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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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閑話: ノーフリーランチ

賢者モルが、久しぶりに川畑の部屋を訪れてみると、客が来ていた。

「あ、モルル。久しぶり。お前もラーメン食べるか?インスタントだけど」

川畑が当たり前のように、手鍋で袋ラーメンを作っていた。見たことのない男は、びっくりした顔でモルを見ていたが、目があったところで一礼した。

「ども」

「ああ、ど、どうも……」

引きこもり気質の人見知りの賢者は挙動不審になった。

「ジャック、コレ、ここの大家のモル。大家っていっても特に気を使う必要はないぞ。モルル、俺が今、世話になっている宇宙船の船主のジャック。慣性航行中は汁物食べられないから、こっちで昼食食べてるんだ」

「お世話になってます」

「い、いえ。どーぞお気遣いなく」

ギクシャクと挨拶する二人の前に、熱々のラーメン丼が置かれた。

「先に食べてくれ。俺、もう一人前作る。安いインスタントだから、さめるとのびて不味いぞ」

モルとMMは顔を見合わせたが、とりあえず目の前で湯気をあげているラーメンを食べることにした。




食後のお茶をすすりながら、川畑はのんびりと言った。

「今度、ジャックの世界のマーケットで食材買ってなんか作ってみるか。調理簡単そうなもので食いたいものあるか?」

「いや、俺は食い物はカロリー取れればいいって生活だったから、レーション以外は酒場のつまみぐらいしか知らない」

むしろ最近、川畑に餌付けされつつある気がして、色々心配になっているというのは、さすがに黙っておいた。

「宇宙船があるような文明世界なら、よほどのデストピアでなければレシピ集ぐらい簡単に入手できるんじゃないか?」

「なるほど。さすが賢者」

「バカにしてるだろう」

「んなこたないぞ。そうだ。この前の世界で断念したお菓子作りチャレンジしてみるか。レストランとかで出たデザートは旨かったから、あの世界の材料とレシピは期待できるぞ」

「わーい」

「やったー、おやつだいすきー」

上手にできたら妖精王のところのみんなにも持っていってあげようなどと、楽しく話していると、MMがおそるおそる尋ねた。

「ロイ、さっきから聞いてると、どうも俺の世界以外に別の世界があるみたいな話なんだが、それは恒星系が違うとか星域が違うとかそういうレベルではなく、世界まるごと?」

川畑はしまったという顔をした。

「ますたー、ジャックにもはなしちゃおうよ。いいでしょ」

「おうちにつれてくるオトモダチだもの」

モルは一同を見回してあきれた顔をした。

「なんだお前、異界の話もせずにこんなところに現地人を連れてきてたのか」

「な、なんかヤバいところなのか?航行中の宇宙船から繋がっているにしては変だなとは思ってたんだけど」

モルは川畑を半目で見た。

「ここは他の世界から独立した異界だよ。昔、私が作ったんだ。今はこいつが好き勝手改造してる」

「あー、世界のルールとかはちょっと違うけど、ジャックの体に負荷はかからないように設定したから大丈夫。ジャックとはリンクしたままだし、ちゃんと時々体調も確認してるけど、異常は見当たらないから。心配ならこのモルルに身体検査してもらうか?オススメはしないけど」

