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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第7章 ワンスアポンアタイム インザ ユニバース

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黒鳥は踊れない

「脳ミソいかれてんのか、こいつら。なんであんな隙間に突っ込んでいけるんだ」

「コースルートの最適解は先行する船の推進材で汚れてるから、避けるって発想は分からないでもないが、それにしても、ライン取りがめちゃくちゃだ」

「おい、うちのルートはこれでいいのか?」

「42番を参考にするな。あくまで最適解はこっちだ。あんな勢いでふかしてたら、今日のコースは最後で推進材切れになるぞ」

「奴ら、あんな小さな船でどこに推進材そんなに積んでんだよ」


よその船を尻目に、好き勝手しているMMは、笑いが止まらなかった。

「いやー、ガス欠知らずで、経済運転しなくていいって最高!」

「だからといって、あまり派手なことはするなよ。不自然過ぎると要らん詮索をされる」

「わーってるって。でも、貧乏でチマチマ飛ばざるを得ない生活してたからなぁ。もうこの使いたい放題というのが快感で、たまらん。お前の人力ラムスクープは反則」

「人力じゃなくて理力。ちゃんとプロが設計したブルーロータスのフォースフィールドジェネレータの制御公式を応用してるんで、効率はいいけど、下手なタイミングでやるとスピードが落ちるから、ずっと取り込んでるわけじゃない。無駄遣いしすぎると、すぐに推進材切れになるぞ。いつまでもはしゃいでないで、ちょっとは落ち着け」

渋い顔をした川畑に、MMは素直にあやまった。

「へーい。2周目はおとなしくちゃんと飛びます」


「おっと、厄介なのが入ってきているぞ」

2周目を、MMが言うところの"おとなしくちゃんと普通"に飛んでいるとき、川畑はSS内に癖のある動きをする船がいることに気がついた。

「34番"オディール"。33番の僚機だよ。ヴィクトリアが言ってただろ」

「だっけ?」

「女の子がした話を覚えすぎててもダメだけど、全部聞き流してると嫌われるぞ」

「くっ、妻帯者マウント。どうせ俺はモテませんよ」

「ジャック。そんなことないよ」

「マスターもオンナノコのあいて、しっぱいばっかりでダメダメだよ」

MMが感じていた理力センシング結果が急にぶれてぼやけた。


「こら!ロイ!ナビゲーションに支障をきたすほど動揺すんな!」

「のりこには、まだ…嫌われてない…と思う……そう祈る……」

「だぁああ!お前、嫁のことになるとぐだぐだだな。いいから周辺情報寄越せ。解像度落ちてるぞ」

「マスター、ゴメンね。きにしないで」

「ノリコはやさしいから、マスターがオンナノコにしちゃいけないこと、いっぱいしても、ゆるしてくれるよ」

「ノリコにフラれても、ボクらがいるから。そのときはちゃんとなぐさめてあげる」

「カップ、キャップ!それ以上えぐるな!ロイ、立ち直れ。いや、立ち直らなくてもいいから、ナビゲーターの仕事しろ!なんも見えねぇぞ」

MMは肉眼だけで見る正面モニタとコンソールの情報量の少なさとそっけなさに愕然とした。最近はずっと川畑のサポートありで飛んでいたので、元の感覚をすっかり忘れていたMMは、急に何もかも剥ぎ取られた気持ちになってゾッとした。MMがパニックを起こしかけたとき、不意に補正された感覚が戻った。

