第85話
ハウジングエリアのマーケット用の掲示板で冬着を探す。自分用はすぐに見つけたがルキが着れるサイズの物がない。
小人族用のを試しに買って着せたけど少し大きかった。うーん。困ったな。
「ウィルじゃないか? こんなところで何しているんだい?」
掲示板から顔を声の主に向けるといつもの作業着姿のアテムアさんがそこにいた。
「アテムアさん、お久しぶりです。あの時は助けて頂きありがとうございました」
「なぁに、気にしなくていいさ。その子があの時の子なんだろう?」
「はい、そうです。この子の名前はルキって言います」
「ルキ、ねぇ……」
アテムアさんに見られるとルキは僕の後ろに隠れる。
「アテムアさん、この子に合うサイズの冬着とかって作れたりしますか?」
「冬着? クロウカシスにでも行くのかい?」
僕は頷き理由も伝えた。
「なるほどね。別に作ってもいいさ」
「じゃ――」
アテムアさんは僕の顔の前に手をかざす。
「話は最後まで聞きな。素材はそっちで集めること。それが条件だ」
お金は十分ある。僕は頷いた。
「決まりだね。リストを送るから揃ったらハウジングの地下に来な」
リストを受け取るとアテムアさんは立ち去っていく。
僕はリストに載っている素材を買い漁っていく。どうにか今の所持金で揃えることが出来た僕はルキと一緒にクラン《蜜柑の園》のハウジングに向かう。
ハウジングについた僕は玄関に行くと扉が開き、アルナさんが出てくる。いつもより少しテンション低い?
そう思っているとルキがアルナのもとに行く。
「アナ!」
「ルキちゃん? それにウィルもいる」
「アルナさん、元気ないですけど、どうかしました?」
「ん? アテムアにこってり怒られちゃって、ね……」
また何かやらかしたのかと思うと苦笑してしまう。
「ウィル達はなんでここに?」
「アテムアさんにルキの洋服作ってもらう約束してまして」
「そうなんだ。ちょっと気分転換にダンジョン行ってくるわ! アテムアなら地下にいると思うから! じゃあねー」
アルナさんは転移結晶のアイテムを使い何処かのダンジョンに行ってしまった。勝手に入ってもいいのかな?
「お邪魔します……」
ハウジングに入ると音はなく誰もいないかのように静かだった。
「シーンとしてるね」
「そうだね」
ルキを連れてエレベーターに乗り地下に向かった。案の定、初めて乗るエレベーターにルキは興奮していた。
はしゃいでいるルキを見ていると直ぐに地下へ着き、扉が開くとアテムアさんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「遅い!」
「す、すいません!」
割かし早く来たと思っていたけど、遅いと怒られてしまった。
アテムアさんに素材を催促され急いで渡す。
「よし、素材は揃っているな」
ポケットからメジャーを取り出すと目にも止まらない速さでルキを採寸して行く。
「直ぐ出来るから上で待ってな!」
そう言いアテムアさんは部屋に入っていく。
アテムアさんがあそこまで怒っているのを見るのは初めてだ。一体何をしでかしたのか……
僕達は言われた通りに一階にあるふかふかのソファーに座って待つことにした。
「あのひと、こわかった……」
ルキの頭を撫でながらアテムアさんを擁護する。
「いつもは優しい人だから怖がらないであげて? それに、ルキの洋服作ってくれるんだからちゃんとお礼は言うんだよ?」
「はーい」
しばらく待っているとエレベーターが上がってきて両手に何かを抱えてアテムアさんが降りてくる。
「お待たせ」
ルキの前まで来たアテムアさんは抱えていたのを広げる。
白のジャケットに首周りには温かいもふもふが付いている。そしてフードには猫耳まで付いていた。
ルキは受け取り着て見るとくるっとその場で回るり、目をキラキラさせている。
「わあああ……! かわいい……! ありがとうアテ!」
「それは、アタイのことかい?」
「うん!」
「そうかい……」
喜んでいるルキを見てアテムアさんの頬が緩んだように見えた。
「アテムアさん、こんなに可愛いの作って頂きありがとうございます」
「なぁに、さっきビビらせちゃったお詫びだよ。それと、これはお前にだ」
そう言われ僕は受け取り広げるとルキと一緒のデザインのジャケットだった。猫耳……獣の耳あるんだけど……それよりも、これ着るの恥ずかしいんだけど!
「あ、ありがとうございます……」
「あ! ルキとおそろい!」
「そ、そうだね」
これ着ないとルキ悲しむよな……はぁ……着るしかないか。
僕の表情を見たアテムアさんはいたずらが決まった子供のような顔をしていた。
アテムアさんに問い詰めようとすると踵を返し、エレベーターに乗り地下に降りていく。逃げるの早いなぁもう。
諦めた僕は《蜜柑の園》のハウジングを出て屋敷に戻り、ヘストが迎えにくる時間までルキと召喚獣達と一緒に過ごした。




