第145話
昼時なのにギルドは閑散として、受付にもほとんど人が並んでいなかった。不思議には思ったけども今は有難い。空いている受付の所に向かい、ジョブクエストを受け、夏樹と別れて専用の部屋に向かった。殺風景で中心にサッカーボール並みの水晶が置かれている部屋に入る。
「では、ご武運を」
受付嬢は頭を下げ部屋の扉を閉めた。
部屋の中心にある水晶の前に進む。そう言えば、前来たときルキも一緒だったな。早くこれを終わらせよ。僕は水晶に手を翳して光に包まれた。
「ようやく来たか勇者よ! ぶははは!!」
光が収まり白い部屋で見回していると後ろから聞き覚えのある高笑いが響き渡る。
「え……なんでメフィストがここに……?」
本当なら与えし者が現れてくるはずなのにそこにはメフィストが立っていた。
「勇者に用があってな。少しばかり介入したのさ!」
「そうなんだ。僕もメフィストに聞きたいことがあるんだ」
「勇者の要件は分かっておる。あの子のことだろう?」
メフィストは指を鳴らすと、おしゃれなテーブルと椅子が出現した。メフィストに座るよう促され座ると空のティーカップに紅茶が注がれた。
「あの子が戻った故に悪魔達は更に活発的に動くだろう」
「それって、本格的に侵略が始まるってこと?」
「そう言うことだ勇者」
メフィストはティーカップに口を付ける。
「メフィスト、ルキは一体……」
「勇者がルキと呼んでいる少女は我らを統べる者。悪魔の長ルシファー様だ」
「ルシファー……」
オカルトとかに疎い僕でもその名前は流石に知っている。ルキがそんな存在だったとは。
「元々ルシファー様はあの時点で目覚める予定ではなかったのだが、どういう訳か成長途中で目覚めてしまって勇者に懐いてしまったのだ。これは面白いのが見れそうだと思い勇者にルシファー様を預けたのだ」
「なんで、頑なにルキの事を隠していたのに今教えてくれるんだ?」
「ただの気まぐれだ」
そう言ってメフィストはもう一度紅茶を飲む。
「ルシファー様は再び眠りに就かれた。次目覚める時は勇者の事は覚えていない、敵対すると考えてもいいだろう。勇者には助けに行くデメリットしかない。それでも、助けに行くのか勇者よ?」
そうメフィストに尋ねられたが僕の答えは変わらない。
「そんなの関係ないよメフィスト。ルキはもう僕……いや、僕達の大事な家族だ。家族を助けるのは当たり前だ」
「そうか……なら、勇者にこれをやろう」
すっとテーブルに金色の長方形の紙のようなモノを差し出してくる。
「これ、悪魔の招待状なの?」
手に持って確かめると悪魔の招待状だった。悪魔の招待状は黒い色なのにメフィストが渡してきたのは金色で思わず尋ねた。
「悪魔の招待状の中でも稀にしかドロップされない招待状だ。それを使えば勇者が望む場所に行けるぞ」
「ありがとうメフィスト」
「礼など要らぬ。我を楽しませてくれればそれでいい」
メフィストが立ち上がり、釣られて立つ上がるとテーブルと椅子が消える。
「期待しているぞ? ぶははは!」
メフィストはくるっと回り高笑いしながら白い部屋を歩き出す。すると、光にまた包まれて気が付いたら元の部屋に戻っていた。夢なのかと思いインベントリを見るとちゃんと悪魔の招待状がしまってあった。ということは夢じゃない。これでルキを助けに行ける。
「あっ! ジョブクエ!」
部屋を出て行くところで本来の目的を思い出し、再び水晶に手を翳すもうんともすんとも反応はなかった。
「え……なんで……?」
ジョブクエ失敗扱いになったのかな? 考えても仕方ないしもう一回受けに行こう。部屋を出て受付に向かった。
「兄貴おかえり。あれ、ジョブクエ失敗したの?」
「うーん、多分。もう一回受けてくるよ」
「了解」
夏樹と別れ空いている受け付き並ぶ。
「あの、ジョブクエをもう一度受けたいんですが」
「もう一度? ……熟練度はレベル1になっておりますので成功していると思うんですが……」
「え?」
急いでステータスを確認すると僕のジョブは召喚から神獣召喚士に変わっていた。
あんなのでジョブクエ成功してジョブチェンジしたのか……
ただ話していただけなのにと僕は思わず苦笑してしまった。




