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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第8章 学校だけが世界のすべてだった日々

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勢いでやった……反省はしています

"本日貸し切り"の札のかかった店内で、自由妖精同盟関係者打ち上げ会の幹事の川畑はマイクを握っていた。

「本日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。お料理はビュッフェ形式ですので、後程こちらの奥のコーナーでご自由にお取りください。お飲み物もドリンクバー形式でお楽しみいただけますが、まず最初に乾杯用の一杯をご用意ください。乾杯の音頭は妖精王子よりいただきます」

いきなり話をふられた植木は固辞したが、押しきられて前に立った。

「皆様、ご協力ありがとうございました。おかげさまで大きな怪我人もなく無事にイベントを乗りきることができました。えーっと、えーっと……乾杯!」

「かんぱーい!」

今回の仕掛人達はみんな笑顔でグラスを掲げた。




「いやー、楽しかった」

「ドジソンさんにはグラフィック面で大変お世話になりました」

「リアルタイムであれだけ色々遊ぶのは始めてだったけど楽しかったよ」

「あのケッタイなキャラはともかく、画面切り替えはおもろかったで」

「あ!三月ウサギさん、どーも」

「出たな藁ウサギ」

「うひゃはははは、バンブーダンスの騎士様~!」

川畑は裏実況で三月ウサギ役をやっていた報道部の橘の両こめかみにげんこつをグリグリねじ込んだ。


「すいません。喜ぶからやめてあげてください」

カメラマンの木村に言われて、川畑はあわてて手を離した。

「木村。お前、何回か見かけたけど、よくまぁ毎回ああもジャストな位置から撮れたな。あと、お前のカメラの望遠性能はなんだあれ」

「それはまぁ……つぎ込んでるので」

木村は分かりにくい照れかたをしてから、おもむろにフォトプレートを取り出した。

「ところで写真注文受け付けているんだけど、欲しいのあるか?」

一覧表示されたフォルダには、"校庭午前"だの"体育館午後"だのの分類以外にも、"妖精王子"だの"白夜の騎士"だのうろんな名前のものがあった。

「その辺りは売れ筋。お陰で新しいレンズが買えそう」

川畑は肖像権というものについて、こいつとじっくり話し合うか悩んだが、植木の特選写真集で手をうった。


「そういえば、お前ら部室なくなるんだろ。これからどうするんだ」

「ああ、それなら大丈夫」

数学部のドジソンが、笑っていった。

「報道部は数学部と発展的統合をして電子情報部にしようって話をしているんだよ」

「電子情報部?」

「今回ドローンで活躍してくれた模型部の竹本くんも誘っているんだ」

「デジタルデバイスを活用した情報の収集と提供を実践的に執り行う部活やな」

「どこの諜報部だ」

「あ!その名前もエエなぁ」

「こらこら、そんな胡散臭い名前にするなら、俺は特別顧問はやらんぞ」

料理の乗った皿を持った黐木(もちのき)がやって来たところで、川畑は頭を抱えた。

「凶悪なメンバーすぎる……」

「ひどいいいようだな。お前が集めたんだろう」

「ドリームチームと言ってぇな。うちと木村が集めたリアルコンテンツをドジソンはんがデジタル加工して、帽子屋はんが分析と解説つけてくれんねんで」

「……いや、黐木さん単独でも情報収集とデジタル技術相当高いから」

「そーなん?」

橘は穏和なお父さんっぽい黐木を見た。ずっと実況を一緒にやっていてずいぶんデキる人だとは思ったけれど、特殊技術の持ち主には見えなかった。

「すみません。お願いですからこのゴシップ魔人の首に縄をつけてしつけてください」

川畑が黐木にペコペコ頭を下げるのに、橘は口を尖らせた。

「そないな言い方せんでもええがな。だいたいゴシップが怖いんやったら、あんなに次々と女の子落としたらあかんやろ」

「俺は女の子に変なことしてないだろ!」

