実地検証(ロマン兵器祭り)
『ますたー、こっちにとんでくるのがいたよ』
『キャップ、どんな奴で、いつここに来る』
『あのねー、おっきいの1コと、ちゅうっくらいの2コがゆっくり。すごくちっちゃいのが6コすんごいスピードですぐくるって。たぶんムジンセントウキだってさ』
"艦長、失礼します。緊急事態です。艦橋にお戻りを"
「今、行く」
席を立ったダーリングに、川畑はキャップの視界から得たハイパーソナーの解析画像を見せた。
「高速で接近する未確認機6。無人戦闘機だとさ」
「見逃したもう一隻の奴らだな。ここで戦争を始める気か!?」
「なんとしてでも"海難事故"で使節団を始末したいんだろうね。この船に乗っていることは極秘なんだろ?落とされても公式に文句はつけられないとふんだんだろう」
「くそっ、高機動の無人戦闘機複数相手は分が悪すぎる。こっちは艦載機もミサイルもないんだぞ」
川畑は1つため息をついて席を立った。
「D、少々のルール違反はOKだったよな」
「はい、少々なら」
川畑は親切そうににっこり笑った。
「じゃあ、お前にいいこと教えてやる。キャプテンが人魚の入り江でバカンスしてたぞ。今すぐいけば捕まえられるかも知れない」
「えっ!本当ですか?でも、今ここを離れるわけには……」
「いいよ。お前いても役に立たないから、行ってこいよ。そっちが本業だろ?」
「はい。そうですね。じゃあ、少し行ってきます。無茶しちゃダメですよ!」
帽子の男が姿を消すと、嘘くさい笑顔をダーリングに向けた。
「あんたも行けよ。知らないで合わせるのと、知らないフリするのどっちが得意だ?」
ダーリングは口をおもいっきりへの字にして川畑を睨み付けた。
「どうせリンクしてるんだ。手段に口はださんから、必要に応じて状況は報告しろ。合わせてやる」
「了解」
川畑はまっすぐに立って胸を張った。
「着装!」
両手をグッと握りしめると、手袋から黒いエフェクトが出て、全身を覆った。緑光が体表を区切るように走り、白い装甲が出現して、掛け金をかけるように大きな音を立てて、体を覆った。装飾の多い頭部装甲が、額の青い宝石を中心に変形を完了すると、目に当たる部分に緑色の光が走る。白い異形の騎士が両手を広げると、その背後に白銀の硬質な翼が出現した。
『カップ、キャップ、ついてこい』
『はーい』
『あいさー』
どこからか現れた青と黄色の光が、騎士の肩に乗った。
「代謝を内循環に変更。外形の3次元断面を基準に異界発生。外界との物質交換を制限。熱交換は体内温度を保つように自動調整、過剰な放射線諸々は理力変換して吸収っと……よっしゃ、これで宇宙でも大丈夫だろう。行ってきます!」
軽く手を振ると、異形の騎士は銀色の煌めきを残して姿を消した。
「艦橋に行きましょう」
上品な老婦人は、魚の死んだような目で、艦長を促した。
『カップとキャップには、また雪崩のときみたいに、俺の目になってもらう。今度は音はないけど、すっごく速いからしっかり見てくれよ』
『ますたー、ボク、ずーっと"はいぱぁそなぁ"のところで、ノイズキャンセラーしてたから、フォースのゆらぎで、とおくのものを"きく"ほうほうわかったよ』
『わー、カッコいい!キャップ、ボクにもおしえて』
『いいよ。いっしょにやろう』
カップとキャップはじゃれあうようにくっついて、ヒソヒソ耳打ちしあった。
『それなら、そいつもお願いするとしよう。立体視のために、位置取りするぞ。ターゲットが来るのはこっちの方角だったな。……じゃあ、キャップはここ』
『あいさー』
『ずーっと離れて、カップはここだ』
『はーい。ますたー、がんばってね』
『どうせだからモルルの試作兵器、片っ端から実地検証してやる』
川畑はブルーロータスを遠く背にして、カップとキャップと二等辺三角形を作る位置に陣どった。
