最終話:私が、あなたを【side:セレスティーナ】
空っぽの心。
それはあなたのことか。それとも、生き永らえてしまった私のことか。
絶望は静かで、そしてどこまでも深い湖の底のようだった。私があなたを救おうとすればするほど、あなたという存在が思い出という名の泡となって私の指の間をすり抜けていく。
その夜、私は眠れずにいた。
書斎の机に、あなたが淹れてくれた冷たい薬草茶が月光を映している。
あなたのいない世界は耐えられない。
だが、あなたの心を失ったこの世界もまた、同じくらい耐え難い。
ならば私はどうすれば――。
その時、私の脳裏にあなたの声が響いた。
私を絶望の淵から何度も引き上げてくれた、あなたのあの、愚かで真っ直ぐな声が。
『――伝えなければ、何も始まりませんから!』
そうだ。
あなたは決して諦めなかった。
ならば、私が諦めて、どうするというの。
私は、立ち上がった。
向かう先は、城の一番高い場所にあるテラス。
案の定、あなたはそこにいた。
手すりにそっと寄りかかり、ただ静かに凍てついた夜空を見上げている。
その横顔は氷の人形のように美しく、そしてどこまでも哀しい。
私はあなたの背後から、その冷たくなった体を強く、強く抱きしめた。
あなたの肩が驚きにびくりと震える。私の凍えていた指先があなたの背中に触れた瞬間、わずかに震えた。だが、その指にあなたの穏やかで力強い心拍が、トク、トクと伝わってくる。その温もりが私の氷の決意を溶かしていくようだった。
「お嬢様……?」
その声はまだ空っぽのまま。
だが、もう私の心は揺らがなかった。
私は、あなたの耳元で囁いた。
涙はもう流さない。
ただ不屈の、そしてどこまでも不敵な女王の笑みを浮かべて。
「あなたが、私を救ってくれた。その対価に、あなたの心を、私が奪った」
だからこれは「救済」などではない。
ただの私のどうしようもない我儘。
「ならば今度は、私が、あなたの心を、もう一度、私で満たす番」
あなたが私を好きになったように。
今度は私があなたを惚れさせてみせる。
「もう一度、私を
『推させて』
みせるわ、リリア」
その誓いは一人の少女へ向けられた、個人的な愛の告白。そして同時に、自らが背負う国の運命ごと一人の少女を、世界で一番幸せにすると決めた、女王の最初の産声でもあった。
最後までお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。
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また、同じ世界観で紡がれる別の物語もございます。あわせてお楽しみいただけましたら、この世界の奥行きをより一層感じていただけるはずです。
皆様からいただく応援の声の一つひとつが、セレスティーナとリリアの新たな物語を形にする何よりの原動力となりました。よろしければ、今後の期待など、お気軽にお聞かせください。
【追記】
続編は、セレスティーナが「想い」を失ってしまったリリアを、再び振り向かせようと奮闘する物語。コミカルで甘くて、でも少しだけ切ないラブストーリーに、秘密の要素(+α)を加えてお届けします!
続編はこちら →「 心を失った最強メイドを、今度はわたくしが『推し』ます !――氷の女王の推し活奮闘録:推しに推させろ、セレスティーナの情念」
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