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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第7章 ワンスアポンアタイム インザ ユニバース

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烏の仮面の羽根飾りは黒と金

川畑は、侍従長仕込みの"角がたたないけどなめられない"会話術を翻訳さんアレンジでパワーアップして、ほぼフルオートで会話をしていた。


翻訳さんは「女連れのところの印象が残る方がいいらしいので、目立たないの少し解除」の指示を歓迎した。このところずっと"添え物の被保護者"の印象で"目立たないように"との指示ばかりで、フラストレーションが溜まっていたのだ。

翻訳さんが「この場の雰囲気に合わせて、適当にそれっぽい人物像で。喧嘩売ったり売られたりしない感じで品よく」との指示を"女を侍らせているのが似合い"、"敵に回すとヤバい悪党"で、"エグゼクティブ"と解釈したせいで、川畑は中央星系出身のどこかの若手大物インテリヤクザのような存在感を周囲に振り撒いていた。

翻訳さんの人避け補正が入らない場合、圧倒的な理力の塊である自分が、この世界の一般眷属にどのような影響を与えるか、川畑は考えていなかった。この世界では理力持ちの思考可能存在は、川畑が思う以上に一般眷属への影響力が強かったのだ。誘蛾灯に誘われた虫のように寄ってくる人々を、川畑は本人はいつも通りのつもりの素っ気ない笑顔で迎えた。黒仮面で、地味な顔の半分以上が見えないことも手伝って、その笑みは怪しさ満点だった。


川畑が周囲の客を適当にあしらっていると、会食の準備ができたため、会場を移動するように促すアナウンスが入った。

「私たちも参りましょうか」

川畑は穏やかに周囲の人々を促しながら、自身も席をたった。

川畑にもたれていた両脇の二人もあわてて立ち上がり、両側からそれぞれ腕に絡み付いた。


それは本来のサイズ、つまり保有する力の大きさにふさわしい妖精の姿に戻されたカップとキャップだった。二人は力の増大に合わせて、以前馬車で大きくなったときよりもさらに成長した姿になっていた。単に中性的な姿の少し先、危うい性的な魅力が出始める年頃だ。さらに、川畑が女物フォーマルがわからなくて「この場の雰囲気に合わせて、適当にそれっぽいカッコで、女の子っぽく」と翻訳さんにデザインを丸投げした結果、二人はかなり凄い姿に出力されていた。翻訳さんはここがどういう種類の人間の集まりかを川畑よりも正確に把握していたのだ。しかし、翻訳さんの配慮によりレギュレーション付きの処理がされた川畑の視点では、二人は単に可愛らしい小鳥モチーフのドレス姿に見えた。そのため、彼はそのまま二人を一般人にも認識可能な状態に変換してしまった。

身体が急変した二人は、いつも以上に、自らの主人にぴったり引っ付いて、しばらく微調整をしてもらっていた。川畑は無事に変換できたか心配だったので、他の客と話をする間も二人をそばに置き、あちこち触って状態に異常がないか確認していた。


諸々の要因が重なった結果。本人達は全くその意識も意図もないのに、第三者視点ではとてつもない視覚的大惨事が発生していた。




これ……スターネットのドラマで出てきたら、尺の4分の3で、主人公とタイマンで戦闘する悪役だ。

MMは呆然と川畑を見ていたが、彼が取り巻きと移動し始めたので、あわててあとを追った。

いざ声をかけようとして、MMはためらった。彼に声をかけてしまうと、連れの女性に自分が暁烏(デイブレイカー)のパイロットだとばれるということに遅ればせながら気づいたのだ。

「痛いから手を離せ。なんなんだ急に人を連れ回して。あの黒い奴がどうかしたのか?」

「いや、その……」

マリーに手を引っ張り返されて、MMは口ごもった。そのとき間に悪いことに、向こうから声がかかった。


「ああ、ちょうどいいところに来た」

人々が振り替えり、川畑とMMの間が空いて視線が通った。

「こちらの皆さんが、君とも話がしたいとおっしゃってたんだ。何か君の趣味に関する噂?を聞いたとかで……皆さん、彼がそうです。私的な事柄はぜひ彼から直接聞いてください。私はビジネス上の付き合いしかないので、彼の私生活や趣味嗜好は知らないんです」

川畑は丁寧で聞き取りやすいが、なんの感情も乗っていない声で言った。

川畑はMMとマリーのところに歩いて来ると、MMを無視してマリーに声をかけた。

「そういうわけで、申し訳ないがこちらの彼を少し貸していただけないだろうか。あなたのエスコートは私がしよう」

川畑は当たり前のように滑らかにマリーの手を取った。

「お前達は、彼といなさい。お話が終わったら皆さんをご案内して、あちらの席においで」

「はい」

青と黄色の美しい小鳥達は、主人の言い付けに従って、MMのところに行った。

「では、我々は先に食事の席に参りましょうか。マリー」

「ぅぇえ?」

この黒い仮面の男が、自分の知っている"坊や"だと認識できていないマリーは、急に名前を呼ばれて混乱した。川畑は「マナーに不馴れで緊張してるのかな?」程度にしか考えずに、そのまま彼女を連れてその場をあとにした。


何がなにやらあっけにとられているうちに、川畑に取り巻き連中を押し付けられ、MMはうろたえた。ついさっき自身に関する衝撃の噂について聞いたばかりだったので、この好奇の視線を向ける人々がしたい話題の見当が付きすぎて寒気がした。

「誤解だ。俺は別に……」

一歩後ずさったMMに、青い小鳥の仮面を着けた少女が、するりと絡み付くように身を寄せた。

「大丈夫。ジャックはちっちゃい子に悪いことはしないんでしょ?」

腰から胸元にぴったりと身体を押し付けて、下から覗き込むように見上げてくる美少女が、カップだと気付いて、MMは目眩がした。

「おっまえ…なんでそんなカッコで、こんなところに……!」

「ダメ?」

「ダメに決まってんだろう!こんな人前に出てきちゃ!!自分の立場を考えろよ」

MMは思わず声を荒げた。

「ああ、もう!ほら、船に戻るぞ!」

MMはカップを少しでも人目から隠したくて、抱きかかえるようにしてその場を去った。


人々は噂のパイロットの大変興味深い一幕に、無遠慮な視線と忍び笑いを送った。

「君は行かなくていいのかい?」

その場に残された黄色い小鳥の仮面の子に、1人の青年が声をかけた。

青い小鳥の子よりも少年っぽい雰囲気のその子は、ちょっとだけ思案したあとで、可愛らしく笑った。

「ボクは皆様をご案内するよ。さぁ、あちらの会場に参りましょう。遅れるとご馳走が食べられないよ」

客達は楽しげに笑って、黄色い小鳥とキャストの案内で会食の会場に移動した。

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