第32話
アルナさんとアイリスさんが作った豪華な料理がテーブルに並べられており、案内された席に座る。そして全員が揃い祝勝会が始まった。
アルナさんがグラス持ち音頭をとる。
「初ダンジョンクリアを祝して乾杯!」
「「「乾杯!」」」
僕と夏樹は豪華な料理に舌鼓を打つ。
「料理美味っ!」
夏樹は遠慮くなくどんどん食べていく。少しは遠慮して欲しいんだが……
「へへっ! 美味いでしょう! ウィルもどう?」
「えぇ、美味しいですよ」
「へへ、でしょう! やったねアイリス!」
「う、うん……」
アイリスさんは小声で答えた。
ビールのような飲み物を一気飲みしてジョッキーをドンっとテーブルに置いたアテムアさんが尋ねる。
「あんたたち次のダンジョンも攻略するんだろう? その防具でも問題はないがクィーンクヴァレ亜種のドロップアイテム使えば更なる強化出来るがどうする?」
「はい、その予定なんですが移動に馬車で一日掛かってしまうと聞いて、攻略するのは連休最終日かなと」
ダンジョンとダンジョンの間はそれぐらい離れている。ただ、一度行けば転移結晶の機能が増え、直ぐにその場所まで行けるようになるはありがたい。
ちょっとした旅行だと思えば苦でもない。
「なので防具はこのままで大丈夫です」
「っち。そうかい」
アテムアさんから舌打ちが聞こえた。気のせい?
「アテムア、舌打ちをするな。ウィリアムに失礼だろう」
「ふん!」
アレイヤさんは頭を抱えている。
「たく……すまないウィリアム。アテムアは新素材を弄れると思ってたらしくてな。本当にすまない」
「そうなんですか……あ、じゃあ譲りますよ?」
「本当か!?」
僕の一言でアテムアさんは勢いよく立ち上がった。
「はい、いいですよ? 頃合いみてマーケットに出品しようと思っていましたし」
「なら、買取る! いくらがいい?」
アテムアさんの目の色が変わりちょっと怖い。
「え、えっと……基準がわからないのでアテムアさんにお任せしてもいいですか?」
そう言うとアテムアさんは何も言わず僕の所まで来てデコピンを放つ。
僕は少し涙目になりながら額を押さえた。普通に痛い。
「あんたお人好し過ぎだよ。アタイが安い値段を言ったらどうするんだい? あんた大損だよ?」
少し考え僕は言う。
「かもしれないですが、アテムアさんが喜ぶならそれでもいいかなって……痛っ! なんでまたデコピンするんですか!」
「あんたの心に聞きな!」
言っている意味が分からなく頭を傾ける。するとアテムアさんは深い溜息をつき画面を操作しだす。すると、僕の目の前にトレード画面が現れる。
「さっさと素材を選択しな」
「は、はい」
ポチポチと選び完了ボタンを押すとトレードが終わり僕の所持金に大金が振り込まれた。
その金額に僕は何度も数えた後アテムアさんを見る。
「こ、こんなに要らなっ……痛い!」
要らないと言うとしたらまたアテムアさんにデコピンされた。何度も同じところデコピンされて泣きそうになった。
「そのお金はあんたのものだ。返金はお断りだよ。それと交渉事は弟に任せな。あんたじゃ心配になる」
「えぇ……」
「じゃあアタイは地下室に籠るわ」
そう言いアテムアさんは部屋を出ていく。その後ろ姿何処か嬉しそうに見えた。
そして、夜遅くまで祝勝会が続き、終わる頃には時計は零時を回っていた。
僕と夏樹は《蜜柑の園》のメンバーにお礼を言い後する。
「兄貴、明日の馬車の時間なんだけど午前中にする?」
「時間は掛かるしそうしようか」
「了解」
噴水広場に向かいながら明日の馬車の時間を決めログアウトして、早々に眠りに就いた。




