

大抵の雑事を解決してくれているあのクラスメイトは、いつも無愛想な仏頂面で、何かあっても少し困ったような顔をしているだけなのだ。

「(まぁいっか。俺の気にすることでもねーや)」

竹本は1つ肩をすくめて、電子情報部の藤村にドローンの映像を送った。




"「参加証を付与します。所属クラスの教室または所属陣営の指定本陣内で待機し、付与魔術の完了まで各自その場を動かないようにしてください。参加証がない場合、以後の陣取り戦で攻撃、救助、復活、級核(クラスコア)および主核(メインコア)の破壊などの行動ができません」"

無機質なアナウンスに続いて、大規模魔術が発動し、教室で待機していた各生徒の両手首と胸の前に光が集まった。

光は透明な何かがあるような空間の揺らぎになって、円環状の腕輪と、胸元に浮かぶ小球の形をとった。

"「各自、自分の腕輪(リング)自核(パーソナルコア)が正しくされたことを確認してください。修正、再取得が必要な生徒は、職員室まで来てください」"


「これが参加証?」

赤松ランは手首の周りでチラチラ揺らめく円環をつついた。

「触れるわけじゃないのか」

ランの指先は手応えなく腕輪をすり抜けた。

「体内の魔力循環に干渉されてる感じがする」

黒木ユリは付与された魔術がどういう仕組みなのか分析しようと集中した。


"「(コア)を設置します。総大将および各級将は、核を設置する場所に両手をかざしてください」"

アナウンスに従って、各クラスの代表者達が手をかざすと、その位置に拳大の光の玉が出現した。それぞれの所属陣営に応じて、生徒会派は青色、リコール請求側は赤色の輝きが灯る。

光の玉の出現に合わせて、各自の腕輪と胸元の球もその所属陣営の色で光り始めた。

"「腕輪と自核が正しく点灯していることを確認してください。」"


「わ、きれい」

「なんか、俺の光、お前のより若干暗いんだけど」

「あれ?ホントだ。個人差がある?」


ざわつくクラスメイト達を、黒木ユリはぐるりと見回した。

光の強弱と各クラスメイトの特徴に関連性はないか考える。

「わかった」

「何?ユリ。どうしたの?」

「魔力量よ」

ユリはランに自分の腕輪を見せた。

「供給される魔力量で光量が変化してるわ。ラン、あなた身体強化系の魔術得意でしょ。その要領で調節してみて……ほら」

ランの腕輪の光がわずかに明るくなったり暗くなったりした。

「ホントだ。連動してるのか。面白いけど、この程度の明るさの差だと何の役にもたちそうもないな……」

ランは首をかしげた。


"「異なる陣営の色の腕輪を付けた相手に触れられると、これらは消灯し、参加権が一時停止されます。消灯した場合は、自陣以外の場所での移動に制限が発生します。危険ですから、直ちに停止して、横たわるなどの安全な姿勢で待機してください。この移動制限は、点灯している相手に接触している場合は、緩和されます」"


「どういうこと?」

「敵にやられたら倒れて、味方の救助を待てってことじゃないかな」

「なるほど。なんかルール説明わざと分かりにくく言ってないか?」


「"触られると"の条件の詳細が重要だな。即時行動不能はきついぞ。救助と復活の条件はなんだ」

竹本は、アナウンスに合わせて教室正面に表示されていくルール詳細を目で追った。


"「消灯状態は、要救護者の自核に救護者(メディック)が十分な時間触れることによって解除可能です。救護者は核1つにつき2名まで登録可能です。救護者を登録します。該当者は所属の核に両手で触れてください。登録が完了すると、腕輪が2重になります」"


「梅田、メディック誰にする?」

「ええっと、回復要員だから、アタッカー向きじゃない人がなった方がいいよな……」

「待って!」

クラス委員の梅田を、ユリは止めた。

「メディックは魔力量の多い人か、身体強化系魔術の操作に長けている人がなった方がいい」

「どういうことだ?」

「自核や腕輪の術式の維持に、各自の魔力が使われているのよ。アクションの成否や性能に魔力量が影響あるかもしれない。腕輪を2つ維持して、術式の行使をたくさんやるはずのメディックは魔力多い方がいいと思う」

「わかった。……山桜桃さん、お願いしていいかな」

「は、はい」

山桜桃が級核に触れると、青い輝きが明滅し、彼女の手首に二つ目の腕輪が出現した。


「もう一人は……」

梅田がもう一人を指名しようとクラスを見回したとき、なにやら難しい顔でタブレットを覗き込んでいた竹本が顔をあげた。

「梅田。生徒会から情報が来た。メディックの1人は"一番落ちにくい奴"にしろ。メディックが落とされると、同じクラスのメディックでは回復できないそうだ。メディック2人が落ちたらジリ貧で全滅するぞ」

「それはひどい。そうすると近接戦の回避と防御ができる奴をあてるか、護衛をつけることになるか。……赤松、お前、近接格闘の成績よかったよな。黒木、赤松のサポートやってくれ。防御(シールド)系術式使えただろ?」

「了解。ランのサポートなら任せて」

「ええっ!?私が回復要員?柄じゃないような気がするなぁ」

「最前線で働いて絶対負けちゃダメな役なんだから、気合入れて」

「あ、そうか。そういわれるとやる気出た。任せて」


「赤松と黒木は前線で立ち往生した奴を随時回復させてくれ。山桜桃さんは、教室で待機。戻って来た人を治す役を頼む。級核と一緒に守る」

「基本は消灯した仲間は教室に連れ帰ればいいんだな」

「そうだ。赤松がどこにいるかはわからないからな。確実な回復ポイントは教室だと思ってくれ」

「赤松が落ちても、教室を死守すればいいのか。わかりやすくていいな」

「ちょっと!私が落ちること前提で話さないで」

「いや、お前、無謀な特攻しそうだし」

「失礼な。ユリがいるから大丈夫よ」

「他力本願かよ」


「それにしても……ここで川畑不在は痛いな」

クラス委員の梅田は、空いている川畑の席を眺めて愚痴をこぼした。

「あの機動装甲重機みたいな男がいれば、楽なんだが」

「たしかに山桜桃の前に配置しときゃ、難攻不落の壁だったろうな」

「彼、病み上がりだから保健室いったんでしょ?無理させちゃ悪いわよ」

クラスの善良な女子のコメントに、竹本は苦笑した。

「いや。あいつ、そんなにヤワじゃないみたいだぞ。生徒会本陣直属の救護者(メディック)になったってさ」

「やべえ。生徒会室前が函谷関」

「あいつ1人立ってたら、通れないだろ」

「行動不能になっても存在が防壁」

2B一同は、ヌリカベ男が仁王立ちになったイメージを思い浮かべて笑った。


が、とうの川畑本人は壁役になる気はさらさらなかった。

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