「すまん。つまらないことで動揺した」

「いいから集中しろ。さっきのでちょっとラインがぶれた」

MMは戻った感覚で周囲を確認した。本来の最適進路を現状に合わせて修正しようとして、彼は通るはずだった進路上に異物があるのに気がついた。

「"置き石"だ!」

「34番だ。他にも妨害が来るぞ。すまん、さっきこの話をしかけてた」

「しっかりしてくれよ。お前は俺のナビなんだから。レース中は俺のサポートに専念してくれ」

「悪かった」

流れ込んでくる力と情報が安定したことに、MMは安堵した。




「くそっ!なんで今のが避けれたんだ。完全にタイミング合わせて、奴らの予想進路に撒いたのに」

「避けたにしては挙動が意味不明だ。マシントラブルか?」

「偶然で避けられてたまるか!死神め」

「おい、止めろ。WPを弾くのは早すぎる。うちも3周しなきゃいけないんだぞ」

「のんびりしてたら、42番が3周おえちまう。ここで仕掛けないと」

「"ジークフリート"がまだ周回を終えてない。ジークを勝たせなきゃ意味ないだろ」

「ジークなんて知るか!これはオデットの復讐だ。なんとしても奴は潰す」

「なあ、頭にきてんのはわかるけどよ……どうせなら、妨害とかにかまけてないで、ガチで飛んでオデットの代わりに、うちが上位入賞狙わねぇか?ジークもさ、オデットがいないなら、多少はうちもサポートしてくれるかもしれないし」

「ジークの連中はうちなんか眼中にない。せいぜい便利な掃除係ぐらいにしか思ってないさ」

オディールのパイロットは、自嘲気味にニヤリと笑った。

「しょせんうちは悪役だ。今さら真面目に飛んでも初日のペナルティでトップには届かない。憎まれ役はとことん一芸(妨害)を極めるのが花……せいぜい派手に散ろうぜ」

オディールのコパイロットは、苦笑した。相方のこういう変に男前なところに惚れて、毎度、汚れ仕事の片棒担いでる自分は、相当歪んでる自覚があったが、今さらそれをどうこうする気もなかった。




「また、WPが弾かれた。オディールの奴ら、今日で失格になっても構わん気か」

「WPに悪さをされると、タイムに響く。前に出る」

「どのみち3周目は避けれんぞ」

「2回影響受ける数を減らす」

「無理はするな」

「誰にものいってんだ」

言っても聞かないパイロットだったと、川畑はあきらめた。

「ロイ、今のWPは捨てる。拾いに行くロスの方がペナルティよりも大きい。ついでにこいつとこいつを無視して、この間を突っ切る。エネルギーロスは酷いが、一気に34番の前に出れる」

「合流点は中継機の近くだな。これなら相手も無茶はしないだろう。推進材足りるか?」

「足らせろ。いくぞ!」

MMはインプット済みだった最適進路をキャンセルして、手動でルートを外れた。




「42番が消えた?」

「いや、間隙を外れて、軌道高度を下げたようだ」

「ルートを外れたらWPのペナルティが入るぞ」

「どうせうちが何か細工すると踏んで、2、3個飛ばしにかかったんだろう。ばーかーめー。そのまま戻ってこれなくしてやる」

「どうする気だ?」

「上位軌道を押さえて、徹底的に蓋してやる。コースはこの後、1つ外側の間隙に遷移するが、そこには行かせない。根性で張り付いて嫌がらせしてやるぞ。ザマァミロ」

フハハハハと高笑いする相方に惚れ惚れしながら、オディールのコパイは推進材の残量を確認した。もともとオディールは諸々の小細工用に積み荷も推進材も多めに積んでいる。それをここで使いきるつもりなら、死神相手でも相当いいところまで食らいつけるだろう。上の命令でダーティな役目はしているが、相方はこれで存外優秀なパイロットなのだ。

「来るぞ。うちより前に出る気だ」

「ようこそ、ボケガラス。月夜に悪魔と踊ったことはあるかい?」


オディールの二人は知らなかった。

42番暁烏(デイブレイカー)の乗員はスピード狂で高機動大好きな鬼と悪魔だった。


その後の暁烏(デイブレイカー)黒鳥(オディール)の空中戦は、狂乱の182sと呼ばれ、動画は後に宇宙艇パイロット達の間で長く人気を博した。

この一戦は、42番に狂烏(マッドレイブン)という新たなあだ名をもたらした。

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