「おーい、ジャック~」
MMは突然、妙にテンションの高い声で話しかけられて、びくりと体を震わせた。
「お前か、今どこだ?俺、いつまでここで待機してればいいんだよ。ブルーロータスはどうなった」
「今取り込み中で危ないから、もうちょっと待ってくれ。それより、そこに雪だるまあるよな。正面モニタに映してくれ」
MMは言われた通りにした。
「もっと拡大して……そうそう。その画面に点々と黒っぽく見えてるものに寄せてピント合わせてくれ。画面下の数値って、見えてるものまでの距離だよな?」
「ああ、そうだ。船首からの距離だ。隣の数値は画面中心と船体主軸間の角度」
「わかった。しばらく正面モニタ全体を見て動かないでくれ」
MMは姿の見えない声の主が、自分の目を通してここの光景を見ているのを感じて、泣きたくなった。
それでも言われた通りモニタを見ていると、画面中央の塊が消失した。
「ありがとう。もういいぞ」
「何をしたんだ?」
「漂流物に含まれていた重金属のインゴット……密輸船の積み荷だな、それを1つ回収させてもらった」
一段落したら、また連絡すると言って、気配は消えた。
MMはモニタの倍率を戻しながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「では、手頃な弾も用意できたところで……キャップ、位置くれ」
「ここだよ~」
真っ暗な宇宙の向こう側で、小さな鈴の音が聞こえた。川畑は音のする方を見据えた。
「ロマン兵器1号。リニアレールガン。リング展開!」
大きなリングが、川畑の正面に直線状にずらりと並んだ。
川畑は、重金属のインゴットを、片手に持った巨大でいびつな装置にセットした。
「1で構えて、2で落ち着いて、3で狙って……」
巨大な装置の端々から光が漏れた。
「4でショット」
装置から突き出たレールから放たれたインゴットは、正面のリングを通過する毎に加速され、凄まじい速度で飛翔して、無人戦闘機の1つを貫いた。
クリスタルガラスが砕けるような、音がして、ターゲットの反応が1つ消えた。
『たーまやー』
キャップが楽しげに声を上げた。
残りの5機はすぐに散開してランダムに加速した。
「ロマン兵器2号。レーザービーム」
川畑の手からいびつな巨大装置が消えて、一抱えもある太くて長い砲身の両手持ち銃器が現れた。
いつの間にかリング列も消えた空間の彼方に向かって、川畑は照準を合わせた。
チリーン……。
鈴の音に向かって放たれた不可視の光線が、無人戦闘機を焼いた。
クリスタルガラスが砕けるような、音とともにターゲットがまた1つ消えた。
『レーザービーム、みえなかったよ』
カップが不満そうに言った。
「そりゃそうだ。限界まで収束した光線が、拡散させる大気のない真空中を、向こうに向かって放たれたんだから、脇からは見えないし、見えた奴は当たってる」
「おもってたのとちがう~」
「減衰しない光速兵器、強いんだけどなぁ」
ロマンが足りないとのブーイングに首をかしげながら、不評の2号をしまう。
「それじゃぁ、軌跡が見えるシリーズ行こうか」
川畑は飛来した残りの無人戦闘機を迎撃しに飛び出し、ドッグファイトに入った。
小刻みに加速して軌道を変える無人戦闘機に、まとわりつくように回り込んで接近すると、川畑は叫んだ。
「納豆ミサイル弾幕!」
白い鎧の肩とふくらはぎの装甲が開くと、本来、川畑の肉体があるはずの空間から、ミサイル弾頭がみっちり並んだランチャーが突き出した。
あきれた数のミサイルが射出され、無駄にカラフルな煙の尾を、納豆の糸のように長々と後にひいてターゲットに迫り、近接したものから順に派手に爆発した。
無人戦闘機と白銀の騎士は、ミサイルと爆炎の間を掻い潜りながら、お互いに回り込み合って飛んだ。
「ホーミングレーザー」
