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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第7章 ワンスアポンアタイム インザ ユニバース

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トンボのいない夕焼け

目標捕捉(ターゲットロックオン)投下(アタック)

高高度から高速で降下した川畑は、抱えていた強化装甲を蜻蛉(ドラゴンフライ)(ドラゴン)に向かって投げ下ろした。バカでかいトゥーハンドソードを構えたダーリングは、インパクトの瞬間に、強化されたパワーで、思いっきり剣を竜の長い胴体に叩きつけた。

スピードとパワーの乗った一撃に、竜は体をくの字に折って、ダーリングごと山腹の雪だまりに埋まった。

「どうだ、人力メテオストライク!」

「人を隕石扱いするな!あと、これは人力ではないだろう!?」

雪の穴から出てきたダーリングは、銀翼で上空に浮かぶ白騎士に文句を言った。


「倒した?」

「まだだ。出てくるぞ。追撃用意」

「硬ぇなぁ」

爆発するように雪が舞い上がって、蜻蛉竜の大きな頭部が延び上がった。川畑はトンボやトカゲよりはムカデに近いその頭部に向かって、ミサイルを斉射した。

無駄にカラフルな爆炎をくぐって、ダーリングをピックアップした川畑は、露出した黒い岩頭に彼を下ろし、人が携帯するには大きすぎるガトリングガンを渡した。

「頼むぞ、固定砲台」


再び飛び上がった川畑は、銀色の光の粉を振り撒きながら、蜻蛉竜の目を引き付けるように飛行した。蜻蛉竜はギチギチと顎をならしながら、伸び上がって3対6枚ある羽を広げた。

ダーリングは目の前に無防備に晒された蜻蛉竜の腹側に、銃弾を可能な限り撃ち込んだ。

蜻蛉竜の腹側にびっしり生えた節のある脚が、派手に千切れ飛んだが、本体は大きく仰け反った程度で、ダメージはあまり入っていないようだった。蜻蛉竜は緩やかにうねりながら浮かび上がった。


(アンチ)魔法(マジック)防御(シールド)があるっていうから、物理で攻めたのに、物理防御もガッチガチかよ」

食いちぎられそうなぎりぎりで、竜の顎をかわしながら、川畑はダメ元でいくつか光学兵器を試したが、光線は竜の操る風の層でことごとく減衰するか、乱反射された。

「ムダ撃ちは止めろ!まったく通ってない」

「風の障壁が厄介だな。爆発の威力も削りやがる。近接しか無理か?」

「空中にいる奴を叩いても、衝撃を殺されてる。羽を始末して、地上に落とさないと」

「その羽が必要で狩ってるんだろ!」


川畑は蜻蛉竜の顎の前に、グレネードを投げてから、ダーリングの隣に短距離転移した。

「飛ぶぞ」

川畑はダーリングを後ろから抱えて、垂直に上昇した。

蜻蛉竜は目敏くそれを見付けて、巨体をうねらせながら追ってきた。

「どうする気だ」

「最初と同じ、高高度からのアタックだ。今度はこれで羽の付け根の一番細いところを狙う」

川畑の手元に、奇妙な道具が現れた。それは、持ち手の先に、リールと重りがついた小振りなけん玉のような形だった。川畑は重りの側をダーリングに握らせた。

「新作ロマン兵器"単分子ワイヤー"。元は軌道エレベータ用のバカみたいに引っ張り強度のある極細の糸だ。魔法世界に置換されて細部構造は変わっているが特性は同じ……気を付けないと指切るぞ」

川畑はダーリングの視野にワイプを開いて、作戦の模式図を表示した。

「行けるか?」

「やろう」

「よし!」


川畑は昇りつめた青空の高みで、綺麗にターンして、彼らを追ってきたために上下に伸びきった蜻蛉竜に向かって、真っ直ぐ降下した。ダーリングも川畑と向かい合うように姿勢を変え、強化装甲の黒い翼部を展開した。

