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第九十八話:守るべきもの

 白氷城は一夜にして戦場と化した。

 城壁の外ではライネスティア家の魔術師たちが放つ灼閃‐レッドの魔法が雪原を赤く染め、律章復興派の狂信者たちが鬨の声を上げながら城門へと殺到する。

 絶望的な兵力差。だが城の中では誰一人として諦めてはいなかった。


「――第一防衛線、土鎧‐アンバーの壁を展開! 敵の攻城兵器を止めなさい!」


 城壁の上でセレスティーナ様が凛とした声で指揮を執る。その姿はもはやただの令嬢ではない。故郷と民を守るためその身に宿る強大な魔力を解放した、気高き女王そのものだった。彼女の凍晶‐シアンの魔法が城壁を駆け上ろうとする敵兵を次々と氷の彫像へと変えていく。


 その圧倒的なカリスマに呼応するように、城の者たちもそれぞれの戦いを始めていた。


「お嬢様を、そして、この城を、好きにはさせん!」


 老執事はその長年の知識を活かし、城の地下に張り巡らされた秘密の通路を兵士たちに示していた。それにより兵士たちは神出鬼没に敵の背後を突き、少数ながらも効果的な反撃を繰り出すことができていた。


「兵士たちを、飢えさせてはならん! 温かい食事こそが、士気を保つ、最後の砦じゃ!」


 厨房では料理長がその腕を振るっていた。限られた食材の中から栄養価の高い温かい月芋のシチューを大量に作り、前線へと運び続ける。その湯気と香りが凍える兵士たちの心をどれほど温めたことだろうか。


 そして、私は。

 砕け散った心のまま、それでも私にできる戦いを始めていた。

 私は前世の中途半端な知識を総動員し、城の防衛に役立ちそうな罠の設置場所を兵士たちに助言した。また料理長と共に限られた食料の効率的な配分計画…兵站管理を担った。


 戦火の中、必死に走り回りながら、私は見ていた。

 怯えながらも負傷した兵士の手当てをする若い侍女たちの姿を。

 武器を手に取り兵士と共に城壁の上に立とうとする年老いた庭師の姿を。

 彼らはただの名もなき民。だが彼らには守るべきものがあった。

 この白氷城という故郷を。そしてその故郷を命を懸けて守ろうとする、気高き銀髪の女王を。


 その時、私は初めて心の底から理解したのかもしれない。

 私が守りたかったものは、ただセレスティーナ様という一人の「推し」だけではなかったのだと。

 この気高く不器用で、そしてどこまでも優しい人々が暮らす、この「故郷」そのものを、私は愛していたのだと。


(そうだ……ここが、私の、還る場所……)


 私の砕け散った心の、その欠片が一つ、また一つと、この白氷城の冷たく、しかし温かい土の上で繋がり始めていくような、そんな不思議な感覚。

 私は顔を上げた。

 私の戦いは、まだ終わってはいない。


 第九十八話「守るべきもの」、いかがでしたでしょうか。絶望的な籠城戦の中、リリアは、自らが本当に守りたかったものに、気づき始めます。

 次回、第九十九話「白氷城防衛戦」。戦いは、さらに激化。リリアも、自らの知識を武器に、反撃を開始します。どうぞ、お楽しみに。


ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

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