第130話
注文した料理を全て食べ終えレストランを出た頃には夜中の二時だった。
「兄貴、眠い?」
口を隠して欠伸した僕に夏樹が尋ねる。
「ふぇ? あー眠いけど、まだ平気……っ!?」
急に夏樹を両頬を手で挟まれた。
「な、なに?」
「今日ダンジョン行くんだからちゃんと寝なきゃダーメ。皆も一旦ログアウトするよ」
ヴェスナー達は頷いて、夏樹はインベントリから転移結晶のアイテムを取り出し屋敷に転移した。
空いている部屋を四人に使ってもらいログアウト。
皆で協力して寝る準備をする。今回は両親がいるから僕の部屋にヘストとクシュ。夏樹の部屋にヴェスナーとセゾンが寝ることになった。
「亜樹さん、起きてますか?」
電気を消して横になっているとヘストが話しかけてくる。
僕は体をヘストの方に向きを変える。
「ん?」
「えっと、この前、リビングで勉強していたんです。悩んでいたら兄が勉強を教えてくれて、その時に聞いたんです。どうして嫌っているかって」
僕は頷い話の続きを促す。
「そしたら、どう接したらいいのか分からなくてぶっきらぼうな対応になっていただけなんです。兄は俺のことをちっとも嫌っていませんでした。亜樹さんの言う通りでした」
「そっか。よかったな」
「はい、亜樹さんのおかげでです。ありがとうございました」
「僕は何もしてないよ。明日も早いし寝よう」
「はい! おやすみなさい!」
壁側の方に向きを掛け僕は眠りに就く。
翌日、朝食を済ませた僕達は早速ログインしてダンジョンに向かった。
今回向かうダンジョンはピラミッドの形をした《王家の墓所》と言う所だ。全部で十階層、罠が多く中ボスが五階層だけというダンジョンだ。墓所って聞いてゴーストやアンデット系が多いのかと思ったけど、ここでは多種多様なゴーレムが出てくるそうだ。しかも、下の階層に行くにつれゴーレムのHPも増え防御力も高くなる。幸い、魔法には弱いようで、魔法職が活躍できる場所だ。ちなみに、名前に王家と付いているがナハルヴァラには王家に当たるNPCはいないらしい。謎だ。
てことで、今回僕はは攻撃力を上げれるスザクと知力を上げれるゲンブを召喚することにした。いつも通りに小さくなってゲンブは僕の頭の上に。スザクはルキの頭の上に乗る。
「先行してマッピングしてくるっす!」
「気を付けて」
セゾンは完全に気配を無くしてこの場から姿が消えた。暗殺者から上位職のマスターアサシンにジョブチェンジしたことで更に性能が増したおかげで今ではほとんど敵モンスターとプレイヤーから気づかれなくなったそうだ。ただし、同スキル持つ者には通じないそうだ。
他の三人もジョブチェンジをしており、ヴェスナーは変形盾士から機工盾士へ。攻防の手段が更に増え、今以上に臨機応変に対応ができるようになった。
クシュは狩人から精霊狩人になった。矢を番えることなく放てるようになって、攻撃と回避が上昇した。
ヘストは爆炎魔導士から紅炎魔導士に。より一層火魔法を極めたらなれたらしい。威力も範囲も格段に伸びたそうだ。
「夏樹もジョブチェンジしたの?」
レストランの時にヴェスナー達の事は聞いていたけど夏樹の事は聞いてなかったと思い返して尋ねる。
「一応。、魔法刀士になったよ」
「魔法刀士? 前は武器に属性魔法を付与するんだったよね? 魔法が使えるようになったこと?」
「いんや。基本的に前と同じだけど付与できる属性が増えたんだ」
「そうなんだ。それって――」
「戻ったっす!」
先行していたセゾンが戻ってくると座って待っていた僕達は立ち上がった。
「兄貴、話はあとで」
「う、うん」
小声で夏樹が言うので話を切り上げセゾンに耳を傾ける。
セゾンはインベントリから地図を取り出し説明する。
「一応中ボス部屋の前まではマッピング出来たっす」
セゾンが先行してから一時間ぐらいしか経っていないのにそこまで行けるなんて凄いな。流石はマスターアサシンだ。
「出て来る敵モンスターは小型から中型のゴーレム。大体がストーンかブロンズで、今の俺っちらは問題と思うっす。で、五階層からは大型も出現するっすね。ダンジョン攻略していた他のパーティーが戦っているのを遠くから見たっすけどめちゃくちゃ苦戦していたっすね」
「了解。んじゃダンジョンに入りますか」
ヴェスナーの合図で僕達はダンジョン《王家の墓所》に足を踏み入れた。