MMは説明されればされるほど、心配になる現状に頭を抱えた。




「そういえば、モルル。俺、転移の出現時間の調整をだいぶできるようになったぞ」

「へぇ、それは凄い」

頭が痛いというMMを布団に寝かせて、川畑とモルはお茶のお代わりを入れた。

「同時に複数箇所の転移面を開いて、同一転移先に時間差で出現させるところまではできるようになった」

「うん。条件が複雑すぎて、基本の1個体の転移からそこまでに、何が含まれているのかわからないな」

「ワールドプロパティの情報量が多い世界でも、ある程度、位置と時間を指定して転移できるようになったんだ。これで俺が元いたところに帰れる可能性が高くなったぞ」

「よかったな」

「とはいっても、まだ練習が足りないし、精霊力も理力もない世界で、どうやって絶対時間の座標を特定するのかわかってないから、まだまだだけどな」

茶を飲む川畑を見ながら、モルはこっそり安堵した。


帰還の話題を変えたくて、モルは別の話を持ち出した。

「そうそう。まだまだ、といえば。お前、開発中のオプション装備持ち出したか?」

川畑の湯飲みを持つ手が止まった。

「改修中の甲冑も使った形跡があったし……またなんかやらかした?」

布団のジャックの隣にいた妖精達がクスクス笑った。

「あー……真空空間での実地試験を少々」

「"試験"というからには記録は取ったんだろうな」

モルににらまれて、川畑は目をそらした。

「レポート提出!及び監督官を交えての追試験を要求する!!」

モルはプンスカ怒りながら川畑に命じた。


「えー、だってお前、出掛けたくないし、面倒だから、実地評価試験はやらないっていってたじゃないか」

「私が出掛けるわけないだろう。監督官ってのは、実際に作った奴を行かせるってことだよ」

「えっ?開発者別にいるのか?」

「多少のマジックアイテムならまだしも、がっつり金属パーツ工作するなんて、賢者の仕事の範囲外だよ。私は基本の設計だけで、作成は外注に出してる」

川畑は改めて言われてみると、この非力な小動物(モルモット)が、機械工作は無理だということに納得した。

「あの開発途中で試させられた外道構造の甲冑の数々も?」

「工作が難しいのは、そう。最終調整は私がやったけど……後で、試着記録見せたら、今度から最終調整までやらせろって怒られた」

ちょっとシュンとしたモルの頭頂部を見下ろしながら、川畑はさもありなんと思った。自分が開発した鎧が、調整ミスで着用者に噛みつくところとか、まともな技術者なら見たくないだろう。


「オプション装備も、実地試験やらせろって言われてたんだけど、試験会場の手配とか面倒だから断ってたんだ。真空環境と転移面を繋げるのって難しいし、観測用の与圧区画用意するのも大事だし」

モルは、「考えただけでめんどくさい」とでも言うように、ぱっちりした目をくるりと回した。

「でも今ならお前、そこの奴の宇宙船とやらに乗っているんだろ、じゃぁ、行くの簡単じゃないか。監督官を呼んでやるから、お前、そいつの宇宙船に監督官を乗せて試験やれ」

モルの華奢な指を鼻先に突きつけられて、川畑は若干のけ反りながら、ちらりとMMの方を見た。

「一応、彼にはそこまでばらしてないんだけど……」

「じゃぁ、説明して協力させろ。どうせ一宿一飯どころじゃなく世話してやってんだろ」

「うちの安いメシでそこまで巻き込むのは申し訳ない」

「お前と関わった時点で、十分に災難なんだから、まだ一緒にいる気なら、お前が次にやらかす前に事情は説明しておけ!」

「本音は?」

「使える奴は使え」

「可哀想に」

川畑はかぶりをふった。




「という訳で、うちの知り合いのマッドサイエンティストが作ったびっくりドッキリ兵器のテストに付き合ってもらいたいんだ。手頃な岩礁とかある?少々吹き飛ばしてもばれない奴」

起き抜けにそんな頼みごとをされて、MMはもう一度布団に倒れ込んだ。

タンスターフルという言葉が、「無料の昼食はない」という英文の英単語の頭文字をつなげた言葉だと知ったのは、実はつい最近です。

英語まともに習う前に知った語句なので、普通にスラングかなんかでそういう語があるもんだと思って使っていたよ……。

キッコーマンが亀甲紋様の中に萬の字があるからといわれたときと同じくらいショックでした。

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― 新着の感想 ―
エピ2というか承前って感じかな。 次章も楽しみです〜 新キャラも!
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