第142話
頭上で滞空している黄龍からスキルの知識が流れてくる。僕が見上げると視線があった瞬間優しい光に包まれた。
ステータスを見るとHPとMPが回復していた。これが黄龍のスキル【神癒】か。対象の傷を全て癒すスキルだ。
「黄龍いくよ」
黄龍が頷き返してくれた。
「【神炎】!」
黄龍が右前足に持っている赤い玉から炎が放たれる。バアルは黒い障壁で防ぐけども炎は障壁ごと吞み込んだ。
「再生しないだ、と!?」
バアルが驚愕している声が聞こえてくる。黄龍のスキル【神炎】は受けた対象の再生系のスキルを使えなくする効果がある。おかげで、バアルのHPは減っていく一方だ。それでもまだまだHPはある。攻撃の手を緩めない。
「【神岩】!」
左前足に持っている白い玉から無数の鋭く円錐形の岩がバアル目掛けて飛んでいく。
バアルは黒い障壁を解き何処から出したのか黒い大剣で岩を砕いて行く。だけど、岩を砕く度に動きが遅くなっていき被弾が増えていく。
「貴様! 何をした!」
「あなたに言うとでも?」
「キサマアアアアアア!」
激怒したバアルは岩に当たりながらもこちらに向かて来るが避けなかったせいで更に動きが遅くなり僕の目でも捉えることができた。
【神岩】は受ける度に動きが倍になって遅くなるスキルだ。これでようやく見えるって相当早かったんだな。
バアルが近づいて来るタイミングで僕は次の行動に移す。
「【神水】!」
左後ろ足の黒い玉から清らかな水が放出されバアルは全身で受け壁まで押し流されていく。
「なんだ、これは……! 力が抜けていく……!」
【神水】は対象に色んな弱体のデバフを付与するスキルだけど、効くのはアンデット系とゴースト系の敵モンスター。バアルにも効いたってことは悪魔にも有効ってことだな。
「これで、最後だ【神風】」
右後ろ足の青い玉から風の刃が倒れているバアルに襲い掛かる。バアルは黒い大剣で防ごうとするも【神風】によって大剣は真っ二つに折れ、バアルに大ダメージを与えレッドラインに入る手前まで削れた。あと一押しだ。
「まるで……悪魔のようだな」
吐血したバアルが睨みながら呟く。まさかバアルからこんなこと言われるとは思わなかった。
「確かに人は時として悪魔のような振る舞いをするかもしれないけど、これは戦いで、お前たちはダンジョン内以外でやられても復活するんだろ?」
バアルは一瞬きょとんとするもすぐに大笑いする。
「誰から聞いた」
「さぁ、誰でしょうね~」
「ふん……ウィルといったな。浮遊城デモニオキャッスルで待っておるぞ」
「待ってなくていいよ! 【神罰】!」
バアルを中心に魔法陣が展開され、北に黒い柱、東に青い柱、南に赤い柱、西に白い柱が出現すると鎖が伸びバアルを捉える。そして、バアルの上空から全てを吞み込んでしまう程の光が照らされ、バアルのHPは無くなり消滅した。光が消えると同時に黄龍も姿を消した。
緊張の糸が切れ僕は床に倒れた。戦いに夢中で気付かなかったけど天井はほとんど無くなっていて徐々に暗かった空が明るくなっていた。夜通しで戦っていたのか……
「疲れた……」
僕は空を見ながら呟いた。
「ウィル!」
『ウィル無事か!』
声する方に顔向けるとルキと女王が走ってくる。その後ろにフード姿の奴――ストラスがいることに気づく。
「きゃあああ!」
ストラスはルキを捕まえ、それに気づいた女王が反撃するも吹き飛ばされる。急いで体を起こし女王を受け止める。
『すまぬ、油断した……』
「大丈夫ですか?」
『ああ、問題ない。それよりも……お主! その子を離すのだ! 勝負はこ奴が勝ったのだぞ! 約束が違うではないか!!』
フード姿の奴は甲高い笑いをする。
「くっくっく……それは王とそいつの間で交わされた約束、私には関係ない」
『下衆が!』
ここまで怒った女王は見たことはないけど、僕も激しい怒りを覚えた。
「では、この子は――」
「させねーよ! 【剣舞・闇】」
死角から近づいていた夏樹が黒い靄が掛かった刀を振るう。振るう度に刀がダブって見えた。
だけど、ストラスはルキを抱えながら軽々と避け、大きく距離を取った。
それを読んだのかアカネさんが待ち構えていた。
「その子は返して貰うわよ! 【フロストインパクト】!」
「くくく……効かない。じゃあね」
アカネさんの拳が当たる瞬間ストラスの体は透明になり、ルキと一緒にストラスはこの場から姿を消した。




