第七十一話:共犯者たちの、秘密会議
その日の夜私たちの秘密基地である温室はいつになく重い沈黙に支配されていた。
クロイツェル教授の講義は警告という名の呪いとなって私の心に深く突き刺さっている。私はセレスティーナ様と放課後すぐに合流してくれたシルヴィア様に今日起きた出来事の全てを正直に打ち明けた。
私が体験した不随意の幻視。過去のヴァイスハルト家が関わった悲劇の断片。そして時間が逆流するあの冒涜的な「残響」。最後に教授が語った「大潮期」という世界の理そのものが乱れる災厄の季節について。
私の報告を聞き終えたシルヴィア様はその穏やかな顔からサッと血の気を失っていた。
「……大潮期ですって……? まさかこの年に巡ってくるとは……」
彼女は震える声で言った。
「我がドルヴァーン家に伝わる古の記録によれば、大潮期には世界のエーテルが荒れ狂い、ギフト保持者はその魂核を制御することが極めて困難になります。そして何より……」
彼女は心配そうにセレスティーナ様を見つめた。
「あなた様のように高いエーテル適合性を持つお方はその影響を誰よりも強く受けてしまうのです」
セレスティーナ様は黙ってシルヴィア様の言葉を聞いていた。その月白色の瞳は冷静さを保ちながらもその奥に深い深い思索の色を浮かべている。
「……父上の研究記録にあったわ。原因不明の大規模なマナ汚染事件。その全てがこの大潮期に集中している」
彼女の言葉に私は息を呑んだ。
敵の目的は明確だった。大潮期という最悪の舞台の上でセレスティーナ様の力を暴走させ、彼女を社会的に、そして物理的に抹殺する。それが奴らの描く筋書きなのだ。
「……待っているだけではダメね」
セレスティーナ様は静かに、しかし鋼のような決意に満ちた声で言った。
「奴らがその牙を剥く前にこちらからその喉元を食い破る」
その瞳はもはや守られるだけの令嬢のものではなかった。自らの運命をその手で切り開くと決めた女王の瞳だった。
(ああ、我が君……! その気高きお姿! このリリア、どこまでもお供いたしますわ!)
その瞬間からこの温室はただの秘密基地ではなくヴァイスハルト家奪還のための作戦司令室へとその姿を変えた。
私たちは一枚の羊皮紙の上に天媒院の見取り図を広げ、本格的な犯人探しを開始する。
「シルヴィア。あなたにはドルヴァーン家の力で学園内のエーテルの乱れを観測してほしいの。犯人が禁忌の術を使うのなら必ず特異な『淀み』が生じるはずよ」
「はい、セレスティーナ様。お任せください」
「フィンには引き続き物資の流れを。そしてリリア」
セレスティーナ様は私に向き直った。
「あなたのその力は危険な諸刃の剣。でも今の私たちには必要不可欠な切り札よ。……無理はさせないわ。私が必ずあなたを守るから」
そのあまりに力強い言葉に私の胸は熱くなった。
そうだ。私はもう一人で震えているだけのメイドではない。
この気高き女王様と心優しき森の姫君と共に戦うただ一人の剣なのだ。
私たちは見取り図の上にそれぞれの指を置いた。
三人の少女たちの小さな、しかし何よりも強い反撃の同盟が結ばれた瞬間だった。
ついに、三人の「共犯者」による、本格的な反撃が始まります。それぞれの能力を活かし、見えざる敵を追い詰めていく、サスペンスフルな展開にご期待ください。
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