騎士の5指から放たれた光の筋がうねりながらターゲットに追いすがった。なぜか見えるし、なぜか曲がる謎光線を回避するために、敵機は有人機にはできない高G加速による転進を繰り返した。
避けきれなかった1機が目の前で爆発するのをかわして、川畑は爆炎を突き抜けながら、次のターゲットを捕捉した。
狙われた僚機をかばうように、2機がかりで両側から挟み込んで撃ってくる敵機を、アクロバティックな機動で翻弄しながら、川畑は両手に次々と銃器を出現させて連射した。
「やっぱり通常兵器は戦闘機落とすのには向いてないな」
ターゲットに競り勝って、後ろを取った川畑は、次の大型武器を構えた瞬間、嫌な予感がして、身をひるがえした。
取り出しかけていた大口径のパルスレーザーガンが、赤熱して爆散する。川畑はとっさに魔王マントを出して、爆炎と破片を防いで飛び退いた。
一旦翼をしまい、体を回転させて、脇から狙ってくる敵機のレーザー攻撃をマントで弾くと、その敵機後部に転移して張り付く。
振り落とそうと暴れる無人戦闘機の上で、加速重力による負荷を理力で軽減し、穴で慣性をキャンセルし続けながら、川畑は右手を振り上げた。
「最終ロマン兵器、ドリル」
右手に出現した黒鉄色の円錐に、先端から螺旋状に緑色の光が走る。
川畑はその謎兵器で無人戦闘機を貫いた。
『ますたー、こっち!』
爆発する機体から飛び上がりながら、川畑はブルーロータスに向かった2機の位置を拡張した広域視野で確認した。
「最後はベーシックに行こうか」
マントが消えて、白銀の翼が開いた。翼端から銀色の雲を引きながら、彼は高速で飛翔した。接近に気づくのが遅れた1機の土手っ腹に、きれいに大穴が開いた。
爆発を背に、ブルーロータスの船体に着地した川畑は、銀色の円筒形を取り出した。円筒を握った右手に添えた左手を払えば、それに合わせて、緑光のブレードが現れる。
両手で剣を構えて、ターゲットを正面に捉える。
「成敗!」
次の瞬間、転移した川畑は無人戦闘機の真上から光の剣を振り下ろした。
『ますたー、それなんかちがう』
「そうか?」
翼からキラキラと銀光の雫をこぼしながら、ゆっくりと宙を飛んで、川畑はカップとキャップを回収した。
『もっとカッコいいのがいい』
『もっとまっすぐハデにフィニッシュがいい』
「そうかー」
頭の上に乗った妖精二人のダメ出しに、川畑はちょっと思案した。
「おーい、艦長さん。準備はいいか?全員しかるべき場所にいるよな?ラスト行くぞー」
そういえば、全然、報告・連絡・相談をしていなかったので、いいわけ程度に一声かけてから、川畑は光剣を握り直した。
「カップ、キャップ。それじゃあ、お前達のリクエストに応えて、最後はいっちょ派手にいってみるか」
『やったー』
『ひっさつわざっぽいのプリーズ』
「行くぞー」
川畑は巨大なブルーロータスの真横に浮かんだ。太いメインシャフトを軸に、客室区画を支えるスポークシャフトが悠然と回っている。
川畑は全容が見える位置で、静かに剣を構え、光剣に力を込めた。
緑光のブレードが輝きを増し、馬鹿馬鹿しいサイズに巨大化した。
「一刀両断」
川畑はキロメートルはあろうかという長大な刀身をまっすぐ振り下ろし、ブルーロータスのメインシャフトを、中程で真っ二つに断ち割った。
ブルーロータスの水の花弁が、フィールドジェネレータの設定を無視して、無理やりに、つぼみのように閉じて、細く船体を包み込む。
水流が生き物のように誘導され、断ち割られたシャフトの断面が白く氷結した。
断面の中間に巨大な穴が出現して、ブルーロータスの後ろ半分を飲み込むようにゆっくり移動した。
まもなく、救難信号で駆けつけた救護艦と調査船が到着したとき、そこには、客室区画から先だけになったブルーロータスが浮かんでいた。
やりたい放題