「向かって左」

「俺が腹側」

白銀と黒の翼が銀の雲を細くひいた。噛みきろうと開いた蜻蛉竜の顎の間際で、二人はわずかに翼をひねって背側と腹側に別れた。二人の手の間に極細の糸が張られる。

川畑とダーリングはそのまま高速で竜の身体スレスレをすれ違った。


蒼天に昇った蜻蛉竜の片側の羽が3枚、きらめきながら宙に舞った。


「やったあ!」

空中で急停止して上空を見上げた川畑は歓声を上げたが、すぐにガクンと引っ張られて落ちた。

「バカ!手を放せ。滑空しろ」

重りにつながる糸を手元のリールで巻き取りながら、川畑は姿勢を崩したダーリングに向かって飛んだ。

地面に激突する寸前に開いた穴に飛び込んで、二人は近くの山腹の雪の上にぽすんと落ちた。

「あぶねぇ……ひやひやさせんなよ、元宇宙軍」

「貴様なら、対処可能な範囲だろう」

ダーリングは雪の上に大の字になった。上空から細長い透明な羽が3枚、ひらひら回転しながら落ちてくる。川畑が左手を軽く振ると、3枚の羽は彼らの直上に転移され、ダーリングの真横に突き刺さった。

「これで終わりか?」

「ああ。あっちに落っこちた本体を仕留めたらな」

ダーリングは起き上がって、川畑の隣に立った。

「仕方がない。まだ、魔力とやらの使い方も習得できていないし……やるか」


結構大変だった。




「へー、いい状態じゃないか」

材料の納品のために呼ばれた依頼人(ヴァレリア)は、少し得意そうな顔の男たちの前で、巨大な羽から細い繊維質を1本抜き取った。

「うん。試作品用にはちょうどいい。そこまで指定していなかったのに、先にこんなのを用意してくれるとは気が利くな。ありがとう。小蝿(フライ)(ドラゴン)の幼体の組織は柔らかいし、小振りだから使いやすいんだ」

満足そうにうなずいて、ヴァレリアは、川畑の肩を叩いた。

「こんな感じで蜻蛉(ドラゴンフライ)(ドラゴン)の羽も頼むぞ。数は100もあれば十分だから」

川畑は笑顔のまま、山の彼方の遠い空を望んだ。


「……ヴァレさん。もう一度、蜻蛉竜の画像見せてもらっていいか?」

ヴァレリアはポケットから長杖を取り出して、画像を見せてくれた。

「これ、縮尺は?隣に人を並べるとどれくらいのサイズ?」

「そうだなぁ、これくらいだ」

川畑とダーリングは、ヴァレリアの指の隙間を見て、確認しなければよかったと思った。

「わかっているとは思うが、こいつと違って、蜻蛉竜はかなり装甲も硬いし、魔法も使うから、あまり手を抜かないようにしろよ。群れを相手にすると厄介だぞ。なぁに、対魔法障壁なんて、より強い魔法で抜けるんだからお前なら気を抜かなきゃ大丈夫。二人で連携できるなら、できればクリスタルのさらに上位種を狙ってくれ。この先の高い山の火口付近にいて、手強いが性能はいい」

「……ああ、わかった」

「全部じゃなくていいぞ。10ぐらいそれなら、かなりいいものが作れるから」

「……そうなんだ」

「頑張れよ!楽しみにしている」

ヴァレリアは獲物を解体して、素材を選り分けると、上機嫌で帰っていった。


夕焼けに真っ赤に染まった山を見ながら、川畑とダーリングは、どちらからという訳でもなく呟いた。

「さて……」

「メシでも喰うか」


「わーい。おやまでごはんはピクニックだー。それともこれからキャンプかな?どっちにするの?ますたー」

「ボク、バーベキューがいいなー。マシュマロもやこうよ」

高原でバーベキューは、意外に楽しかった。




蜻蛉竜の納品完了までに、ダーリングは魔力操作と強化装甲での飛行を習得した。

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― 新着の感想 ―
遠い目になるやつぅ〜 ネトゲとかソシャゲの素材数見てスンってなるの思い出しますね
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