便利な休憩所
新章開幕
美しい滝が清らかに流れ落ち、射し込む光が虹の橋を架ける。
静かな入り江の暖かい岩の上で、川畑は大きく延びをした。
「あー、結構寝れたな」
「あああっ!こんなところにいた。探しましたよ、ヤマトさん!」
起き上がると、型の古い帽子を被りスーツを来た男がこちらへ飛んでくるところだった。相変わらず足が透けて消えている。
「なにやってんですか、こんなところで」
「いや、腹へって眠かったから休憩してた」
川畑が起きたのを見て、人魚達がわらわらと集まってきた。
「お兄さん、起きた?フルーツのおかわり食べる?さっき気に入ってくれたのまたとって来たよ」
「服、綺麗な真水で洗って干しておいたわよ。ほらもう乾いたからそこに置いてあるからね」
「少しは元気になった?ねぇ、また遊んでよ」
帽子の男は、いろいろ言いたげな眼差しで川畑を見た。
「……いいご身分ですね」
「ここの子は、みんな親切だよな」
「きゃー、ありがとう、お兄さん」
「はい。あーん」
人魚から果物を受け取って、口に運んでいる川畑を見て、帽子の男は首を傾げた。
「異界の食べ物は、帰れなくなりそうで怖いから、食べないっていってませんでした?」
「黄泉比良坂を下った訳じゃないし、自力で転移できるようになったからな。それと、材料や成分の不安は翻訳さんが解決してくれた」
川畑は少し離れた岩の上に置きっぱなしの食料を指差した。
「あの右側のはモザイクがかかって見えるからおそらく俺的にNGなグロ食材。その隣の丸いのは、紫色の髑髏マーク表示が見えるから俺の体には毒。今、食ってるこれは桃か杏に見えてそんな味がするから、多分大丈夫」
「翻訳さんにそんな使い方が。て言うか、翻訳さんに気に入られてます?サポート手厚すぎな気が……あれ?あなたの食べてるの、それひょっとして……」
「言うな!言うなよ。背に腹は代えられないからいろいろ割り切って食ってるんだから、正体とかばらさなくていいからな!」
「うわぁ」
「人魚の皆さんも翻訳強度の調整バッチリで、差し障りのないお子様向け表示にしてるんだから、客観視とか余計なことすんな。俺はここに純粋に休憩しに来ている」
「お兄さん、ゆっくりしていってね」
「うわぁ」
川畑は、腕に絡み付く人魚の頭をおざなりにポンポン撫でた。
「だいたいそんなに嫌ったら可哀想だぞ。この子達は、イケメン化表示を切っても、ちゃんと親切にしてくれる優しい、純真な良い子なんだから」
「(だってお兄さん、いい筋肉)」
「(しっ、警戒したら脱いでくれなくなるわよ)」
「うわぁ……」
翻訳さんの親切フィルターのせいで川畑には聞こえていなさそうな人魚の本音を垣間見て、帽子の男はドン引きした。
「それで、わざわざ探しに来たのは何のようだ?」
服を着てベルトを絞めながら、川畑は用件を尋ねた。
「ああ!そういえば!大変です、ヤマトさん。助けてください。ノリコさんが……」
「のりこがどうした!!?」
川畑は吠えた。
話を聞いてみると、どうやらノリコは時空監査官の仕事に興味を持って、他の異界を見たがったらしい。
「ですから、女性が好きそうな綺麗で可愛いファンシーな妖精っぽいのがいる自称精霊界にお連れしたんですけど」
「ぽいとか、自称とか、不穏な表現が気になるが、それで?」
「案内した先の妖精女王に気に入られて帰れなくなりました」
「貴様が付いていて何をむざむざ……って、そういえば貴様、基本見てるだけで役に立たん奴だったな」
「ご理解ありがとうございます。という訳なので助けてください。局は異界の内部事情と個人の事情には関与しないので、協力して貰えないんですよ」
「転移デバイスと翻訳さんは使えるのか?……え?正規回線とは別にアクセスできるようになってるからOK?よし、なら行こうか」
川畑は袖を捲って、肩を回した。
「今、誰と会話してました!?なんか内容が不穏当だったんですけど!渡した私の予備デバイス、魔改造してませんか!?」
「知らん。気がついたらこんな感じだったぞ。ほら、穴開けろ。行くぞ」
「あああ、もう!仕方ないですね。オープン!」
帽子の男と川畑は穴に飛び込んだ。
デバイスの魔改造はキャプテンがしました。[参照:青空と金時計]




