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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第8章 学校だけが世界のすべてだった日々

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反抗

川畑は植木を下がらせ、襲撃者達に向かって仁王立ちになった。

「こいつ、"ターゲット"だ。捕らえるぞ」

びびって腰が引けながらも、一応そう言って向かっていった襲撃者達は、根性があるといえた。

川畑は向かって来た相手を雑に返り討ちにして、腕章を剥いだ。

「くそっ、まだまだ」

襲撃者はポケットから、予備の紙を取り出して腕に巻いた。

「なにっ?」

川畑は襲撃者達の相手をしながら、植木にホイッスルを投げた。

「重度違反者だ。猟犬を呼べ」

「(川畑くん!ホイッスルの貸し借りはハードル高いよ!!)」

植木は内心悲鳴をあげた。

「今は隊長さん、来れないかも……」

「なら、赤松さんと武道場に行ってくれ」

「はい!」

植木と赤松は川畑が追っ手をとどめている間に、走ってその場を逃れた。




「叩いて被ってジャンケンポン!」

御形(ごぎょう)はチャレンジャーの頭に新聞紙を丸めた棒を叩きつけて吠えた。

「やってられっか!」

「隊長、次のダイスお願いします」

「もう嫌だ。あとはお前やれ」

「そう言わずに。はい」

副長に差し出されたダイスを恨めしそうに見て、御形はしぶしぶ受け取った。


「イブキ先輩!大変です」

「植木?お前捕まったのか」

陸上部の女子と手を繋いで走ってくる植木を見て、御形は川畑の姿を探した。植木が捕まって川畑が黙っている訳がない。

「川畑はどうした」

「それが、腕章を複数持ったハンターにゾンビアタックされて」

「奴ら、私が手を繋いでいた植木くんを横取りしようとして襲ってきたの。ルール違反よ」

「何部の奴だ」

「それがわからなくて。聞かれても答えなかったんだ」

御形は眉根を寄せて口を引き結んだ。

「隊長、ここの対応お願いします。腕章の話が本当なら重大な違反行為だ。すぐに数人つれて現場に向かいます」

「俺が行く」

「はい?」

「俺は猟犬部隊長を辞任し、後継に貴様を任命する」

「ええっ!?」

「あとは任せた」

御形はダイスと隊長職を副長に押し付けた。

「植木、場所はどこだ!」

「テニスコートの北側の石碑付近です」

「部隊長権限で御形さんを遊撃隊長に任命する。今、受け付けにいる2人残してあとのメンバーは御形さんについていけ!」

御形は気の利く元副長に軽く手を降ると、武道場を飛び出した。




「ユリ!こっちはどんな様子?」

「良かった。無事だったのね、ラン、植木くん」

武道場の2階で植木達は黒木ユリと合流した。

「二人が逃がしてくれたフェアリーのみんなも無事よ」

「植木、ありがとう。おかげで助かった」

「王子!ご無事で」

武道場2階の控え室に集まったフェアリー達は、植木の顔を見てほっとしたようだった。

「ハンターは?」

「見つからずに入れたと思う。今のところ来てないわ。1階のこっち側に猟犬部隊のベースがあるせいで、来賓口と裏手階段はハンターからは敬遠されているみたい」

「なんか私達もハンターなんだけど……変な感じね。ユリ」

ランはユリと顔を見合わせて苦笑した。


「これからどうするの?」

「さっき実況放送が、新ルールで"モンスター"が追加されたって言ってた」

「なんか怪物の仮装したスタッフが相当数出てきたみたいなんだ」

「ハンターが狩りをできないところに隠れていたフェアリーも外に引っ張り出されたり、大声で居場所を知らされたりしているって」

「ここに来たらどうしよう……」

「私達、また一方的に狩られちゃうのかな」

「さ、さっきみたいにみんなで対抗すればいいんじゃないかな?」

「俺達はここに逃げてこれたおかげで、多少は仲間と協力できるけど、外の奴らはバラバラなままだ」

「僕の友達もはぐれたまま連絡がとれない。どこにいるかわからないから助けにいけないんだ」

みんなの意見をじっと聞いていた植木は、少しの間、目を閉じて何か考えていた。

「よし。反撃しよう」

植木は大きな目を開いて、静かに宣言した。彼はその場にいる一人一人の目を見ながら語りかけた。

「次々と新ルールを制定して僕らを追い詰めようとするSプロは許せない。楽園の主を名乗る暴君に、自由な妖精(フリーフェアリー)が自由のためには団結して戦えることを見せてやろう」

