第107話
ログインした僕はルキと一緒にテラスに出る。
葉が茂り見上げるほどに成長した木が目に入った。
全然気にしてなかったらここまで成長していたんだな。ペペ元気にしているのかな。
僕は妖精の女王から貰ったリングに視線を落とし反対側の手でなぞる。
「久しぶりに行こうかな……」
「どこに?」
ルキは僕の独り言に反応する。
あそこなら他のプレイヤーの目を気にせず伸び伸び出来るな。
「どこか行くの?」
「んー、とっても綺麗なところ。ルキも気に入ると思うよ」
「ほんとうー! たのしみ!」
日葵のような眩しい笑顔のルキの頭を撫でる。よし、次の休みは妖精の花園に行こう。
そう思っていると通知が届き目を通すとアテムアさんからだった。
アテムアさんからって珍しいな。何のようだろう?
『アテムアさん、どうかしました?』
『アンタが映った動画をみたわ』
アテムアさんの言葉に僕は一瞬動きを止める。一応フードで顔を隠していたし、動画も荒かったら判断しずらいと思うけど……なんでわかったんだろう?
『べ、別人じゃないですか?』
『ウィル……嘘が下手だね。アタイが作ったオリジナル装備を見間違えるわけないよ。今ハウジングにいるんだろう? 今から行くから動くんじゃないよ!』
試しにとぼけてみるけど意味がなく、一方的に切られてしまった。
「どうしたの?」
「んー今からアテムアさんが来るって。お話ししているからその間は召喚獣達と遊んでてね?」
「ウィルといたいけど……わかった!」
ルキの頭を撫でてから召喚獣達を全員召喚する。
普段ならすぐに小さくなるのだが、今回はセイリュウだけ少しだけ小さくなって、他の三体はそのままの大きさだ。
スザクとビャッコとセイリュウは順番にルキを背に乗せて遊ぶ。ゲンブはテラスで座っている僕の隣に来て眠り就いた。尻尾の蛇は舌をチロチロさせて僕を見ている。指を近づけると舌で舐めたあと、頭をこすりつけてくる。うん、なんか可愛いな。
しばらくするとアテムアさんから屋敷に着いたという通知が届き、屋敷の中を通らず外から玄関に向かった。
「アテムアさん、こっちです」
玄関前で待っているアテムアさんを呼んで庭に戻る。
「アテーーー!」
セイリュウの背に乗って浮いているルキがアテムアさんに手を振っている。アテムアさんも手を振り返えす。
「あれは、大丈夫なのかい?」
「大丈夫です」
「そうかい。……あの動画はウィルなのだろう?」
「はい」
僕は素直に認めた。
「あの動画だけでよくわかりましたね?」
「あんたの事を知っているプレイヤーならわかるさ」
そういうものなのかとなんとなく納得する。
「それよりもウィル、装備を脱ぎな」
「え?」
色々聞かれるのかなと思って身構えていたら、いきなり装備を脱げと言われ思考が止まる。
「強化してやるから早く脱ぎな」
「あ、そういうことか……びっくりした」
「ん? どういうことだい?」
「あ、いや……気にしないでください……」
これ以上話を広げないように流す。
僕はアテムアさんに作ってもらった漆黒のローブを渡す。全然装備を変えずにやってこれたよな。これも召喚獣達のおかげなんだろう。
「直ぐ作るから一室借りるよ」
「空いてる部屋案内します。ルキ、中に入るけど来るか?」
今度はビャッコの背に乗っているルキに尋ねる。
「いく!」
ルキを背に乗せたビャッコが僕の後に続き、スザクとセイリュウは体を小さくさせて屋敷内に入る。
いつの間にか起きたゲンブはゆっくりと後を追ってくる。
沢山ある使ってない一室を案内すると、アテムアさんがインベントリから正方形の箱を取り出し床に置くと一瞬にして部屋中に見たことがない機械が設置された。
「簡易工房だ。さ、部屋を出て行ってくれ」
アテムアさんの言われた通りに部屋を出て行くと扉が勢いよく閉まる。
床に座って待っていると、ルキが膝の上に座り、僕の周り召喚獣達がリラックスし始めた。
しばらくすると扉が開きアテムアさんが出てきて装備を渡す。
受け取った僕は広げるて確認すると、前の漆黒のローブと見た目が一緒だった。
「見た目は前のと同じにしてあるけど、防御力は前の三倍はある」
僕はローブを羽織る。
「ありがとうございますアテムアさん。結構気に入っていたので嬉しいです!」
僕はアテムアさんにお礼を言う。
「ウィル、ちょっと急用ができちゃってな、後で回収するからこのままでしてもらえると助かるんだけど、さ……」
「いいですよ。あ、どうせならこのままでもいいですし、アテムアさんの工房?としても使っていいですよ?」
そう言うと凄い勢いで手を握られる。
「本当かい!?」
「え、ええ……」
「なら、設定でアタイが入れるよにしてくれるかい?」
そう言われてもやり方が分からず、アテムアさんに聞きながら設定する。
すると、アテムアさんの手に鍵が現れる。
「ウィル、感謝するよ! おっと、そろそろ行かないと。じゃあアタイは帰るよ」
「あ、はい。おやすみなさい」
「アテ、ばいばい!」
アテムアさんは上機嫌で屋敷を出て行った。
僕も時間的にそろそろログアウトしないといけなくなったので、ルキを寝かせたからログアウトした。




