第九十九話:白氷城防衛戦
攻城戦は三日三晩続いた。
敵の猛攻は休むことを知らない津波のように、繰り返し繰り返し、この白氷城へと打ち付けられた。
「怯むな! 氷壁を再構築しなさい! 凍晶‐シアンの真髄は、守りにあると、忘れたか!」
城壁の上で、セレスティーナ様の檄が飛ぶ。
彼女のマナは枯渇寸前のはずだった。だが、その気高い魂は限界を超えて燃え盛り、絶対零度の吹雪となって敵兵を薙ぎ払っていく。その姿は、まさに城を守護する白銀の女神だった。
(ああ、我が君…!どうか、ご無理を…!)
私の心は彼女の消耗を案じながらも、自らの戦場を駆けていた。
私の武器は、剣でも、魔法でもない。ただ、この頭の中にある前世の、中途半端な知識だけ。
「ここの通路、構造的に強度が低いはずです! 天井を一部破壊して、瓦礫で敵を足止めできます!」
「厨房から、ありったけの油を! 煮沸して、城壁の上へ! 敵の攻城櫓は、木製のはずです!」
私は城の構造図と前世の歴史戦記の知識を照らし合わせ、原始的だが効果的な罠を次々と考案し、兵士たちに伝えていった。
兵站管理も私の重要な任務だった。矢の一本、パンの一切れまで無駄にはできない。負傷者の数、兵士の疲労度、残りの食料。その全てを羊皮紙の上に書き出し、この城があとどれだけ戦えるのかを冷徹に計算し続ける。
私たちの必死の抵抗は、確かに効果を上げていた。
だが、その全てを敵は圧倒的な「数」という暴力で踏み潰していく。
一人倒せば十人が現れる。一つの罠を破れば百人がなだれ込んでくる。
そして、運命の四日目の朝。
ついに、その時が来た。
ズゥン、という城全体を揺るがす凄まじい衝撃。
敵が温存していたであろう巨大な破城槌が、南の城門に致命的な一撃を加えたのだ。
ぎぃ、と蝶番が悲鳴を上げ、分厚い城門に巨大な亀裂が走る。
「…お嬢様…!」
城壁の上で、セレスティーナ様が膝から崩れ落ちそうになるのを、私は見た。
彼女の魂核も、もう限界なのだ。
兵士たちの顔に、初めて絶望の色が浮かぶ。
もう、ダメなのか。
私が奥歯を強く噛みしめた、まさにその瞬間だった。
遥か南東の空。王都のある方角の空が、一瞬だけ温かい翠の光で瞬いた。
それは、か細く、そして儚い光。
だが、その光は確かに、この絶望に閉ざされた白氷城へと、真っ直ぐに向かってきていた。
第九十九話「白氷城防衛戦」、いかがでしたでしょうか。圧倒的な兵力差の前に、ついに城は、陥落寸前へと追い詰められてしまいました。
次回、第百話「最後の光」。絶望の戦場に、遠く離れた仲間からの、奇跡の援護が届きます。物語は、クライマックスへと、加速していきます。どうぞ、お楽しみに。
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