「おーっ!」

「すげぇ、なんか王道レジスタンスものっぽい」

「王子に忠誠を誓います~」

「なんか変なテンションの奴混ざってんな……」

フェアリー達は反抗の準備を始めた。


「そうそう、植木くん。コレ返すわ。川畑くんに渡されてたの」

ユリは通信機を植木に手渡した。

「大丈夫とは思うけど、彼、心配ね。かなり大勢に囲まれたんだって?」

気遣わしげなユリに植木は微笑んだ。

「平気。きっと今頃、悪い奴の本拠地に乗り込んでる。あ、イブキ先輩に川畑くんの今の居場所を教えてあげなくちゃ」

植木は野外実習用の通信機のスイッチを入れた。

「"グリフォン"、聞こえますか?こちら"チェシャキャット"です。"ハウンドドッグ"が"ホワイトナイト"の救出に向かっています。案内役に"バタツキパン蝶"を1機テニスコート北側に派遣してください」

"「了解、キャット。猟犬の群れは見えた。今からナイトのところへ誘導する」"

「お願いします。オーバー」

「ねぇ、今のってうちのクラスの竹本?模型部の」

「匿名希望です」

植木は笑ってごまかした。

「(お茶会の実況に時々空撮が入ってるのって、竹本がドローン飛ばしてたのか)」

ユリは昨年の夏休みを潰してドローン免許を取った竹本が、しばらく竹トンボのあだ名で呼ばれていたのを思い出した。

「("グリフォン"って……ずいぶん出世したな"竹トンボ")」

ちょっと他の仲間と相談してくるといって、通信機を持っていそいそとどこかに行った植木を、ユリはゴッコ遊びに熱中する子供を見る母親のような生暖かい目で見送った。




オレンジ色の時計仕掛け頭のウサギは、頭頂から生えた藁を揺らしながら笑った。

「いやぁ、体育館の中継はごっつ醜い争いやったねぇ」

「強奪ルールで荒れたところに、追加ルールのモンスターが乱入したからな」

シルクハットを被った電気羊は、追加ルールのモンスターは何でもあり過ぎてひどいと扱き下ろした。


「ただいま最新の情報が入ってきました」

電気羊は、テーブルがわりの黒い箱から手紙を取り出した。

「運動場方面で体育会系の部が捕らえていたフェアリーが大量に救出されたそうです。映像を見てみましょう」

電気羊は手紙を封筒ごとモシャモシャ食べた。

「読まずに食べるんかい」

「山羊じゃないんだけどな。なんかプリセット動作なんだよ」

電気羊はまた帽子を持ち上げて、額のモニターをタップした。

映像は解像度が今一つなドローンの空撮で、運動場を走って逃げるフェアリー達が映っていた。

かなり高い位置から撮しているため、人の見分けはつきにくいが、先頭に立ってみんなを解放しているのが植木っぽいのはわかった。

「王子様頑張ってんなぁ。これはさっき帽子屋はんが説明してた戦法かいな?」

「ちょっとアレンジした版ですね。フェアリーサイドに十分に人数のアドバンテージがあると、狩る方と狩られる方をひっくり返せるという実例です」

「いや、すっごいなぁ。熱殺蜂球みたいやわぁ。えげつな」

時計仕掛けのウサギはカタカタ笑った。

「これはライブじゃないん?」

「少し前の映像のようです。ここで逃げたフェアリーは全員無事逃げおおせたとの報も入っているので」

「ひゃー、フェアリーも黙ってないねぇ」

「まだまだこれから他のフェアリーさん達も協力して頑張っていただきたいですね」




「なんだコレは!」

Sプロの茅間ヨウは、角を着けたモンスターの仮装姿で激昂した。教室のモニターには、珍妙なCGキャラクターのウサギと羊が、ひどく妖精寄りの実況放送をしていた。

「大分前からかかっています。公式じゃないんですか?」

「知らん!うちはこんなの流してないはずだぞ」

「海賊放送?でも、Sプロの移動カメラの映像や、茅間さん達が読み上げた公式のルール説明の映像も流れてましたよ」

「どうなっているんだ!?早く誰か調べろ!犯人を見つけ出せ」

「このウサギの方は、報道部のあいつだよなぁ……」

「羊の方は誰だ?報道部に誰かいたか?」

「いないだろう。そもそも人がいなくて部室とられるんだから」

「報道部の逆恨みかぁっ」

茅間ヨウは壁に拳を叩きつけた。

「見てろよ、バカどもめ。俺達の初立案企画を邪魔したことを後悔させてやる」

「……邪魔というよりは、うまく盛り上げてくれているんじゃないですか?解説とか結構面白いですよ、これ」

「うるさい!お前、アンチか!」

ヨウは一緒にいたSプロスタッフの1人を怒鳴り付けると、鬼の形相で本部にとって返した。




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カヤマざまぁーw
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