川畑が叫ぶと、周囲の全員が「マジかこいつ」という顔で彼を見た。


「こちら盛り上がっていますね。何のお話ですか?」

笑顔の植木がドリンク片手にやって来たところで、川畑が追い詰められた犯罪者のように青ざめた。

「ガセだ。俺は無実だ……」

「そういえば、川畑くん。騎士様大人気だね。ファンクラブ作ろうって、()()()()()()()女の子達があの後ずいぶん騒いでたよ」

「何のことだか……」

「映像出そうか」

ドジソンと木村が店員さんに掛け合って、店内の大画面のモニターに証拠映像を映した。

制服の女子高生を馬上から拐う白騎士や、大勢が見守る壇上で女の子の肩に手を置いて顔を寄せる白騎士の姿に、川畑はテーブルに突っ伏した。

「その場で一番かわいくて絵になる子を的確に選んでる」

木村がうなずきながら、親指をグッと立てた。

「へー」

植木の平坦な相づちに川畑はプルプル小刻みに首を振った。

「違う……そうじゃない。誤解だ」

流しっぱなしの映像でキザな台詞を叫んでいる自分を見せつけられながら、川畑はいじり倒された。


「ファンクラブの件なら気にしなくていいわよ」

助け船を出してくれたのは、社交ダンス部のお姉さんだった。

白夜の騎士(ホワイトナイト)様ファンクラブのメンバーにとって、白夜の騎士様はファンタジーの存在なの。実在の川畑くんとは無関係だから」

「どういうことだ?」

「つまり、あの設定のお話の中のキャラクターとしての"白夜の騎士(ホワイトナイト)"のファンなのよ」

「わかった!中の人などいないって奴だな」

「そうそう。だから兜の中の顔はいくらでも想像でイケメンにできるのよ」

復活しかけていた川畑が再び倒れた。

「フェアリーの彼女、文芸部に入って白夜の騎士様の話を書くって言ってたわ」

ダンス部のお姉さんは、書けたら見せてもらう約束なの、と言ってコロコロ笑った。

「あの…まさか、あなたも?」

植木は色っぽいお姉さんに恐る恐る尋ねた。

「ええ、私もファンクラブの会員よ。でも、安心して。彼には恋愛感情は全然ないから……だって、彼、彼女持ちで有名じゃない。さすがにみんなそんなのに今さらどうこうしようとは考えないわよ」

彼女は突っ伏したままの川畑の頭をつついた。


「そういえば、この後のダンス対決の映像ある?私、他の準備してて見れなかったの」

「ダンス対決って、Sプロの双子が吹っ掛けてきた奴か?」

「そうそう。白夜の騎士様が甲冑だから踊れないだろうと思って、1対1でダンス対決なんて話を持ち出して来て返り討ちにあった奴」

「あるある。ちょっと待って」

木村が映像を切り換えた。

茅間兄弟のどちらかだかが踊っている映像だった。

「こっちはいらないから飛ばして」

お姉さんは無情に言った。

また映像が切り替わった。静かに立つ白騎士が中央に映ると、店内の数ヵ所で歓声が上がり、拍手が起きた。


オケ部の演奏が始まり、白騎士が音楽にあわせて剣を抜いた。

「ダンス対決で"剣舞"って飛び道具だよな」

「甲冑で普通のダンスなんて踊れるわけないだろう。なんかやれって言われたから仕方なくやったんだよ!」

「中の人のコメントはいらないから、夢を見させて。はぁ、格好いい~。後でこのデータちょうだい」

「人気コンテンツです」

「なんだかな~」

川畑は、ひょっとしたら橘より木村のがたちが悪いんじゃないかと思った。


「騎士様ファンの方には、こういう映像もあるんだけど……甲冑じゃないからNGかなぁ」

木村の言葉に社交ダンス部のお姉さんは食いついた。

「どんなの?」

「そこの二人が演劇部のチャレンジシナリオでやったショートコント」

木村が手元の機器を操作すると"「我が心臓をあなたに捧げます」"という音声が流れた。

「ああ、もう少し前からか……」

「なに今の!?」

「どうしてそれが残ってるんだ!」

「裏実況では流してないけど、2バージョンともあるよ。高画質」

木村はニコニコしながら、大画面を指差した。

「あっちで見る?」

「やーめーてー」

植木と川畑は悲鳴を上げた。

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