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第四十二話:白亜の塔と、仮面の学生たち

 貴族議会でのあの鮮烈な宣言から数日後。

 私とセレスティーナ様は、たった数人の供だけを連れてヴァイスハルト家の壮麗な屋敷を後にした。


 向かう先は王都の一角にその威容を誇る王立天媒院。

 この国の未来と知性が集う場所。

 そして私たちの新たな戦場だ。


 馬車が荘厳な正門の前で止まる。

 私が先に降りてセレスティーナ様の手を取る。

 彼女が馬車から一歩外へ踏み出したその瞬間。私は肌で感じた。屋敷とは明らかに違う、空気に満ちる高密度のエーテルを。


 目の前に、天を突くように白亜の塔がそびえ立っている。その周りにはいくつもの校舎が、美しい庭園と共に広がっていた。

 集うのは王侯五侯をはじめとする有力貴族の子弟たち。誰もがその家名と自らの才能に絶対的な誇りを抱いている、エリート中のエリートたちだ。

 彼らの視線が私たち二人に突き刺さる。好奇、侮蔑、そして嫉妬。


 その渦巻くような視線の中、一つの、ひときわ甲高い声が響き渡った。

「あら、ごきげんよう、ヴァイスハルトの『氷の薔薇』様。まさか本当にこの天媒院にいらっしゃるとは思いませんでしたわ」


 そこに立っていたのは、燃えるような真紅の髪を見事な縦ロールにした一人の令嬢だった。その手には派手な扇子。取り巻きの令嬢たちを従えたその姿は、まさに「悪役令嬢」という言葉をそのまま体現していた。


 ツェルバルク公爵家の令嬢、イザベラ・フォン・ツェルバルク。そしてアルビオン王家の第二王子の婚約者でもある。


 イザベラはセレスティーナ様を一瞥すると、次に私の姿を見てあからさまに眉をひそめた。

「侍女まで連れていらして? やはり一人では何もできないのでございますね。まあ、あなた様のその不吉な銀髪では、お友達もできそうにありませんものね。お可哀想に」


「イザベラ、そのくらいにしたまえ」


 その鈴を転がすような、しかしどこか棘のある声を制したのは、柔らかなテノールの声だった。

 現れたのは陽光を弾く輝くような金髪と、澄み切った空色の瞳を持つ完璧な美貌の貴公子。

 アルビオン王国第二王子、エドワード・フォン・アルビオン。


「セレスティーナ嬢、ようこそ天媒院へ。君のような才能ある女性を学友として迎えられることを、心から歓迎するよ」

 王子は完璧な笑みを浮かべてセレスティーナ様にそう言った。

 だがその視線は、イザベラに虐げられていたのであろう彼の後ろで俯いている一人の平民の少女へと、一瞬だけ向けられていた。

 そばかすの残る亜麻色の髪の少女。エリアーナ。

 セレスティーナ様はその一瞬の視線の動きを見逃さなかった。


 そしてその全ての光景を。

 少し離れた場所から二つの対照的な視線が観察していた。


 一人はライネスティア家の制服を着た、知的な眼鏡の奥で冷たい瞳を光らせるラザルス。


 もう一人はドルヴァーン家の穏やかな雰囲気を持つ森色の髪の少女、シルヴィア。


(とんでもない場所に来てしまった…!)


 私は内心で頭を抱えていた。

 ライバルに悪役令嬢、王子様に平民のヒロイン…。まるで前世で読んだ物語のようだ。


 セレスティーナ様はそんな一触即発の空気を、ただ一言で切り裂いた。

「ご忠告、感謝いたしますわ、イザベラ嬢。ですが、あなたこそその扇子で殿方の心ばかりを扇いでいては、主席の座からは程遠いのではなくて?」


 イザベラの顔が怒りで真っ赤に染まる。

 セレスティーナ様はそんな彼女に一瞥もくれることなく、私の手を引き白亜の塔へとその一歩を踏み出した。


 宣戦布告はもう済んだ。

 私たちの華やかで、そして危険な学園生活が今、始まろうとしていた。


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