表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第7章 ワンスアポンアタイム インザ ユニバース

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/484

夜明けをもたらす者

「もういい。そこまでできるなら、いっそのこと惑星改造レベルで改変しろ。この星の再入植審査の名目で調査団を派遣して、遺跡の調査隊をカモフラージュする」

眉間にシワを寄せたままダーリングはプランを川畑に説明した。

「今、説明した内容で計画書の素案を作成して提出しろ。ここの惑星環境にどの程度手をいれるかは、貴様に一任する」

「ここをルルド戦役の難民の居住地にして再開発って、またとんでもなく大きな話にしてきたな……」

「こういうのは大掛かりにやる方がいい。予算案の桁が多い方が、ついでを紛れさせるのが容易いからな」

「エザキのおっさんの言ってた意味がわかった。ダーリングさんて、体制権力側の詐欺師だ」

「なんとでも言え。"ルルドの泉"はルルド王家の遺産だ。ルルドの王族の生き残りに色々確認する必要がある。遠距離通話ができないルルド人相手なら、いっそ相手をこの惑星に置いた方が話が早いし会見も秘匿しやすい」

「ルルドの王族……そういえばいたなぁ、助けた中に。元気にしてる?」

「"ルルドの泉"のことを案じておられた。そうだ、お前、用が終わったなら返せ」

「はい」

ダーリングが差し出した手に、川畑は虹色の杯を返した。

「ん?なんだか……嵩が減っていないか?」

「門の鍵の石は消耗品なんだ。開けている時間に応じて減る」

「なにい!?」

ダーリングは目を剥いた。

「ルルドの貴重な文化遺産なんだぞ、それをお前……」

「すみません。そういう仕様なので」

「そういうことは、使う前に言え!」

「あの時点では、俺の知ってるものと同じか確証がなかったんだ」

ダーリングはちびた杯を見ながら唸った。

「これでどれ位の時間使用したんだ」

「体感としては長かったが、実時間なら1、2sってところだと思う」

「かなり消耗が激しいな。これは調査用に使わせてくれと頼んでも了承されない公算が高いぞ」

「それなら別の石で代用すればいい」

川畑の言葉に、ダーリングはいぶかしげに眉をひそめた。

「門を開けて検証するだけなら、それと同じ素材の石を、その形に加工すればいいよ」

「そういわれてもこの素材がなんなのだかわからねば難しいだろうが」

川畑は意外そうな顔をした。

「知ってるかと思った。これフォースフィールドジェネレータの基幹部品に使う結晶だぞ」

「なんだと!?」

「アレで使うのはほんのちょっとだけだから、知らないか。マンシェン駆動系のコアでも使われてたはずだ」

「ということは……」

川畑はこの星の唯一の宇宙港とマスドライバーがある方向を眺めた。

「この惑星が産地なんだ。ゲートキーパーを設置していった超越者達が、アクセス用に沢山置いていったんだろうな。マンシェン駆動系が開発されて相当掘り出して輸出しちゃったみたいだけど、調べればまだ多少残っているんじゃないか?ここが廃れたのって、鉱石掘り尽くしたからじゃなくて、ジャンプドライブの登場で、マンシェン駆動系が時代遅れになって鉱石が売れなくなったからだって聞いたし」

「聞いたって誰から?」

「この先にあるマスドライバーの近くに、じいさんが1人まだ住んでるんだ。あ、ダーリングさん、入植計画に、先住者であるじいさんへの保障条項いれといていいか?結構世話になったし、ちゃんとしてやりたい」

「む、ううむ……それは構わんが、しかし、そうか……マンシェン駆動系のコアがフォースフィールドジェネレータの基幹部品の材料と同素材とは」

「廃船処理業者が喜ぶんじゃないか」

「フォースフィールドジェネレータの技術が広まったら、そんなレベルでは収まらんぞ」

ダーリングは正座したままだった川畑の首根っこを掴んだ。

「来い。開発プランを練り直す。俺を送りついでにお前も手伝え。明朝の閣議までに素案を作成するぞ」

「待ってくれ、まだ皿を洗ってないし、気象ももう少し調整しないと」

「急げ。きりきり働け。ぼやぼやするな」

「はいい」


MMはバーベキューコンロを片付ける手を止めた。

ダーリングに締め上げられて、あたふたしている川畑を遠目に見て、助けてやろうかと少し考えたがやめておいた。MMは、多分、あいつにとっては、ああいうことも必要なんだろうと思って、小さく笑った。


川畑が自分の部屋に戻るまでには、まだまだかかるようだった。




そのレイクサイドの食堂は、地元の労働者で賑わっていた。ルルド人とそれ以外が半々といったところだ。

エザキはカウンターの端に座ると、旨いと聞いていた麺料理を頼んだ。

店内にあるそれほど大きくないモニタには首長鳥レースの映像が映っている。賭けてでもいるのか常連風の男達が、レース展開に一喜一憂して騒いでいた。

「はいよ。お待たせ」

料理を出してくれた食堂のおばちゃんは、エザキに軽く一礼した。

「いい店だな。繁盛してるじゃないか」

「おかげさまでね」

「"娘"さんは元気かい」

「今、出前に行ってるよ。最初は文句ばっかりだったけど、最近はまぁまぁ手伝ってくれてる」

「よかったなぁ」

「食堂より、うちのひとの鳥道楽の手伝いの方が楽しいみたいだけどね」

「鳥道楽ってアレか?」

エザキは店内にかかった額や、飾られたトロフィーの数々を見た。

「凄いだろう。あの"レッドシフト"は、うちのひとが卵から育てた鳥なんだよ」

伝説の赤金鳥が火星の中央レースを制した時の姿は、誇らしげに店の一番いい場所に飾られていた。

「本物が見たけりゃ、うちのひとの牧場に行けば見れるよ。レースは引退したけどまだまだ元気だから」

「そうかい。あんたも元気そうで何よりだ」

エザキは、ク・メール人のおばちゃんが幸せそうに笑うのを見て、安心した。

「うん、こいつは旨い」

「ありがとう。ゆっくりしていっとくれ」

エザキは麺をすすりながら、窓の向こうを眺めた。

古いマスドライバーの手前を宇宙港の拡張工事のための重機がゆっくり動いている。入植計画は順調なようだ。


昼食を終えたエザキは店を出た。

青い空と青い湖が眩しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
チッピー帰れたんかな えがった〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