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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第9章 それはいつまでも続くと思っていた刹那

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準備期間

"生徒会信任戦発動後は、校外との通信及び物理的入出が魔法的手段によって禁止されます。校外からの連絡については事務局で一括して受け付けます。詳細については学校イントラネットに記載の「戦時処理」の項を参照してください。"

淡々と連絡事項を読み上げる女性の音声は、あまり人間味のない合成音だ。

教室正面のモニタ表示が切り替わり、処置の概略フロー図が表示された。

"解散請求発動"の後に"ステージ0: 準備期間"の文字がアクティブになっている。準備期間に含まれる小項目の1つが光り、項目名の左にチェックマークが入った。

"実行方法"の項の横の表示が"発起人提案"から"審議中"に切り替わる。さほど経たずに、それは"調整中"を経て"審議完"になった。


「ルールが決まったぞ」

「早いな」

「さすがSプロの海棠。相当、段取りがいいぞ」

開示されたルールは一種の陣取り合戦だった。


正面ボードの概略フローに、タイムスケジュール付きで、今後の予定が追加表示された。

「1時間のPR合戦ののち、クラス単位でどちらの陣営につくか決定。両陣営に別れて陣取りを行う……これは少数派になるとつらいな」

「そうでもないぞ。各陣営の総大将のいる本陣を落とすか、総大将本人を落とせばそこで終了だ。各クラスの生き残り陣営の数は、制限時間いっぱいまで両本陣が落ちなかった時にカウントされるだけだ」

「それにしても圧倒的な数の差があると、人海戦術で潰される」

「よそのクラスの動向が気になるな」

「リコール成立したってことは、3分の1以上は賛同者がいるってことだろ?」

「俺みたいに授業がつぶれるなら何でもいいって奴もいるぞ」

「わぁ、サイテー」

「クラスの総意に丸められると、どっちに転ぶかわからん」

「うちのクラスは生徒会側につくのでいいのか?」

クラス委員が確認すると、2Bの面々はちらりと川畑を見てから、お互いに顔を見合わせた。

「そりゃぁ……ね」

「ああいう裏事情を聞いちゃうと、ちょっと……」

「"生徒会と風紀委員会が締め付けを厳しくして男女交際を禁止しようとしている"とか"服装規定の違反者を取り締まる目的で校舎前で監視を始めた"とか言われると、ひでぇ!許すまじって思うけど、実は事実無根ということなら、なんでそんな嘘つくのかって思うよな」

「ただの時期外れの挨拶運動ですというオチはひどい」

「それより、あの御形先輩に彼女ができたって話の方が衝撃なんだけど」

「自分に彼女ができたタイミングで男女交際を禁止するバカはいないよな」

「川畑、本当なんだろうなその話」

「伊吹先輩本人は認めないかも知れないが、完全にやってることはカップルだった。なんか楽しそうだったし」

「うわー、鬼の撹乱」

それた話で盛り上がりかけた教室内をクラス委員が締めた。

「その話はともかく、一応、決を取っておこう。本来なら両陣営のPRを十分聞いてからやるべき手順だが、良ければ先に立場を明確にしておきたい」

「構わんぞ」、「いいよ」などの声が上がった。

「生徒会につけば、植木と対立することになるが、そこはいいんだな」

「それは……」

「この時点で誰も植木くんと連絡ついてないんだよね?」

「あいつ、今朝はタブレット確認できてないだろう。不在表示のままだ」

「なんだか事情を聞く限り、植木くんが生徒会をリコールしたいと考える理由がないし。本人の今朝の様子もそんな感じじゃなかったし、なんか裏がありそう」

「……川畑くんがかまわないなら」

皆の視線が川畑に集まった。

「かまわん」

川畑は、タブレットに外付けのキーボードを接続して、何やら猛烈な勢いで入力しながら、素っ気なく答えた。

挙手による採決で2Bは生徒会につくことが決定した。



「川畑、海棠のPR映像、ほとんどプロモーションビデオだ。出来がいい」

「相当事前準備している。思った以上にSプロの動きが早い。出遅れたのが痛いな」

廊下にポスターを貼っていくSプロスタッフをちらりと見て、川畑は口をへの字にした。ポスターは前回のイベントの時の海棠と植木の2ショット写真を使っている。"自由を"の文字が目立つポスターを見れば、イベント参加者や動画を見た奴なら、ラストで和解した楽園の王と妖精王子のフィクションと、この一件を重ねて受けとるのは間違いない。植木の真意がどこにあるかはともかく、植木が海棠に賛同しているという印象は間違いなく広がるだろう。

対する生徒会はなんの準備もない状態からのために、PRは精彩を欠かざるを得ない。PRできる内容も、その立場で公表できる範囲に限られると、嘘臭くつまらない定型の建前論になってしまう。センセーショナルな陰謀論による糾弾に体制側が"事実無根です"と反論しても全然説得力がないのだ。


竹本は、川畑がとてつもない勢いでキーボードを打っているのを見下ろしながら、肩をすくめた。

「俺はスタンバイ完了だ。ドローン(グリフォン)はいつでも出せるぞ」

「ありがたい。頼りにしてる」

「川畑くん、買ってきたよ」

「そっちの端に置いてくれ」

「生地屋に行ったランがどっちの布がいいかってきいてきてる」

「山桜桃、頼む」

「はい」

「黒木、今、送った内容を自由妖精同盟の女子に連絡してくれ。お前が宛先知ってる奴だけでかまわない」

「まかせて。女子だけでいいの?男子のアドレスも相当もらってるんだけど」

「……黒木はそういうのすぐに捨てるタイプだと思っていた」

「あら、情報に罪はないわよ」

「とりまとめ頼む」

「OK。部活の後輩にも根回ししとくわね。可能な限り中等部も取り込むわ」

「魔術専攻クラスは欲しい。Sプロの多い2Aと3Aは無理だろうが、C、Dと中等部は誰か知り合いがいる奴が、できれば直接行って交渉してきてくれるとありがたい。一番重要なカレンの件はオフレコの口頭でしか明かせない話だ。取り扱いには注意してくれ」

「了解。ここだけの話って言って広めりゃいいんだろ」

「私、2Cに行ってくる」

「僕は中等部の弟のクラスに行く」

「俺も後輩んとこ行っとく」

2Bの生徒達は手分けして生徒会派のPRに出掛けた。


「川畑、E組の藤村がお前に用だって」

「ありがとう。今いく」

竹本は川畑にインカムを渡した。

「俺の私物だ。直通連絡手段として渡しておく」

川畑はインカムを着けた。

「俺は"体調不良"で保健室に行く。B組は任せたぞ」

「そういうのはクラス委員の梅田に言えよ。でも、いいぜ。任せろ。ユカリちゃんによろしくな」

川畑は手早く荷物をまとめると、電子情報部の藤村(ドードー・ドジソン)と合流して、教室を出た。




"30分後に魔術結界が学校全域に展開されます。学外に連絡が必要な方は速やかに処置を済ますか、個別に担当教員にお申し出ください。"

生徒会信任戦発動へのカウントダウンが始まった。

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