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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第8章 学校だけが世界のすべてだった日々

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出番前

「御形遊撃隊長、お帰りなさい」

「おう。どうだこっちは」

「列が減りません。Sプロの奴ら、違反者の釈放だけじゃなくて、単なる復活手続きまでこっちにふってきました。相手が御形さんじゃないと思ってなめられてますかね」

猟犬部隊のベース前には復活権を求める元ハンターの列が伸びていた。

「それなんだが……」

御形は並んでいる元ハンター達に声をかけた。

「並んでもらっているところ悪いが、さっき腕章偽造による不正復活者が出てな。今、Sプロで再交付方法を見直してる。再開時間がわからないし、手続きが変わるかもしれないんで、一度チップを払い戻しした方がいいぞ」

「ええーっ、やっと次の番だったのに……誰だ、不正なんかした奴は!」

不運なサッカー部員は、やり場のない怒りを発泡スチロールのダイスにぶつけた。ダイスは武道場の出入口の方まで転がっていった。


「あの……これ、そちらのですか?」

ダイスを拾ったのは、競技用のダンスドレスを着たちょっと大人っぽい感じの3年生女子だった。

その場の大半の男子の目は、彼女が持ったダイスではなく、彼女の胸元に釘付けになった。

「ありがとう。社交ダンス部はこの後、体育館でエキシビションじゃなかったか?」

御形は彼女のところまでいってダイスを受け取った。

「それが、体育館が煙だらけで使えなくて、急遽、場所を運動場に変更したのよ」

「運動場でダンスシューズは使えないだろう」

「そうなの。だからエキシビションから、一般参加ありのダンスパーティーに変更したのだけれど……」

社交ダンス部の女子生徒は、御形とその背後の男達に視線を送った。

「今、参加者募集中なんだけど、女の子が余ってて。男子で参加してくれる人探してるのよ。このあたりに暇な男子っていない?」

「あの辺のやつらはみんなしばらく暇になると思うが、ダンスって何やるんだ」

「フォークダンスみたいな簡単なのをいくつかやる予定よ。ちょっといい?」

彼女は御形の手からダイスを取り上げて床に置いた。

「男女で向かい合って手を取って、こういう感じで……」

彼女は御形にピタリと体を寄せた。明らかにフォークダンスより距離が近い、

「横ステップとか、こういう感じの基本的な動きを音楽に合わせて繰り返すだけ」

「ふーん」

御形は彼女がいくつか動きのパターンを実演してくれるのに付き合った。御形はまったく興味なさそうだったが、周囲の男達は、彼女の胸や腰が御形に密着しているのを見逃さなかった。

「こんな感じだけど、どう?」

「簡単だな。いいんじゃないか?俺や猟犬部隊は見回りがあるから無理だが、あの辺の奴らはみんな連れていけよ。おい!お前らどうせ暇だろ。社交ダンス部に協力してやってくれ。チップの払い戻ししたい奴は、こっちに参加するならうちで手続き代行してやってもいいぞ。ここでチップのうらに部の名前と自分の氏名書いて置いていけ」

御形がそういうと、列に並んでいた失格ハンター達は歓声を上げた。

「やった!俺、ダンス行きます」

「俺もそっちのがいい!」


「私達も参加していい?」

「あっ!フリーフェアリー!」

武道場の奥の扉から出てきたフェアリー達を見て、一部の失格ハンターは色めき立った。

「猟犬の目の前で、腕章なしで狩りをする気か?貴様」

「……いえ、何でもありません」

御形に睨まれて、失格ハンターはおとなしくなった。

「もちろん歓迎するわ。みんなで一緒に踊りましょ」

社交ダンス部の女子は声をかけてきたフェアリーの女子と、目の前にいたサッカー部の男子の手をつながせた。

「御形くん。ダンスにエスコートするなら、"捕獲"じゃないからハンターの腕章なくてもいいわよね」

「いいんじゃないか?」

御形は彼女にそっけなく答えると、こっそりその場を離れようとしているルール違反で捕獲されたハンターを大声で呼び止めた。

「おい、そこの違反者ども。てめぇらはダンパが終わったらここに戻ってこいよ。面ぁ覚えてるからな!運動場とトイレ以外で見かけたら許さんぞ!」

「ええっ?ダンパは普通に行っていいんですか」

「お楽しみイベントだからな。そこまで制限はせんし、する権限もない」

「御形さん、アザっす!」

御形はさっき捕まえたカレンの取り巻き数人だけは、例外だといって止めた。

「お前らは、Sプロの本部に行け。他の奴と合わせて話が聞きたいそうだ」

楽しいダンスパーティーを期待していた彼らはガックリうなだれた。


「それでは、ダンスパーティーに参加する人は、こちらへどうぞ。運動場に行きますよー。皆さん、フェアリーの方々が拐われないようにガードしてあげてくださいね」

「はーい」

スタイルのいいお姉さんにつられて、武道場のいた者達は運動場に行った。


「何人かついていけ。人が集まるなら、整理役がいるだろう」

「はい」

「人が集まると言えば、ピロティステージも観客が集まりそうですよ」

「ピロティ?臨時小ステージの1つか」

「例のお茶会実況が、ガンガン宣伝してます。例の隊長のお気に入りが飛び入り参加でショーに出るみたいですよ」

「ああん?なにやってんだ、あいつは……って、"お気に入り"呼ばわりは止せ。それから今はお前が隊長だ」

顔をしかめた御形に、元副長は笑顔で命令した。

「御形遊撃隊長、ピロティステージの警備をお願いします。彼、かなり恨みかってますし、狙ってる奴も多いので、ショーの終了後に混乱が生じる可能性が高いです」

「あー、うん。まぁな……しゃーねー、行ってやるか」

ベース(ここ)のことは任せてください。さっきの安請け合いの件も処理しておきます」

「すまんな。じゃぁ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

御形は大きなダイスを腹心に返すと、ピロティに向かって走り出した。




「あ!居た、居た。見当たらないから誰かハンターに捕まったのかと思って心配したよ」

古竹は、物陰から現れた川畑を見つけて明るく声をかけた。

「すみません。ご心配おかけしました。ちょっと別のところでステップの練習してました」

「そんなに深刻にやらなくてもいいよ。フォローするからさ。楽しんでいこう!はい、衣装。もうすぐ始めるよ。楽しい曲だから笑顔で行こう。僕らはこの古い竹竿(バンブー)でみんなをハッピーにするんだ」

バンブーダンス部の部長は、古いミュージカル俳優のノリでウインクした。川畑は、なるほどそういうテンションかと納得して、ぐっと親指を立てた。


「本日は、急遽お邪魔させていただきます。ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いいたします」

「いいぜ!気楽に行こう」

「どうせイレギュラーな公演だしな」

ステージ袖で顔合わせしたメンバーはみんな部長の同類っぽい感じで、緩くて気さくな奴らだった。


「あー!あいつだ!!」

「ホントに居たぞ!捕まえろ!」

ピロティステージ周辺に集まっていたハンターの中から声が上がった。

「音楽始めてくれ。ステージが始まれば俺達の時間だ」

古竹の指示で、吹奏楽部の有志による陽気な音楽がピロティステージに流れ出した。


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